2012年05月06日04時02分掲載  無料記事
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みる・よむ・きく

エリック・カール作「小さな雲(Little cloud)」   村上良太

  絵本作家エリック・カールの代表作は「はらぺこあおむし」と言われている。青虫が毎日、葉っぱから、果実さらにはお菓子の類まで食べてお腹をこわしたりするが、たくさん食べることでさなぎになり、蝶になる。それだけのシンプルな話だが、エリック・カールの絵には独特のユーモアと技巧があり、読者を魅了せずにはいられない。だが、今、ここで書きたいのはもっと地味な作品である。題は「小さな雲(Little Cloud)」である。 
 
  青い空に、白い雲がいくつも浮かんでいる。雲は家族になっているらしく、子供の小さな雲がはぐれて羊の形になって見たり、空を飛ぶ飛行機の形になってみたり、うさぎやかたつむりになってみたりする。雲から世界を見たら、こんな風に見えているのだろうか。やがて、雲の家族は子供雲に「もうお戻り」と言って呼び寄せる。やがて、雲は雨になる。あの小さな雲はどこへ行ってしまうのだろう。この結末には安堵と悲しみとが混在する。 
 
  どんなに小さな話でも、エリック・カールは必ず落ちをつける。そこにはもっともシンプルなお話の基本形がある。ちなみフロイトの息子が幼年時代に糸玉を床に転がしては再び糸玉を手繰り寄せ、「いなくなった。いた。」と一人遊んでいたのをフロイトが物陰から見て、これが物語の究極の形だと思ったそうだ。この話は開高健が世界最小の物語として紹介していた。 
 
  日常の中で出会う不思議な事柄に、落ちをつけてやれば話になる。子供は大人から、こうして話の基本形を教わる。子供の頃は世界の縮尺をもたないために、あらゆることが謎に満ちている。だから、子供が1日に吸収するものは大人の比較にならないほどある。地動説も、世界地図も、啓蒙主義も、世界史も、そうしたものはみなもっと後になって学習する事柄だ。しかし、幼児期の体験はそうした知識の詰め込みとは違って、自分の目で見、触って見たり、匂いを嗅いだりといったことで構成される。エリック・カールの絵本はそんな子供時代の驚きを独特のタッチの絵で再構成している。 
 
■エリック・カールのウェブサイト 
http://www.eric-carle.com/home.html 


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