2012年05月06日11時44分掲載  無料記事
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ロシアン・カクテル

(36)モスクワの「青いバケツ」対「エメーリャたち」 タチヤーナ・スニトコ

  「エミェリアーン」(略:エメーリャ;ロシア語:Емельян, Емеля)という名前はラテン語で「頑張り屋さん」を意味します。ところで、ロシアのおとぎ話「ひとりでに(カマスの命ずるところ)」(«По щучьему веленью»; カマス:(体長1,5 メトルまで、最大体重35キログラム)の食用川魚)の主人公エメーリャはばかで怠け者です。 
 エメーリャの時間の過ごし方はいつもペチカの上で寝そべっていて何もせずに過ごすことです。ペチカから降りて仕事をやる時は、何かプレゼントをもらったり美味しいものをもらう約束があるときだけです。 
 
 エメーリャはばかで怠け者だが幸運なところもあります。カワカマスに化けた魔法使い手を捕まえた時、カワカマスを放すことと交換に“特権”をもらいました: 
「カマスの命ずるままに! 私が望むままに!」という魔法の呪文を言いった瞬間に、エメーリャの望みがかなうのです。 
 
 エメーリャは馬なしの馬橇に乗りまわしたり、ペチカ(温かい「ベッド」から離れたくなくて)を操ります。 
 馬なし馬橇を乗り回す場面では、エメーリャは人々を轢くのです:「なぜ人々は私の馬橇の下に飛び込むのか?」とエメーリャは言う。ロシアの民話(フォークロア)に詳しい人は、その橇の乗り回し方(人々を轢くこと)はエメーリャが殿様系であることを表していると言います。 
 
 毎日、ミガールカ(ロシア語:мигалка、点滅警光灯とサイレンの装置)付の車がモスクワの大通りを高速で走っている。そのミガールカ付き車は対向車線に入り込んだり、赤信号を無視して交差点を渡ったりして事故を起しています。この車は消防車や救急車やパトカーではないのです! 
 
 多くの政府のお役人がその車で道路をハイスピードで飛ばしているのです!その人たちはモスクワ政府、ロシアの連邦議会、検察庁等々の官吏なのです。モスクワの南と西南の大通りをVIPが乗った車列がハイスピードで走っているのです。何故なら、政府の役人たちは郊外の自然豊かなところに好んで住んでいるのだけれども職場はモスクワの中心地にあるからなのです。 
 
 VIPたちの車列が大通りを通過する時には交通整理官は一般車を遮断するのです。これが市内の交通渋滞の大きな原因になっています。車のスピードが速過ぎるために事故が起こることは珍しくない。一例としてあげると、ドモデドヴォ空港へ向かったVIP車の車列が横断歩道中の一般人4人を轢いてその人たちは亡くなりました。 
 
 ミガールカ付き車に乗ることができるのは政府の役人の特典なのです! 
 ミガールカの「特別な番号」の付く車の数と特典をもらう人はプーチンが決めるのです。それ故、そのリストは時々変わるのです。ミガールカのための特典を得るためには役職(肩書)とコネが必要なのです。ところで、国家のドゥーマ(ロシア連邦議会国家院.)の代議員数は450人であるが、リストに載っている人数は900人なのです。2倍多い! 
 
 モスクワ総主教キリル1世(ロシア語: Патриарх Кирилл)もミガールカ付きのVIPの車列でモスクワを走っています。 
 
 権力に対する忠誠さで有名な映画監督のニキータ・ミハルコフもミガールカ付き車でモスクワを走っています。 
 
 テレビ番組でニキータ・ミハルコフは、「ミガールカを車から取るにはまだ時期尚早である。」と言いました。 
 
 ある守備隊員は休みの日にミガールカ付きの車でスケートに行きました! 
 
 「特別な番号」が付いた車が交通規則を守らないことに対して交通整理官は見てみぬふりをしています。 
「特別な車の番号」とは? 
例えば、(О...ОО) (С...СС)はFSB(ロシア語:ФСБ、「ロシア連邦保安庁」;元 KGB; ロシア語:КГБ「ソ連国家保安委員会」)の番号である。(О...ОО)という番号を人々は「三人のオリガ」(オリガはOlga;ロシア語:Ольга女性の名前)と呼び、(С...СС) という番号は「三人のセミョーン」(セミョーンSemyonロシア語:Семён、男性の名前)と呼んでいる。ボログダ地方のグベルナートル(首長;ロシア語:губернатор)の車の番号はА13500である。「35」は地方の番号であり、「1」は「地方では序列一番めの人(トップ)」を意味する。などなどです。 
 
 勿論、道路の走行に二種類の運転手の“カースト”が存在することに対して、その運転手差別は一般の人たちの怒りの声を招いています。モスクワの一般の運転手たちは反対の声として、プラスチックの青いバケッツを車に付け始めました。遠目には青いバケッツが国家のドゥーマの代議員のミガールカに似ている。反「鉄面皮運転」活動が生まれました。 
 
 「青いバケツ」はインターネット活動です。運転手は運転規則を守らない車についての情報、ビデオ、交通を止めている情報をサイト(http://ru-vederko.livejournal.com/http://perekrili.org/)に乗せて、交通整理官に知らせています;「道路と銭湯はみんな平等だ!」 
 
―「バケツを車に付けるのは違反ではないか?」 
― 「違反ではない。荷物を運んでいるだけだ!」 
 
 人気があるスローガンは: 
「ミガールカをはずせ!バケツを付けろ!“ 
「バケツはおかしいだけだが、ミガールカは恥しい!」 
「ミガールカはロシアの恥だ!」 
 
 2011年12月にモスクワと他のロシアの大都会で「公正な選挙のために!」(ロシア語:«За честные выборы» )というデモが行われた。東京でも12月10日にロシア大使館周辺で抗議行動が行われました。集まった人たちは、清潔で公正なイメージの白い色の花やリボンを身につけ、大使館の周りを歩きながら、公正な選挙を求めて政権側に抗議しました。 
 
 2012 年の1月2月にモスクワと他のロシアの大都会で「青いバケツと白い飾りを付ける車のデモ」が行われました。スローガンは「白い事実は黒いうそに勝つ!」でした。 
 2012年4月15日には「青いバケツ」の現代版エメーリャとの戦いに2年目となった。この活動は人々とこの世界をだんだんと変えていくことでしょう。 


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