2012年05月06日13時05分掲載  無料記事
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政治

改憲論議が進むなかで、想うこと・・・  池住義憲

 いま必要なのは、「改憲論議」ではない。必要なのは、「憲法の精神をどう生かすかの論議」です。政府と国会は、憲法を尊重し擁護する義務・責任を負っています。震災被災者・避難者らの生活再建、生業の補償問題や、経済的・社会的に困難な状況に押しやられた人たちを最優先し、憲法25条の生存権や13条の幸福追求権など憲法諸原則に則って、どう実行するか、が問われているのです。 
 
●憲法は国への「命令書」 
 
 憲法は、首相・大臣・国会議員・裁判官ら公務員への「命令書」です。命令発信者は、主権者。国家が暴走して侵略戦争に突き進んだ取り返しのつかない過去の罪悪を、今後再び繰り返えさせないための「命令書」です。権力の乱用を防ぐために、また「少数者の人権を守るため、多数に基づく民主的政治に時として縛りをかけるもの」(伊藤真さん、2012年5月3日中日新聞)です。 
 
 戦争と武力による威嚇・行使を永久に放棄した9条は、そのための中心を成す柱です。自衛隊を「国防軍」とし、自衛権の保持を明記した自民党の「憲法改正草案」(2012年4月27日公表)論議など、とんでもない。 
 
 自民党案の前文には、「日本国は、…国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって…」とあります。「象徴」に止まらず天皇が主権者の上に立つ、というものです。主権在民という現憲法の基本理念をぼやかし、天皇元首制復活へと道を開くものです。 
 
 憲法には、主権者の義務・責任が書かれている箇所があります。それは、「憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならい」としている12条です。 
 
 今こそ、いや今だからこそ、私たちの「不断の努力」がより求められていると思います。私たち教会に連なる者の姿勢と役割を、こうした視点から改めて捉え直し、行動を起すようにしたいものです。憲法を、国から私たちへの「命令書」「指示書」に変質・改悪させないために。 
 
●「震災・惨事便乗型」改憲を見抜く 
 
 もう一つ。いま必要なのは、「権力権限集中論議」ではない。逆です。「憲法の地方自治の精神を生かし、権力分散、地方主権を進める論議」が必要です。自民党の憲法改正草案では、大規模自然災害などの時、政府に権限を集中させ、基本的人権を停止し、法律を制定しなくても政令で国民を国の指示に従わせる「緊急事態条項」新設が盛り込まれています。 
 
 内閣総理大臣が緊急事態宣言を出したら、通信の自由、居住・移転の自由、表現の自由、財産権など憲法第三章にある基本的人権は、総理大臣の指示によって制限されてしまうことになる。震災・惨事に便乗した「緊急事態条項」新設の真のねらいは、軍事的緊張の際、政府に非常権限を集中させる点にあります。 
 
 震災対応は、政府が現行の法令を迅速かつ適切・有効に執行することで可能です。地方自治体が迅速に判断・決定・執行する裁量(権限)を増やし、それをより可能にする必要且つ適切な調整・判断を国が滞りなく行うことで可能です。現行憲法に不備があるわけではない。問題のすり替えに騙されてはいけない。 
 
●舵を切り直す 
 
 さらにもう一つ。いま必要なのは、「日米軍事同盟の防衛協力強化」ではない。そうではなく、「憲法の平和主義を生かして軍事力によらない世界とアジアの平和に貢献する国へと舵を切り直すこと」です。 
 去る4月30日、民主党政権で初めて公式訪米した野田首相は、会談後の日米共同記者会見で、アジア・太平洋地域での防衛協力に大きく踏み込んだ発言をしました。日米同盟は、未踏の領域へ歩みだしたのです。 
 
 これまでは日本の防衛という枠組みだったが、これからはアジアの治安維持の責務を日本がさらに「分担」する関係へとシフトしました。日米安保条約がアジアの安定装置へと変貌しました。自民および自公政権もできなかった米軍との一体化に突き進むこととなったのです。 
 
 これが「対等な日米関係」である、としています。野田政権がこれまでおこなってきた武器輸出三原則の緩和、PKO五原則の緩和、非核三原則の緩和、南スーダンへの自衛隊派兵、グアムや北マリアナ諸島での日米共同軍事訓練、さらにはホルムズ海峡への派兵検討などは、すべてこうした日米同盟「深化」発言の布石であったことがわかります。 
 
 「対等な日米関係」づくりとは、日米安保条約という軍事条約を「日米平和友好条約」に変えていくことだと私は思っています。それぞれの国の最高法規である憲法の基本精神を互いに尊重し、日本は世界に誇る9条を持つ国として、対等に、徹底した非軍事・平和外交で臨むことだと思います。 
 
 軍事力行使で“テロ”の根絶や紛争・対立の解決ができないことは、東西冷戦構造終結後20数年の歴史を見ただけでも明らかです。軍事力によらず、現行平和憲法を生かして世界とアジアの平和に貢献する国へと舵を切っていくことが真に求められています。 
 
●一つの提案 
 
 ではどうしたいいか。私は、現実的で十分実行可能なものの一つとして、日本が2004年に加入した「東南アジア友好協力条約」(TAC、1976年締結)で積極的役割とリーダーシップを発揮することを提案したい。 
 
 TACは、現在、ASEAN加盟10カ国のほかにオーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国、ロシア、インド、フランス、米国、朝鮮民主主義人民共和国、カナダ、トルコなど18カ国が加入し、計28カ国となっています。欧州連合(EU)も加入を表明しているので、EU正式加盟後は54カ国(世界人口の約7割)にまでに広がります。 
 
 条約には、1)武力による威嚇または武力の行使の放棄、2)紛争の平和的手段による解決、が明記されています。戦争放棄を定めた日本国憲法とほぼ同じです。 加入国間で争いが起きても、「武力による 威嚇」や「武力の行使」を慎み、常に加入国間で友好的な交渉を通じて紛争の解決に当たる。 
 
 当事国だけで解決することが難しい場合は、加入国の閣僚級代表でつくる理事会が仲介する。もし域外から「脅威」があっても、TAC加入国は集団的に軍事力で対応することはしない。その代わり、戦争放棄を決めた条約(TAC)の加入国を増やしていくことに全力を傾ける。そうすることで平和を実現する。これがTACの基本精神、基本姿勢です。 
 
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 平和づくりは、非軍事的手段、平和的手段、相互不可侵、政治・経済協力を通して可能になります。TACと日本国憲法は、アジア・太平洋地域で平和と安定を高め「平和の共同体」を創る規範になるべきものです。憲法を変える必要は、ありません。憲法を生かし、憲法の基本精神を世界に広げ、憲法を実行することです。 
 
(2012年5月3日夜記) 


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