2012年05月10日02時28分掲載
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ジェリー・ロスウェル監督「名も知らぬ精子ドナー(Donor Unknown)」 〜生物学上の父を訪ねて〜
数日間、コペンハーゲンで過ごした。コペンハーゲンはこの季節、夜の9時頃まで日が照っている。そこで、夕飯を食べた後、ホテルでビールを飲みながら遅い夕暮れを待つ。北欧は鳥の鳴き声も違っているが、鳥は明るさに惑わされないのだろう、午後6時ころには夕暮れの鳴き声がこだまする。それから日が落ちるまで、物憂い時間を持て余す。
テレビをつけると、フランス映画にロシア語の字幕がついていたり、ビリヤードの実況中継がノーカットで放送されていたりと随分日本と雰囲気が違う。ビリヤードの王座決定戦らしい対決を見に、多くの観客がスタジアムにつめかけて見守っている。
一番印象深かったのはDR(デンマーク放送協会)が放送していた親子の劇的再開を描くドキュメンタリー番組だ。途中から見たので詳細不明だが、若い娘が生まれた時から会ったことがない父親を捜し歩き、途中、父を思って涙を流し、しかし最後に劇的な再会を遂げる(この場合、再会とは言わないだろうが・・・)。こうした番組は日本でも昔あったような気がするが、感心したのは過剰なセンセーショナリズムにはまっていないことだ。コペンハーゲンの知人によると、デンマーク放送協会は家族の涙の再会をシリーズ化した番組を放送しているらしい。
もう一つ面白かったのは「名も知らぬ精子提供者(Donor Unknown)」という映画だ。これもDRが放送していたのだが、家族が劇的に再会する話である。かつて美貌で写真雑誌にもモデルとして載ったこともあるアメリカ人の元ダンサーの男は精子銀行に精子を提供したことがあった。ドナー番号は150番。この精子を得て、20人以上の赤ちゃんが様々な女性から生まれた。精子提供を受けたレズビアンらしい女性夫婦と息子も登場した。そんな一人の娘が父親をつきとめていく。ドキュメンタリーのネタ元はニューヨークタイムズの記事である。記事が機縁となって各地で父のいない生活をしていた子供同士が知り合い、精子を提供した父親を訪ねるのだ。男は今、トレーラーで暮らしている。家族は犬と鳥だけだ。その自由だが孤独でもあるトレーラーを子供たちが訪ねる。子供たちは父親と出会って、また新しい兄弟姉妹を得て、非常に幸せそうだった。父親もである。
150番の精子で受精させたクリニックの医者がうちのクリニックから(たしか)7万人もの赤ちゃんが生まれたと話す。このような話は決して特殊な話ではなくなっているのだろう。将来、どんな血縁になっているか、わかりにくいと遺伝的な不都合は生じないのだろうか?そんな不安も感じるのだが、それでもこの映画を見ると、時代は確実にその方向に進んでいることが感じられた。それに沿って、将来は家族のあり方も変わってくるのかもしれない。監督はジェリー・ロスウェル(Jerry Rothwell)。
■映画 「Donor Unknown」
http://www.donorunknown.com/about-the-film
■デンマーク放送協会
http://www.dr.dk/
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