2012年06月10日23時35分掲載  無料記事
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浜田正晴著「オリンパスの闇と闘い続けて」(光文社)

  オリンパスは日本でも有数の光学機器・電子機器メーカーだが、記憶に新しいのは最近発覚した損失隠し事件である。バブル時代に買った金融商品の含み損を隠ぺいするため、「飛ばし」と言われるテクニックを使って会社ぐるみで粉飾決算をしていたとされる。この件で前会長の菊川剛氏ら幹部らが逮捕されるにいたった。 
 
  ところで、今回紹介する浜田正晴氏によるノンフィクション「オリンパスの闇と闘い続けて」は、オリンパスが舞台となっているものの、この損失隠し事件とは直接関係がない。2007年にオリンパス社員の浜田正晴氏が上司の行動に疑問を持ち、社内のコンプライアンス(法令順守)部門に内部告発したところ、経験のない部署に3回も異動させられるなど組織ぐるみで報復を受け、2008年、浜田氏がついに裁判に訴えた事件である。上司の問題行動とは、本書によれば得意先企業からその恩恵を裏切るように技術者を引き抜いていたことだ。昨今、総じて日本の経営者の資質が落ちたとはよく指摘されるところである。長期的な視点でものを見ることができない人間が会社の中心に巣食っているのだ。取引先企業の好意を裏切るような行為を会社ぐるみで続けていたら、いずれ行き詰っていくだろう。つまるところ日本経済を形作っているのはそれら企業人の集積である。 
 
  裁判は一審では浜田氏の敗北、二審は勝利だったが、オリンパスは上告しているとされる。その浜田氏は今もオリンパスの社員である。会社に身を置きながら、会社と裁判で争っているのだから、心理的なストレスは相当なものだろう。それでも「オリンパスを愛しているから」闘いを続けていると書かれている。 
 
  この事件で呆れるのはコンプライアンスを担当する部署が内部告発した浜田氏の名前を、告発された上司にもわかるように情報を公開していたことである。法令順守を担当する本来エキスパートでなくてはならない部署がそのような失態なのである。会社の中には様々な人脈や権力闘争、派閥があり、個人の意思や正義感などはその前においてはちっぽけなものなのだろうか。それでも、このような人が闇の中で会社を去るのではなくて、会社に居続けて戦い続けたことはむしろオリンパスにとっては名誉なことなのではないだろうか。 
 
  もう一つ重要なことは一審を担当した弁護士が凡庸だったらしいことである。二審では違ったタイプの弁護士が現れ、半端な和解をしたくないという浜田氏の思いを受け、勝利した。本書はこれらの経緯を具体的に伝えており、読むのは決して楽しい経験とは言い難い。本書に展開されるのは不気味で不条理な昆虫的世界だからだ。 


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