2012年06月24日21時20分掲載  無料記事
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コラム

村上龍とテオ・アンゲロプロスの対談番組

  1990年頃だったと思うが、作家の村上龍氏とギリシアの映画監督テオ・アンゲロプロス(Theo Angelopoulos)氏が対談したNHKの番組があった。「旅芸人の記録」からその頃の最新作「霧の中の風景」まで、テオ・アンゲロプロス監督の映画を紹介しながら、ギリシアでの映画作りについて村上龍氏がインタビューしていた。あの頃、村上龍氏には作家とは別に映画監督の顔があった。当時は今より喫煙規制も少なく、二人とももうもうと煙草の煙をふかしながら対談していたのが記憶に残っている。 
 
  アンゲロプロス監督の映画がギリシアの歴史、ひいては欧州の歴史をモチーフにしていることから当然、話題の中に欧州連合の未来のことがあった。すでにソ連は崩壊しつつあった。欧州は未来に向かって船出していたものの、その行先は定かではなかったのだ。日系アメリカ人の論客、フランシス・フクヤマが「歴史の終焉」という論文を書いて世界的に話題になっていたのもこの頃である。ソ連の崩壊によって歴史が最終章に到達すると見る人々もいるが、私は歴史は今小休止しているに過ぎないと思うとテオ・アンゲロプロス氏は語った。 
 
  対談の中で、アンゲロプロス監督は英国で二人の若者が起こしたデモについて触れた。「貨幣は敵だ」と記したプラカードを持った若者たちがロンドンに現れたという。アンゲロプロス氏は金の力がいつになく強まってきていると語った。さらにもし近未来に欧州が共通通貨を導入し、中央政府を作って国家統合したら、最悪の場合、中央集権的な国家になってしまう危険があると指摘した。そうなったら、価値観も統一されるから夢や希望がなくなってしまうだろうというのだ。 
 
  あれから20年近くたっても、この時の対談番組が思い出される。ギリシア危機の今、テオ・アンゲロプロス監督は何を思っているのだろう。今こそ、新たに映画を作るときではないか。そう思いインターネット検索したら、アンゲロプロス監督は今年1月に事故で亡くなっていたことがわかった。映画を撮影している期間にオートバイにはねられたようだ。だから残念ながら、あの対談の続編を見ることはできない。 
 
■ギリシャの映画監督・アンゲロプロス氏、交通事故で死去 
http://www.asahi.com/obituaries/update/0125/TKY201201250119.html 
■テオ・アンゲロプロス監督の公式ウェブサイト 
http://www.theoangelopoulos.com/ 
 
★最初にUPした記事でこの対談番組の放送がたしか1990年代<初頭>頃だったと書いてしまいましたが、NHKアーカイブスによると、1989年10月11日の放送でした。つまり、当時はまだソ連も崩壊してはいなかったことになります。http://nhk.jp/chronicle/?B10001200998910110130089。 


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