2012年07月15日13時17分掲載
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アジア
【イサーンの村から】(19)百姓の技と心(上)作る、採る、食べる 森本薫子
有機農業、自然農業をしているというと、「自給自足ですか?」と聞かれることが多い。自給自足って、どの辺までのことを言っているのだろう?と考えると、何と答えていいかわからない。全く何も外から買ってこないで食料を賄うという意味なのか、調味料以外の食料に限ってという意味なのか、食料以外の出費を農産物販売からの収入で賄えるところまでなのか。人によってイメージは違うだろう。
◆香りはこれ、酸味はこれ、辛みはこれ なんでもあります
イサーンの多くの農家がそうであるように、うちも主食の米はもちろんのことたっぷりある。毎日イサーンの家庭料理を食べるなら、必要なものはほとんど自給できる。いくつかの調味料があればいいだけだ。ナンプラー(魚醤)、プラーデック(魚を塩で発酵させたもの。タイのアンチョビ)、塩、砂糖くらいだろうか。プラーデックは池で獲ってきた魚で義母が作ったものなので、これも自給といえる。
イサーンの各種スープの出汁を取るのに主に使われるのは、レモングラスとなんきょう(タイの生姜)。これに、肉や魚の出汁が加わり、ナンプラー、プラーデック、塩、砂糖などで味付けする。酸味をつけたい場合は、ライムかタマリンド、辛くしたい場合は、唐辛子。日本人にもお馴染みのトムヤム(酸っぱ辛いスープ)なら、香り付けにマックルー(こぶみかん)の葉を入れたりする。
レモングラスは一株植えればみるみるうちに増えていくし、なんきょうは一度植えればほっておいても育っていく。ライムは旬の時にしか実をつけないので1年中は手に入らないが(市場では売っている)、タマリンドの果肉は保存できるので常備できる。どれも自給できるものばかり。スープに入れる野菜はパクチー(香菜)、ネギ、各種バジルなどなど葉物がメインだが、野生のものも多い。
イサーンの定番ソムタム(青パパイヤのサラダ)も、青パパイヤ、唐辛子、にんにく、プラーデック、ナンプラー、ライム、タマリンドくらいがあればできるので、ほぼ自給だ。
あるものだけで食生活を賄おうと思ったらできるけれど、やっぱり時にはいつもと違うものも食べたくなる。自給自足生活でも使える食材を増やすには「技」が非常に重要となるのだ。その技とは・・、虫、カエル、赤蟻、カニなどを捕まえる技であり、タケノコやきのこなどを目ざとくみつける技である。
◆採ったら灰汁とり、発酵、保存
赤蟻採りなんて命がけだ。赤蟻にかまれたら痛いのなんのって!よくマンゴーの木の葉を丸めて巣を作っていてその中に卵がある。網ですくって採るのだが、その時に赤蟻がばらばらと落ちてきて、赤蟻まみれになったら地獄だ。その防御としてベビーパウダーを体に塗る。赤蟻が粉を吸い込んで息ができなくなるように! 私はそこまでして食べなくてもいい・・と思ってしまうのだけれど、イサーンの人たちはその収獲作業自体も楽しんでいるように見える。
タケノコ料理はイサーンの人は大好きで、雨季には毎日のようにタケノコを食べる家も少なくない。うちも同じ。早朝からお義母さんの姿がずっと見えないけど、どこに行ったんだろうね??・・そんなときは、必ず行っているのだ。そう、タケノコ採りに・・。そして袋いっぱいにタケノコを入れて嬉々として戻ってくる。それはよくあるうちの雨季のワンシーン。タケノコを食べるためには採ってきただけでは終わらない。皮をむいてササガキに切って、ぐつぐつと長い時間かけて灰汁を取る。それをそのまま保存してもいいし、発酵させてもいい。スープにしたり、炒めたり、薬草と一緒に蒸したりと、タケノコの調理法はバライエティにとんでいる。
食べ物の準備に時間を費やすことができるのは、贅沢なことなのかもしれない。日本人というか、先進的な暮らし?をしていると、時間のかかる手作業や、内職のように同じことを繰り返す作業を「無駄な時間」に感じてしまう。機械はないのか?誰か雇えないのか? 効率を最優先して考える思考回路になってしまう。その作業自体を楽しもうという発想がなくなってくる。
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