2012年07月23日23時53分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(59)原発銀座で詠う歌人・奥本守歌集『若狭の海』から原発短歌を読む「プルサーマル安全と審査を認めるは人の命を見捨てることか」  山崎芳彦

 若狭の歌人・奥本守さんの第三歌集『若狭の海』(平成13年3月 ながらみ書房刊)に所載の原発にかかわる短歌作品を読むが、第一歌集『紫つゆくさ』、第二歌集『泥身』それぞれの原発短歌に引き続くことになる。 
 
 原発密集の地である若狭に生れ、農業の傍ら原発関連の建設会社の建設作業員として働きながら、若い日から親しんだ作歌の道に励み、81歳の現在も詠い続けている奥本さんは、原発にかかわる具体的な危険性、さまざまな事故、作業にかかわる人々、原発立地地域と電力企業の、実像、実態を確かに把握し短歌表現した作品を歌集に収めたことから、会社を解雇されるということも経験した。「原発歌人」と称され、新聞、テレビなどに紹介されたことへの、圧力であったろう。 
 
 筆者は、先に福島原発の地の歌人、東海正史さん(故人)、佐藤祐禎さんの作品を読み、さらに奥本さんの歌集を読み続けているのだが、それぞれの作品を読みながら、いま読んでいる『「技術と人間」論文選 問いつづけた原子力1972-2005』(編者 高橋曻・天笠啓祐・西尾漠 2012年4月 大月書店刊)に所収の多くの論文で論考されている内容と照応する短歌作品を、改めて思い起こし、歌集を読み返すことしばしばである。 
 歌人たちは、実体験を通じて、原子力の研究者たちと同じものを、見たり、感得したりすることが少なくなかったことに、驚きに似た思いをすることが多いが、それはある意味では当然のことであるのかもしれないとも思う。 
 
 それにしても、『技術と人間』の各論文を読みながら、これほどまでの研究の蓄積、成果、提言を排除し、耳を貸そうとしないまま、さまざまな事故を繰り返し、人間を病に追い込み、死に至らしめながら、ついには昨年の福島原発「事故」の悲惨悲劇的な事態を招いた歴代政府、官僚や政治家さらに財界、電力企業と関連業界が、それでもなお、原子力エネルギーに固執し、福島原発事故による底知れない被害者の苦悩をよそに、原発再稼働の暴挙を強行し、さらに拡大をめざしている現状の中に、ただ立ち尽くしているわけには行かないと思うこと、切実である。 
 
 奥本さんの作品は、原発銀座と称される若狭の地で、早くから原発建設の作業に従事し、また地域の住民、農民、夫、父親、祖父として生活しながら、生活と心情を詠い、自然を詠い、労働を詠って、多くの人と交わり、原発を通じての社会、政治との向かい合いを詠ったものである。 
 現実、社会の動向、自らの生活のありようを、対象化してとらえ、さらに自らの真実として短歌表現した果実を、表に出して問うことは、それが生み出すさまざまな波紋、自らだけでなく家族にも跳ね返ってくる、必ずしも好意的ばかりではなくはねかえってくる声や評価を思えば、決して容易ではないことが推察される。事実、詠うことに対するさまざまな圧力が、生活にかかわる局面で、とくに原発立地地域の歌人にはより露骨な形であった。 
 
 そのような中で詠われた短歌作品を、埋れさせ、忘れ去らせてはならないと、筆者は考える。原爆被爆者が詠い遺した作品も、いま、著名な歌人の作品は別としても、意識的に探さなければ見出しにくくなっている。 
 そのようなことを考えながら、奥本さんの原発にかかわる作品を読んでいく。前にも述べたことがあるが、ある歌人の作品をしっかりと読むためには、原発にかかわる作品だけではなく、生活詠、心象詠なども読むことがよいのだが、この連載では叶わないのが残念である。作者に対しても申し訳ないとの思いがあるのだが、筆者は幸いにして歌集の中の多くの作品を読ませていただいている。 
 
 『若狭の海』の原発短歌を読む 
 
▼合掌 
  動燃工場爆発 
核燃料再処理工場爆発す被曝者誰ぞ その家族達よ 
 
動燃工場爆発したるその時の風はいずこに流れてゆきし 
 
屋上に退避なしたる人ふたり救けを待ちしながき五時間 
 
被曝者を政府は見舞わず動燃に事故原因を問い詰めている 
 
事故のたび原因糾明、防止対策、叫ばるる声風と共に去る 
 
 
▼離農 
  プルサーマル計画進む 
プルサーマル安全と審査を認めるは人の命を見捨てることか 
 
プルサーマルの計画論議を打ち切りて認める知事の本音聞きたし 
 
若狭には人間がいる花も咲くプルサーマルの実態を言え 
 
大阪で説明されしプルサーマル原発若狭でされぬは不思議 
 
プルサーマル計画許し原子炉の増設認むる知事か許せぬ 
 
  原発事情 
この国は原発推進なし居れど子孫のいのち守り切るるや 
 
二十年の寿命と建てたる原子炉が三十年経ていのち倍増論 
 
原発は一種の麻薬使わねば生活(くらし)がたたぬいまの現実 
 
だまされてプルサーマルを許す人若狭にもいてわれら哀しき 
 
CO2削減のため原発を二十基増やせの論説を読む 
 
  赤子 
原発の若狭に生れしわが孫の健やかなればありがたく抱く 
 
  どこかおかしい 
人間の被曝死までは安全と原発指導者言い続くるや 
 
プルサーマル計画進め小浜線電化着工を餌にする県か 
 
動燃の名称変れどそのままに職員、組織が引き継がれゆく 
 
原発を国が安全審査する立入もせず東京にいて 
 
  揺らぐ若狭 
原発に頼りておらば日本は死の灰積る墓場と化さん 
 
増設をするため廃炉をほのめかし議論している不思議なる若狭 
 
原発の設計や予算は完璧なれど曾孫(ひこ)請けなれば四割工事 
 
原発の増設促進する市議会ありて若狭に駆け引き始動す 
 
県民の合意のなくてプルサーマル許可の迫りて若狭は揺らぐ 
 
疲れ果て事故多発する原子炉にプルサーマルの実施は無謀 
 
プルサーマル実施の許可に揺れ動く県民の声梅雨空にひびく 
 
プルサーマル県が許可して原発の増設を暗示す地元の市長 
 
落ちる日を突き刺すように青葉山見えて若狭はおだやかならず 
 
原発の若狭に生きて四季を詠む人らの歌の美しきこと 
 
  敦賀原発二号機事故 
冷却水九十トンが流れ出でて環境汚染の無しとは何ぞ 
 
冷却水漏るるを東京に報告後遅く若狭のわれら聞かさる 
 
謝れば済むとの体質持ちている原発業者を誰が信ずる 
 
プルサーマル実施の許可を吹き飛ばし一次冷却水どんどん漏るる 
 
大事故が起きんに原発地元の人少しも騒がず諦めいるか 
 
ぞうきんで放射性物質を吹きている人よ被曝は労務者ばかり 
(テレビ映像) 
 
配管の亀裂原因「熱疲労」と判りて怖し蜘蛛の巣配管 
 
原子炉を造りし労務者われなれば事故起るたび詫び申したし 
 
 
 ▼役所 
カラ出張二十億円の役人が原発増設を軽々と言う 
 
事故続く核の施設に安全の理論、思想の役立つものか 
 
安全というは役所の安全にて若狭のわれらに不安は深し 
 
仕方なく防災訓練を言う役所君らの逃げ場は決まりているか 
 
「安全」と業者も役所も言うなれどプル計画はあやふやのまま 
 
燃料も容器も偽造されているプル計画はいよよ怪しき 
 
世の中は面子にこだわる人、役所、多くてわれらの声は死の山 
 
「お詫び」とは役職人の台詞(せりふ)なり 頭を下げて済むことでなし 
 
  稲の花 
原子炉の配管疲労案じつつ炎天に下水のパイプをのばす 
 
嗚呼遂に飲む避妊薬、プルサーマル、国が許可して危うしわれら 
 
  東海村、臨界事故 
臨界の事故とは知らず倒れたる仲間を助けんと人ら被曝す 
 
放射能を防ぐヨウ素剤あることを住民知らず配られもせず 
 
事故起きて対策本部出来るまで被曝をするは住民われら 
 
真夜中に電話かかりぬ 東海村の歌友(とも)の声して「どうすればいいの」 
 
死の灰は見えず臭わず音もなく風吹くままに広がりてゆく 
 
核事故の起きてまもなく雨が降る死の灰田畑に滲みゆくらんか 
 
核事故の原因糾明厳しきに役立たぬなり 事故の相次ぐ 
 
 
  ▼ふるさと 
  被曝者死す 
悲しみは臨界被曝に焼けただれ治療むなしく逝く若き人 
 
放射能の被曝をすれば治療機関あれども全快の実証ありや 
 
核事故の犠牲は一人に終るなく広がりてゆく被曝者の死は 
 
安全は人類の願い核燃料使えば危うく事故かぎりなし 
 
チェルノブイリ事故に増えゆく死者五万 臨界被曝死二人で済むや 
 
  原発増設論再燃 
市議会も知事、財界も銭(ぜに)かせぐ亡者と化して増設を推す 
 
廃棄物を山と積み置き原子炉の増設すすむるおろかなるかな 
 
増設をすすめる県は裏金にカラ出張をふやしていくか 
 
人間の存亡にかかわる巨大炉を実験さるる若狭は地獄 
 
原発の稼働の限りは捨て場なき汚物がつもる死の灰の国 
 
  原発防災訓練 
原発の事故の訓練にこにこと官吏ら対策本部に入る 
 
実際の事故想定の訓練に政府も知事ものんびり動く 
 
訓練の原発事故に住民の避難命令やっぱり遅し 
 
原発の防災訓練決められた通りに動き<遊び>している 
 
放射能噴く原発の事故あらば甘き訓練役立つものか 
 
被曝者を救う訓練てきぱきと動く人らに頭がさがる 
 
原発の大事故あらば逃げまどうわれらを誰が救うというや 
 
再開をするため「もんじゅ」の防災訓練勇ましくする人哀れなり 
 
 次回は、奥本さんの第四歌集『生かされて』の原発短歌を読みたい。 
                        (つづく) 


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