2012年07月28日00時06分掲載
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社会
【運動の現場で考えたこと】(2)統制され、隠されてきた福島 園良太
獄中の長い時間の中で、僕は今何が起きているのかを必死に考えキーワードにしようとしました。福島統制・「惨事便乗型資本主義」と未来に対する大虐殺・ファシズム政治・「国民運動」化の四つです。一つずつ説明します。
≪その2≫今何が起きているか、4つの大状況(1)福島統制
●福島統制(福島事故問題は今どうなっているのか)
原発再稼働は「3.11」以降の最もわかりやすい国家と資本の暴力であったため、反対運動が盛り上がりました。だがいま最大の暴力が行われているのは福島で、その全貌を明らかにすることが現状を変えるためにまず必要です。
「3.11」は、国家権力(今の政府や歴代自民党政権や官りょう)と資本主義(東電や財界や原発利権)の矛盾を誰の目にも明らかにしました。すべてを破滅してしまう原発を作り続けてきたのは、原子力利権と核兵器の製造能力を保持するためでした。政府が徹底的に情報を隠して住民を守らないのは、日本には民主主義ないということです。福島には凄まじい被害が生まれ、被害者が本気で立ち上がり、全国の人々と連帯し怒りが広がれば全てが変革される可能性がありました。次いで他地域でも多くの人々が根本的な問題だと気付き始め、自分も当事者だと思って動きだしました。
政府・資本はそれは心底恐怖したため、事故直後から戦前日本のように社会を「統制」し、私たちを抑え込もうとしました。テレビで「(放射能は)直ちに健康に影響しない」「がんばろう日本」と垂れ流して自らの責任を隠しました。関東を輪番停電とし、東北を自衛隊が封鎖し、大規模な避難や抗議の動きを押しとどめました。福島から関東への避難者はたらい回しにして社会から隔離し、私たちと分断しました。それでも始まった反原発デモに対しては、不当逮捕でつぶしてきたのです。そしてマスコミに福島原発を取材させず、報道量を激減させていきました。(これらの「戦時統制」は震災直後の自分の「今こそ抗議が必要な理由」http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20110321/1300649351
と、拙著『ボクが東電前に立ったわけ』に詳しい。また警察のデモつぶしは自分の体験談を。「より、多くの反弾圧と直接行動を!〜不当逮捕を乗り越えるために」
http://d.hatena.ne.jp/Ryota1981/20111017/1318800610)。
いっぽう福島には放射能の拡散情報を知らせず、自治体・学校・病院などに「放射能を問題にするな」と素早く指示を出し、東電も賠償を遅らせました。福島の人々を疲れさせ、諦めさせ、福島市や郡山市など今すぐ全員が避難すべき場所に閉じ込めてしまいました。そして避難地域を次々解除し、除染キャンペーンを開始し、避難した住民を戻しながら新たな避難も抑え込みました。放射能を問題視する住民とそうでない住民とを内部で分断・対立させ、声を上げにくくさせたのです。放射能被害は時間が経つほど出てきますが、長期化は因果関係の証明も難しくするため、政府・東電はそれによる賠償逃れを狙っているのです。広島、長崎、水俣と全てがそうでした。
そして今や福島原発は2ヶ月に一回のマスコミ代表取材でしか内部の写真や実態が出なくなりました。史上最悪の事故と被害が起こり続けていることがマスコミからも福島からも抑え込まれています。その動きがなければ膨大な人命は救われたし、再稼働や東電の存続なども絶対にできなかったはず。この最悪の状況の核心は、権力・資本があらゆる手段で福島の情報と人の動きを統制したことにあります。そうして以前の秩序に無理やり引き戻し、責任追及と打倒を逃れ、体制を維持し、復活したのです。東京など都会の運動は原発再稼動反対が中心になり続けていますが、忙しすぎ・盛り上がりすぎてそれ以上に深められていません。福島と収束作業員の人々とともに動くことが変革の必須条件であり、問題にされてきた「1」はその意味で乗り越えられなければいけません。
そして福島の統制は、原発はそもそも核で、核は国家機密・軍事機密であり、情報統制と人命軽視がその本質だからでもあります。日本の原発導入は、米国と読売の正力松太郎らが、原爆を落とされた日本へ新たに「原子力の平和利用」と振りまいたことが知られてきました。武藤一羊はさらにこう述べます。
“原子力産業の産業としての成立は軍事からの独立を意味しなかった……原発から原爆へという回路が開けたのである。NPT自身が両者のこの新しい結合関係を表す条約である。この条約は、条約締結国に原子力の平和利用を権利として認めつつ(第四条)、非核兵器国に核兵器の製造、取得を禁止し(第二条)、それが順守されているかどうかをチェックするためIAEAの保障措置の受け入れを義務づけたものである。……つまり、原子力発電をふくむ「平和利用」は、すべて潜在的な核兵器生産能力とみなされ、そのように扱われている。……すなわち原子炉はたえず爆弾という起源に先祖がえりする傾きをもっている。世界支配にしがみつく特権的核保有国にとって、政治的にコントロールできない国の原発はすべて潜在的原爆製造能力なのだ。”(『潜在的核武装と戦後国家−−フクシマ以降の総括』社会評論社)
つまり核兵器を独占する国連安保理のアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国は核を転用して原発大国にもなりました。その世界秩序を維持するために、情報統制と人命軽視を至上命題としたのです。そのため核=原発が生み出す放射能被害の情報や研究も世界中で最大限統制し続けました。アメリカは日本を抑え込み続けました。広島原爆で被曝者の救助にあたった肥田舜太郎氏は“広島・長崎の原爆について、どんなことでも全部アメリカの軍事機密になっています。ですから、これだけ時間が経って、今原発であんなことが起こってどうしようもないことになっているけれども、何をどうするのかという問題について自由にできない。……東北で起こっている発電所の大事故について、新聞に出てくる記事は全部検閲済みの記事なのです。実際のことは何も書いていないのです。”と語っています。つまりこの情報統制や放射能プロパガンダは、「マスゴミ」批判や政府批判だけのレベルではなく、世界の大国支配と核そのものの本質です。それをやめさせなければいけません。
また日本の対米従属の問題だけでなく、日本政府自身が核大国の仲間入りをする欲望をやめさせなければいけません。そして世界の戦争も日本が行う戦争もやめさせなければいけません。だから原発問題自体も「マルチイシュー」であり、根本的な問題なのです。
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