2012年10月03日01時36分掲載
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郡史郎著「はじめてのイタリア語」(講談社現代新書)
講談社現代新書の語学シリーズは電車の中で繰り返し読むのに最適だといつも感じさせられる。適度にくだけて読みやすくできているが、その傍ら文法の基本をしっかりおさえている。郡史郎著「はじめてのイタリア語」も肩の力を抜いて気楽にひもとくことができる。
本書で特に面白かったのは終わりの方に、豆知識として「こんなことば、あんな由来」という章が設けているところだ。言葉の由来を説明しているのだが、イタリア語がラテン語を源にしており、フランス語などともその意味で近縁関係にあることから、1つの単語が何から派生し、国境を超えるとどう微妙にニュアンスが変わっていくか、という説明が豊富で興味深い。
universita(大学)という言葉の由来は「総体」という意味のラテン語から来ているという。その上で著者は興味深いエピソードを紹介している。著者が12世紀に誕生した世界一古いボローニャ大学を訪ねた時、入り口に「VNIVERSITA」と書かれていた。単語の最初の文字がUではなく、Vだったのだ。著者によれば、当時Uというアルファベットがなかったからだという。
そういえば私的な経験だが、デカルトの「方法序説」の古いペイパーバックをパリの古本屋で買ったところ表のタイトルが’Discovrs de la methode 'となっていた。おかしいな、と思った。本来なら'Discours de la methode’ である。 ところが、Discours の u のところが v になっていたのだ。長い間、誤植と思っていたが、それにしても本の表紙のタイトルを誤植するものだろうか。もしかすると、これもかつて、Uの文字がなかった時代の名残かもしれない、と本書を読んで思ってみた。
著者によるとかつて存在しなかったアルファベット文字はUだけでなく、JもKもなかったという。確かに仏和辞典でも、Kで始まる単語は極端に少ない。これはアルファベットでKの文字の誕生が遅かったことに関係しているらしい。実際、フランス語の辞書でKから始まる単語はカラテとか、キッチュとか、カミカゼ、コペイカ、キモノといった外来語が多い。Cの発音でカバーしきれない外来の言葉をKで表現するようになったのだろう。だから、辞書のKの欄のページ数はとても薄い。
universitaという単語の説明一つとっても想像を掻き立てられた。1つの言語にとどまらず、歴史や広がりが理解できると勉強も一層興味深いものになるだろう。
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