2012年10月04日00時26分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】再開阻止は再処理工場も!  工場の直下に断層−地震で崩壊−原発30基分の災害!  山崎久隆 

 日本原燃が青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場に関し9月5日に「完工を一年延期」と発表した。もともと1993年着工、1997年完工予定が、とんでもないトラブル続きで延期に延期を重ねて19回目。永久に完成しない施設と化して莫大な税金と電気代を食いつぶしてきた。これまでにつぎ込まれた金額は2兆円を遙かに超える。実際に今後いくら掛かるかは算定も出来ないだろう。 
 
◆まだ続く「再処理工場」の危険性 
 
 この直前までは2012年10月完工としていたのだが、今年1月にアクティブ試験を再開しようとして、またしてもトラブルに見舞われ、結局はガラス固化体の製造試験が再開されたのは6月、結局10月の完工など今年のはじめっから不可能なことは十分わかっていたことで、今さら何の発表かと思う。 
 
 それよりも、まだ建設を続けていることのほうが遙かに大問題で、3,344トン(BWR1,683トン、PWR1,661トン)、13,586体(BWR9,714体、PWR3,872体)の使用済燃料を持ち込み続け、これまでに1,103体、320トン余りを処理しているが、この再処理工場に存在する放射性廃棄物の危険性は、原発30基分以上にも相当する。(以上の再処理数値等は、いずれも日本原燃ホームページ ア 
クティブ試験結果報告等より。) 
 
 日本中の17箇所の原発では、これに加えて14,170トンの使用済燃料が貯蔵されている。合計17,193トン(2011年9月末現在・電事連)。全体の問題として捉え直すほか無い。もちろん青森県内で保管する謂われの無いものだ。 
 
◆核のゴミ作りに1300億円 
 
 もう一つ、到底容認出来ない施設を日本原燃は建設中だ。MOX(プルトニウム燃料)製造施設「J−MOX」だ。プルサーマル計画のための燃料製造施設に1300億円を投じて建設予定であり、現在敷地掘削作業中だ。こんな施設は直ちに中止しなければならない。プルトニウム燃料を使う原発で今動いているものは一つも無い。 
 
 これまでの計画では、福島第一3号、高浜3号、伊方3号、玄海3号がプルトニウム燃料を入れて起動したが、福島第一3号は水素爆発で破壊され廃炉になり、その他も運転ができる状態では無い。(ストレステストも終わっていない) 
 さらに英仏のプルトニウムが優先的にMOX加工されることになるが、原発そのものが廃止される可能性がある中で、仮にプルトニウム燃料を作っても単なる核のゴミになるだけのことだ。莫大な費用を掛けて核のゴミ作りをすることになる。 
 
◆地震で崩壊する再処理工場 
 
 六ヶ所再処理工場の真下に断層が走っていることも深刻な問題だ。動いていなくても使用済燃料プールや高レベル放射性廃液貯蔵施設など、致命的な施設がたくさんある。謎の水漏れを続けた巨大なプールの直下が地震により地盤崩壊が起きれば、たちまち底抜け事故になるだろう。冷却できなくなった使用済燃料は、水面から露出すればたちまち燃料の崩壊熱で燃えあがる(ジルコニウム−水蒸気反応)。この状態では致死的な放射線が周囲を覆い尽くすので、近寄って消火するなど不可能だ。どうやってもう一度水没させることが出来るか、想像もつかない。それに失敗すれば原発30基分の災害になる。 
 
 高レベル廃液タンクが破壊されれば、さらに重大な汚染が施設内に広がる。そのまま放置したら環境中に流出する。人が近づいて処理出来ないのは、こちらも同じだ。 
 こんな施設が、日本有数の海溝型地震を起こす太平洋岸に立地していること自体、世界的大事件だろう。 
 何もしなくても安全維持管理のためだけに年間1,100億円もかかっている(2012年5月9日内閣府「新大綱策定会議(第18回)資料」第1−3号より) 
 
 とんでもない施設。一刻も早く、再処理工場の建設中止と、使用済燃料を含む高レベル廃棄物の「安全化処理」を急がなければならない。 
 
◆突如「国家安全保障」が原発推進の理由に 
 
 「ナイとアーミテージ」とは、ジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージのことで、ジャパン・ハンドラーなどと呼ばれる人物だ。日本に対して繰り返し「集団的自衛権の行使」「改憲」(もちろん9条改憲)を迫ってきた人物で、日本の歴代内閣と官僚は彼らの提言をまるで「神託」のごとくに実現してきた経過がある。 
 
 「原子力政策の憲法」と称されることもある「原子力基本法」。この法律がある時突然書き換えられていたら・・・それは、まるで悪夢のような出来事だ。 
 原子力基本法には「自主・民主・公開」の原則が謳われ、さらに「原子力は平和利用に限る」という平和利用条項を定めている。核兵器開発を防ぐ国内法の縛りそのものである。日本が原子力開発に踏み出す際、多くの科学者が核武装を懸念し、なんとか道を絶っておこうとして作った法律だ。なお、「非核三原則」は法令ではない。国是などといっても放棄することに法的制約などはない。だからこそ歴代自民党内閣は法制化を断固拒否してきた。しかし原子力基本法は違う。 
 
 日本が世界最大級の核燃料サイクル施設を有し、容易に核兵器開発に転用できる「ウラン濃縮工場」「高速増殖炉」「再処理工場」などといった「機微技術」を大量に保有・開発し続けてこれたのは、米国の支援と、国際的には核拡散防止条約(NPT)とIAEA条約を遵守することを約束し、国内法では原子力基本 
法を始めとした規制法令を整備してきたからだ。そうでなかったらとっくにどこかの国に爆撃されていたかも知れない。 
 
 その「憲法」が、誰の目にも触れないままに、「こっそりと書き換えられていた」のだ。 
 6月20日に成立した「原子力規制委員会設置法」の付則(法令の実施時期等付随的事項を定めた規定)の中に「原子力基本法」の第二条「目的」を書き換える規定が忍び込ませてある。 
 
 「我が国の安全保障に資する」これがこっそりと押し込まれた言葉だ。一般に「国家安全保障」とは、軍事力による国家防衛(戦略)のことを指すことが多く、ナショナル・セキュリティと英訳される。 
 
 原子力規制庁設置法の改定で、突如「国家安全保障」を原子力開発の目的に「ねじ込んだ」のは、米国の差し金であったのだろうか。それというのも、米国の保守系シンクタンク「戦略国際問題研究所・CSIS」が、対日提言の第三弾を発表した際に、原発を国家安全保障上の重要な構成要素としているからだ。 
 
◆米シンクタンクの危険な原子力政策への提言 
 
 8月15日(米国東部時間)に公表されたレポート「米日同盟」(戦略国際問題研究所)に、原発を再起動し、原子力開発推進に「復帰」するよう日本に対して「提言」したのは、冒頭に述べたジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージ。そう、過去何度も日本の安全保障政策に対して「提言」を述べ、日本をコントロールしてきた人物の、第三の「提言」だ。 
 
 主要な論点は「日米戦略と同盟強化」にあるが、原発についても重大なことを書いている。 
 「原子力開発は、日本の包括的安全保障に欠かせない要素を構成する。」これが結論部分だ。もちろん前段に書いていることを総合すれば、まさに「包括的安全保障」つまりエネルギー安全保障も機微技術の安全保障も含むと捉えられる。 
 
言葉の上で日本の核武装能力に言及することなどあり得ない。しかし結論部分には中国の原子力計画とロシア、韓国、フランスの台頭などで、日米が後れを取ることを懸念し、日米同盟を背景に、協力関係をますます強化するように主張している。このような主張に日本のリモート内閣が、ずるずると引きずられて原発再稼働など許してはならない。普天間・オスプレイ問題と同様、米国のために日本 
の原子力政策は存在してきたし、今も存在している部分を無視してはいけない。 
 
 このレポートが公表されてわずか2日たった17日の読売は、社説でレポートの概要を掲載した。このような提言が来たからちゃんと読んでおけと言わんばかりの社説だ。「米有識者提言 幅広い協力重ねて同盟深化を(8月17日付・読売社説)」というタイトルに続く一文を読んで、この新聞は米国の機関誌かと思った。 
 
「中国の台頭や北朝鮮の核開発など、アジアは依然、多くの不安定要因を抱えている。地域の平和を維持するため、日米同盟が果たすべき役割は今後も大きいことを自覚したい。」 
 
 全体で1,000字の社説で、読売の「解説」はたったこれだけ。あとは全部要約だった。「米国の指示が出たぞ」と言わんばかりの書きぶりだ。 


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