2012年10月07日23時19分掲載
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瀬川正仁著「教育の豊かさ 学校のチカラ」(岩波書店)
ドキュメンタリー番組のディレクター、瀬川正仁さんが岩波書店の「世界」に1年間連載した「教育のチカラ」がこの夏、まとめられて一冊の本になった。書名は「教育の豊かさ 学校のチカラ〜分かち合いの教室へ〜」だ。瀬川さんは映像の専門学校で学生に教える傍ら、興味を持った各地の学校に出かけてこのルポを書き続けた。日刊ベリタにも、連載が始まる直前に寄稿していただいたことがあった。
「連載の一回目は、伊豆半島にある東京都中央区が運営する宇佐美学園、いわゆる「健康学園」である。健康学園は東京都内のいくつかの自治体が持つ、本来は病弱児童のための学習支援施設である。だが現実には、病弱児童だけでなく、様々な理由で教室からはじき出されたり、親や本人の意志で飛び出してきた小学生31人が在籍している。子どもたちは寮で共同生活を送り、自然体験などをしながら、少人数ならではの目配りが行き届いた指導の下、日々成長している。そしてその中で、心の傷や様々なハンディを抱えた子どもたちが再生していっている。」(瀬川正仁)
単に学校からはじけだされた子供を迎える受け皿、というだけでなく、実はこうした学校の中に、生徒を再生させる力があると瀬川さんは言う。読めば実にのびのびとしているのだ。
この本は教育理論書ではない。現場を訪ねてどこが生徒を活気づけ、やる気を再び引き出しているのか、瀬川さんが観察したものだ。つらい過去を持った女生徒たちとアニメーションを一緒に手作りする若い女性教師の姿を連載の中で読んだ記憶がある。個々の教師の姿が一番胸を打つ。教育改革をめぐる福島の町の実情のルポも興味深かった。自分の税金も投じられているにも関わらず、自分の暮らす町の教育の有り様についてまったく知らないものだと思ったものである。
参考までに以下は今回の「世界」のルポで瀬川さんが訪ねた学校である。
第1章 暗かった目がきらきらと輝いた
健康学園「中央区立宇佐美学園」(静岡県)
第2章 あなたを愛している人がここにいます
児童自立支援施設「横浜家庭学園」(神奈川県)
第3章 新しい国際人が生まれている
「コタキナバル日本人学校」(マレーシア・サバ州)
第4章 小さな町の大きな教育改革
「三春町立沢石中学校」(福島県)
第5章 なぜ学校に通うのですか
自主夜間中学「珊瑚舎スコーレ」(沖縄県)
第6章 新しい自分のために
刑務所の中の中学校「松本市立旭町中学桐分校」(長野県)
第7章 満たされた時間の中で
自由学校「きのくに子どもの村学園」(和歌山県)
瀬川さんはこのルポで日本ばかりかマレーシアにも足をのばし、活気のある学校を回った。もし日本の教室から活気が失われているとしたら、それは教育が病んでいるからに他ならない。「教育の豊かさ 学校のチカラ〜分かち合いの教室へ〜」はそれを変えるためのヒントとなるだろう。
■岩波書店・編集者からのメッセージ
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■公教育の辺境から学べること 瀬川正仁
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■【テレビ制作者シリーズ】(3) 再生の希望を辺境に見る、瀬川正仁ディレクター
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