2012年10月12日16時46分掲載
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アジア
「日中韓の共同体」構想を提言 毎日新聞「記者の目」に想うこと 安原和雄
毎日新聞の「記者の目」に人目を引く主張が掲載された。国境を越える共同体、欧州連合(EU)に学んでアジアの日本、中国、韓国の3カ国も共同体作りに乗り出せ、という提言である。
提唱者の記者自身、「日中韓共同体は夢物語と思うだろう」と指摘している。たしかにこれまで日中韓共同体構想は論議されることはなかった。しかし歴史は自然現象ではない。新たに創造していくものでもある。共同体構想が実を結べば、争乱の絶えないアジアで平和を可能にするに違いない。それは日本国憲法本来の平和理念をアジアで根付かせることにもつながるだろう。
毎日新聞(10月3日付)「記者の目」が「欧州から見た領土問題 日中韓は共同体作り目指せ」という見出しで論じている。筆者はブリュッセル支局の斎藤義彦記者で、なかなかユニークな主張なので、紹介したい。その要点は以下の通り。
(1)日中韓は共同体作り目指せ
遠く欧州連合(EU)の本拠地ブリュッセルから見ると、日中韓の対立は歯がゆく思える。EUは互いに殺し合ってきた歴史を越え、債務危機を機に統合を深めている。100年かかってもいい。日中韓は共同体をめざすべきだ。それ以外、安定し繁栄した東アジアの将来はない。
安直にEUモデルを輸入できるとも思わない。EUも冷戦時は体制の壁は乗り越えられなかった。しかしEUの平和と安定が示すのは、日中韓の国境の垣根を低くし、連携を強め、人の交流を進め、共同体を作ることこそが東アジアに平和と安定をもたらすという可能性だ。
日中韓共同体は夢物語と思うだろう。しかしそれを語るのは私だけではない。日本をよく知るEU高官は、日中の対立が欧州共同体(EC)が発足して間もない1970年代の地域対立に「似ている」と話す。
その後、統合を深め「緊張を管理するメカニズムを見つけざるを得なかった」EUの歴史をあげ、日中韓にも「利害対立を調整できる外交的な構造が不可欠だ」と指摘した。EUをよく知る日本政府関係者も「EUが対立を和らげた歴史に学ばざるを得ない」と認めた。
(2)日中韓共同体は反米ではない
誤解してほしくないのは、日中韓共同体は反米ではない点だ。EUに反米の国など存在しない。むしろ不要とも言われる北大西洋条約機構(NATO)を維持し、欧米の結束を守っている。
一方、日米同盟は魔法のつえではない。パネッタ米国防長官が9月に訪中した際、尖閣問題で自制を呼びかけるだけに終始したのを見てわかる通り、米国は暴力から日本を守ってはくれるが、日中韓の将来まで決めてはくれない。
やがて中国も成長が鈍化し、非民主的な体制への市民の不満は高まる。その爆発を私は恐れる。韓国は北朝鮮という重い荷物を抱える。
日本では総選挙が近づき、対中・対韓強硬派が勢いを増している。だが強硬派に長期展望はあるのか。対処療法ではなく、100年先の日中韓の平和と安定を語る政治家に私なら投票する。
<安原の感想> 平和憲法の理念をどう持続させるかが鍵
日中韓共同体というこれまで論じられたことのない構想をどう評価するか。「実現までに100年かかってもいい」という未来構想だから、いささかの戸惑いを覚えるが、未来構想だからこそ逆に自由な感想も許されるだろう。
*平和憲法か日米安保か
私の関心事からいえば、平和憲法、あるいは日米安保がどうかかわってくるのかが焦点となるほかない。長期展望として平和憲法の理念をどう持続させるかが鍵である。一方、日米安保の持続性は歓迎できない。言い換えれば日米安保を解消する共同体でなければならない。この視点を忘却した日中韓共同体構想は、歓迎できる代物(しろもの)とは言えないだろう。
現状認識をいえば、戦後体制の二つの顔、すなわち日米安保と平和憲法のうち、日米安保の乱暴な振る舞いが巨大化し、一方の平和憲法の存在感は根強いものがあるとしても、現状は満足できるものではない。その背景には民主党の政権誕生とその後の変質、右傾化があり、それを煽るかのような大阪市の橋下一派、「日本維新の会」の台頭がある。自民党など保守勢力も右傾化に悪乗りするのに忙しいという印象がある。
*注目点は次の総選挙
こういう右傾化の動きに対して、批判的な左派には日本共産党、社民党など、それに新政党として最近発足した「緑の党」が加わっている。しかし目下のところ、右傾化の流れが強く、左派からの批判の声は、残念ながら遠吠えの感さえ否めない。
問題はこの政治勢力地図が今後どのような展開を辿ることになるのかである。当面の着目点は次の総選挙ではないか。総選挙でこの左右の政治地図を多少なりとも塗り替えることができないようでは「暗い時代」が続くという予感がある。平和憲法の理念は吹っ飛んでしまいかねない時代の始まりとなるかも知れない。それを歓迎するのは、多くの廃墟と無数の犠牲者を産み出す対外戦争を好む米国の例の軍産複合体(これには日本版軍産複合体も一枚噛んでいる)である。
*歴史的大勝負へ
こうみると、次の総選挙は図式的にいえば、「左派勢力」対「右派勢力プラス軍産複合体」の歴史的大勝負になるだろう。左派が脱原発勢力のほか、「ウオール街の反乱」にみる99%の日本版「市民、民衆」とどれほど握手できるかも重要な要素である。これには日本の命運と未来がかかっている。
以上のような視点を考慮しないまま、未来の日中韓共同体構想を論じても、それは単なる頭脳遊技に終わる懸念がある。
*「安原和雄の仏教経済塾」の転載
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