2012年11月09日15時04分掲載
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核・原子力
【たんぽぽ舎発】 いま読み返す『原発事故 その時あなたは!』 瀬尾健氏が伝えた本物の恐怖 山崎久隆
原子力防災は、原発を止める大きなきっかけになり得る。しかし一方では誤った方針に基づき「現実的に可能な範囲で」などとする防災体制作りがされれば、さらに住民を危険にさらす結果になる。福島第一原発震災で経験したとおりだ。そのためにも、住民の視点から厳しく検証・批判を加える必要がある。
さっそく、規制庁の拡散予測図がいくつも誤っていたことが明らかになった。それを北陸電力(すなわち規制される側)から指摘されていたというから、原子力安全・保安院時代から何も変わっていない規制側の程度の低さが露わになった。
この種のシミュレーションは、何度も何度も繰り返し検証をしてはじめて「一定の信頼性」が出る。通り一遍で「ハイできました」にはならない。やってみると「あれおかしいな」という点がいくつも出るはずだ。プログラム上のバグもあるだろうし投入したデータが誤っている場合もあるだろう。バグ取りやデータの修正を繰り返してはじめて「一定の確からしさ」を見つけるのは簡単ではない。
ところが今回のシミュレーションはとんでもない計算をしている。特にひどいのは「地形を考慮しない」ことだ。理由は「計算が大変だから」では小学生の試験問題かと言いたくなる。(計算が大変だからと円周率を3で計算させるようなものという含意)。
福島原発震災を見れば、地形が最も重大な影響を与えたことなど既に福島の人々にとって周知のこと。今では世界中が認識していることだろう。
特に背後に山を持つ地形が多い原発の場合、上空の風向とは全く異なる方角に高濃度のプルームが出現することなど当たり前に起きる。距離が離れているからと、止まっていれば大変な被曝を引き起こす可能性がある場所もある。そのような場所は、実際に事故が起きる前に地形データであらかじめ絞り込む必要がある。それこそが防災の基本ではないか。
大雨が降ると深層崩壊が起きるという「定性的」条件で川添い集落全部を避難地域にしてしまったら却って避難場所さえなくなる。深層崩壊を起こす「地形的特徴」こそが最重要な情報であることを知らない防災関係者はいない。
もともと原発事故のシミュレーションは「起こる可能性がある」事故ではなく「実際には起こるとは考えられない事故」を想定していた。それですら8〜10kmが対策範囲であった。如何に事故想定が甘かったかが分かる。
しかし、それ以上の範囲の事故が起きる想定をしている人はいた。 京都大学の瀬尾健氏が1994年に行ったシミュレーションがそうだ。この場合の想定はチェルノブイリ原発事故。なぜならば既往最大の事故はチェルノブイリ原発事故だからだ。既往最大を想定しなければシミュレーションの意味は無い。
その結果は恐るべきものだった。例えば最も人口密集地帯に建つ東海第二原発の場合、99%の致死範囲に20万人が住む。90%致死量の範囲は30キロ圏を遙かに超えてしまう。
もう一度、瀬尾健氏のシミュレーションを見直すことが重要だ。それによれば東海第二の風下は緩い基準をもってしても東京を遙かに超えて静岡まで居住不能となってしまうのだから。
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この記事で紹介した本【原発事故 その時あなたは!】
著者:瀬尾健 出版社:風媒社(1995年6月刊行)
A5版・210頁 価格¥2,609−
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