2012年11月15日20時35分掲載
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コラム
手術に思うこと 鬼塚忠
今日、知人が目の手術をする。
鹿児島の知人で地元でネット新聞の記者をしている。去年帰京した際に、私のことを取材してくれた。その原稿を読んだ。地方では東京の第一線で活躍しています、という内容は受けるそうで、「これ大丈夫なの?私、偉そうですよ」とダメ出ししようと思ったら「それくらいがいいんです」とそのまま偉そうな記事になった。
彼は以前右目を失明した。それで左目を酷使していたら、そちらに負担がかかりすぎ、左目の手術を受けることになったそうだ。この手術の成功率は100%ではない。手術が失敗したら、完全に失明することになる。心配で仕方がない。ぜひとも成功してほしい。心からそう祈っている。
手術に関して、ひとつ印象に残った話をしよう。
高校時代の友人が舌癌になった。Y君と言う。高校のころは私と並ぶ馬鹿でお騒がせものだった。
私とY君は理系に進んだ。単純にひたすら暗気は嫌だったからである。彼は生物の授業で、生物の血液型だけはいつも満点だった。A型にはAAとAOがあって、B型にはBBとBBがあり、この二者の子供はAO、AB、BOの可能性がある、とそういった類の話だ。「なぜそこだけ興味があるのか?」と聞いたら「赤い疑惑」の人間関係を完全に理解するためだ、と言っていた。こいつは馬鹿だと確信した。
Y君に治療のために女性担当医がつき、あまりもてることは無かった彼は、親身になってくれる彼女に好意を持った。手術の前日、その担当医にこう言われた。
「明日、舌のがん部分を切除します。もう自由に話すことはできないかもしれません。今日中に言いたいことを言いなさい。私が聞いてあげます」と……。
するとそのY君はその担当医にあろうことか「先生、好きです。結婚してください」とプロポーズをした。ここでも馬鹿がひょっこり顔を出した。
先生は度胆を抜かれた。
そしてその担当医は、翌日Y君の舌を切除し、その直後に、あろうことか「結婚しましょう」とプロポーズを承諾した。Y君は話せないので、首を縦に振り、涙を流した。
いまでは、Y君は臀部の肉を舌に移植し、若干ではあるが話せるようになった。そしてふたりは幸せに生活を送っている。
興味があったので会いに行った。子供も生まれて幸せそうだった。
相変わらずバカなことばっかり言ってたけど。
人は病気になっても、どん底に落ちても、言葉を失っても、面白いことをして、ちょっとのおバカをしていれば幸せだと思った。
まあ私は誰が言うまでもなく、おバカなのだけれど。
今日の知人の手術が成功していてほしいと心から祈る。
鬼塚忠 (作家・出版エージェント)
「アップルシード・エージェンシー」代表
http://www.appleseed.co.jp/
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