2012年12月05日09時40分掲載
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『風力発電が世界を救う』を読んで エネルギー新時代とチャレンジ精神 安原和雄
原子力発電が魅力も存在価値も失ったいま、頼りにすべきは、もはや再生可能エネルギー、すなわち風力、太陽光、小規模水力による発電、さらに農林畜産業の廃棄物によるバイオマス発電などである。なかでも著作『風力発電が世界を救う』は、エネルギー新時代の四番打者として「風力発電」をすすめている。
再生可能エネルギーの新時代を築いていくことは、もはや避けることのできない歴史の必然ともいえる。だからこそチャレンジ精神で新時代に向き合う以外に選択の余地は残されていない。
牛山 泉(注)著『風力発電が世界を救う』(2012年11月、日本経済新聞出版社刊)を読んだ。「日本は潜在的な風力発電大国/ものづくり技術を結集せよ/年率20%強で成長するビッグビジネスの全貌を、第一人者が解き明かす」という触れ込みで、以下、その大意を紹介し、私(安原)の感想を述べる。
(注)牛山泉(うしやま・いずみ)氏は1942年長野県生まれ。71年上智大学大学院理工学研究科博士課程修了。2008年足利工業大学長、現在に至る。1970年代から一貫して風力発電の研究開発に携わっている。
▽「エネルギー新時代の四番打者」をめざして
*原発ゼロなら再生可能エネルギー60%が必要
日本政府による原発への討論型世論調査などで、国民の多くは「原発ゼロ社会」を望んでいることが明らかになった。
再生可能エネルギーの加速度的な普及拡大は、エネルギー安全保障戦略の上からもきわめて重要で、エネルギー自給率わずか4%という危機的な状況から抜け出すことにつながる。再生可能エネルギーが60%以上を占めることは風力も太陽光も、あるいは水力も地熱もバイオマスもすべてが国産だから、結果的にエネルギー自給率も60%以上になる。
*風力発電はいまや堂々たる主要電源
日本ではあまり知られていないが、2011年末現在、世界の風力発電の累積設備容量は2億5000万kwを超えている。これは原発250基分もの設備容量に相当する。2009年と2010年には、世界で約4000万kw、つまり100万kw級原発や大型火力発電40基分にも相当する風力発電が設置されている。世界の風力発電は2010年まで10年以上にわたって年率20%以上の伸びを続けてきた。風力発電はいまの時代の要請にかなっているからこそ、その導入量が突出しているのだ。
原発は世界で435基、約4億kwが運転中であるが、風力発電の累積設備容量はこの半分をはるかに超えている。この10年、発電技術の主役は風力発電であり、2020年には風力が原発の設備容量を抜き去っているはずである。風力発電は、もはや新エネルギーという範疇ではなく、堂々たる主要電源になっている。
風力は地球上どこにも遍在するエネルギーである。低コスト、建設の早さ、そして陸上から洋上への展開など、まさに再生可能エネルギーの本命で、世界が期待ずる「エネルギー新時代の四番打者」といえる。
<安原の感想> 「四番打者」を育てる責任
わが国には、自分たちの力では未来を変えることができないという無力感がある。講演の折にも、「将来はどうなるんですか?」という質問が多い。これに対し、私は「あなたはどうしたいんですか」と逆に問い返している。未来は予測するものではなく創りだすものなのだ。
以上は著作の「はじめに」で著者が力説している一節である。「未来は創りだすもの」という発想には私(安原)も大賛成である。我々日本人の多くは、もの知り、言い換えれば知識のレベルで生きている。しかしこれではしょせん傍観者の域を抜け出せない。重要なことは新しい時代をどう創り出していくのか、その変革の主体としてどう行動していくかであるだろう。著者が指摘する上述の「新時代の四番打者」を育てる責任を一人ひとりが自覚するときである。
▽ 風力発電が日本経済を支える
*風力産業こそ「日本の希望」の一つ
日本では若者の働き口が少ない。文部科学省の調査では、2012年3月に大学を卒業した学生の4人に1人に当たる約12万8000人が安定した職に就いていない。「大手企業を中心に採用は減り、高学歴の人でも就職が厳しくなっている。上位校の学生ほど、中小企業を敬遠して就職浪人を選択するから、就職率は下がる」とは大学の就職担当者の話。
12年版厚生労働白書には、「若者は前世代が築いた社会資本から恩恵を受けており、高齢者の現役時代より恵まれている」などと書かれているが、前世代が作ったインフラ(道路、通信情報施設、学校など)は若い世代がメンテナンス(維持)しなければならない。前世代は膨大な借金を作り、増税や原発のツケまで回してくる。その面倒を見るのは若い世代なのだから、恵まれているどころか、ますます悲観的な状況というのが本質ではないか。
では日本に希望はないのか。これを救う手だての一つがまさに再生可能エネルギー産業、特に風力発電産業なのだ。
*裾野の広い機械組み立て産業
火力や原子力などの大型発電所と比べると、風力発電は小さくてかわいらしいイメージを抱きがちである。しかし大型の風力発電機は部品点数が2万点に近い工業製品である。したがって風力発電機は自動車と同様の組立産業による生産物である。しかも自動車は3万点ほどの小さな部品が多いのに対し、風力発電は部品が大きくて種類も多い。高度な工業力が必要な上に労働集約的な組立工程を必要とする。
東日本大震災と津波、福島原発事故によって宮城・福島・茨城各県の漁民は失職したり、転職を考えている人もいる。洋上風力発電が本格化すれば、洋上風車の建設補助をしたり、メンテナンス要員を安全確実に輸送す漁民の操船技術が生きるはずである。
秋田県には2012年現在、108基の風車が設置されており、道県別では7位である。近年、秋田県沿岸に1000基の風車を設置しようというNPOの活発な動きがある。今後は風力発電関連の大企業を秋田に誘致する希望もある。
日本海側に巨大な洋上風車群ができて、そのための風車製造と保守部品の製造が連続して行われれば、風車の寿命が来たときには、更新用風車の量産が期待できる。
これから地域分散型のエネルギーシステムが構築され、スマートコミュニティーが各地に展開されていくだろう。地域のエネルギー源として、また開発途上国用のコミュニティー電源として秋田発や福島発の中小型風車を供給できるだろう。
*最大50万人の雇用波及効果
再生可能エネルギーへの期待が高まっている。エネルギー構造を変えることは、日本経済に大きな負担をかけるという懸念もあるが、決してそんなことはない。
日本では20年以上も「人余り経済」が続いており、代替エネルギーの導入によって他産業の人手が不足するような状況ではない。それどころか代替エネルギー開発は新規雇用を産み、デフレ圧力や雇用不安を和らげ、消費が刺激される効果が期待される。
現実の「人余り経済」の下では、他産業の生産力を犠牲にしないから、ある試算によれば、新産業の導入による雇用創出とその波及効果で、雇用が30万〜50万人、消費が1兆〜2兆円拡大すると見込まれる。
再生可能エネルギーは、休耕地における太陽光・風力発電、水路を使った小規模水力発電、農林畜産業の廃棄物によるバイオマス発電など、いずれも農業と親和性が高い。電気は生野菜と同様、保存が難しく、送電ロスもあるから、近隣で利用するほうが望ましい。エネルギー構造を転換することは農村地域での雇用拡大になる。
<安原の感想> チャレンジ精神で立ち向かうとき
もちろん産業構造の転換は苦痛を伴うであろう。しかし日本企業は過去何度もピンチをチャンスに変えてきた。排ガス規制や石油危機は、小さくて省エネ効果の高い日本製品を躍進させる契機になった。日本で初めてアメリカの自動車殿堂入りしたのは、不可能とまでいわれた世界一厳しいカリフォルニアの排ガス規制をCVCCエンジンをクリアしたホンダのシビックではなかったか。それを想起すれば、不況のいまこそチャレンジ精神を発揮すべきである。
以上は著者が本書で強調している一節である。たしかにエネルギーと産業構造の転換の渦中で悲運に頭を抱える企業、人々も少なくないに違いない。しかし進む方向が間違っているわけではない。再生可能エネルギーの新時代を築くことは、もはや避けることのできない歴史の必然と理解すべきである。だからこそチャレンジ精神で立ち向かう以外に選択の余地は残されていない。
*「安原和雄の仏教経済塾」の転載
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