2012年12月20日20時33分掲載
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文化
【核を詠う】(80)福島の歌人たちが原発災の日々を詠った短歌作品を読む(10)『平成23年版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<5> 山崎芳彦
衆議院総選挙の結果は、予想していたように、自民党の大幅な議席増で自民・公明両党による連立政権が復活することになったが、予想される新政権は、この国の進路にきな臭い、危うさを感じないわけにはいかない。この間の選挙期間中に安倍・石破自民党、石原・橋本維新その他の勢力が撒き散らした、改憲―「国防」軍事力の強化、日米同盟の深化と領土問題を梃子にした「自ら国を守る」思想動員、景気・経済回復を唱えての原発維持存続の意思表示・・・が吹き荒れ、禍々しい空気が、依然として核放射能を撒き散らしているこの国のなかで舞った。
選挙結果の内実を、仔細に検討すれば、決して彼らの政策の中身が勝利したわけではなく、選挙制度の仕組み、共に現実に立ち向かうために主権者が、共闘者として手を繋げると信ずるに足る政治勢力のなさ。「わが党を伸ばしてくれれば」という主権受託議会主義から脱しきれない政党・政治グループの情けなさに目をそむけた主権者も少なくなかったろう。選挙に参加しなかった人々の思いは区々であろうが、少なくとも自民党を選択はしなかった。
選挙の結果で、何はともあれ圧倒的多数の議席を握った政権勢力の持つ権力は、そのふるまい方によっては、底知れない恐ろしさがあるし、容易には抗し難い力を持つことがある。
例えば、原発政策を考えると、早くも反・脱原発への動きが公然と、より強く表われている。「現実主義」を前面に出して、原発エネルギーの放棄は経済成長を阻み「国を滅ぼす」、国民生活が立ちゆかない、対外的な問題が生ずる(日米原子力協定、IAEAその他)、原子力技術の維持・強化の必要性などを理由にして、「電源構成のベストミックス」のなかに原発を位置づけて維持していくことを鮮明にしつつある。
福島第一原発の壊滅的な事故がもたらしている現状、人びとに与えている災厄、人びとの苦しみを目の当たりにし、その解決の道を見出せないなかで、そして原発事故の再発の危険性が科学的にも指摘されているにもかかわらず、原発ゼロを完全否定する政策を確立しようとしている政府、しかも改憲・国防軍を目指す政府(になることが確実な自民党政府)とは、この国の人びとをどうしようとするだろうか。
ここで、やはり主権はどこにあるのか、「主権在民」が言葉や文字としてではなく、また投票権にとどまるものでなく、ましてや政権党に預けられるものでもなく、文字通りこの国の人びとにあり、主権である限り、少なくとも現在の憲法の理念に基づいて、力として発揮できるものであることを、いまこそ再確認しなければならないと思う。自分が生きているところ、生活しているところ、地域、国あらゆるところで力として機能させる権利を、私たちは持っている。誰かに託するのではなく、わがものとして生かし、力とし、現在と未来を構築する権利を持つ、それが主権であろう。
この数十年の間に、主権者が主権者として行動することを不当に制約されることに甘んじてきた、そして憲法に明文化されている権利を剥奪されるに近い権力の仕打ちを許しすぎてきた。例えば、反原発集会やデモンストレーション、沖縄の反基地闘争に対する警察力の介入、ビラ入れ活動への規制、日の丸、君が代の強制・・・。まだまだ数え切れない権利の侵害、規制。そのことを許してきた、許していることが、この国の危うさをより深刻にしているのではないだろうか。
選挙の結果登場しようとしている自民党政府、その危険な部分をさらに後押しする維新勢力などについて考える時、やはり、主権者にとっての正念場であるという思いが強くしてならない。
原発の存在の必然的な結果ともいえる事故による塗炭の苦しみと怒りを、激しく、あるいは静かにしかし深く詠う人たちの作品は、さらにより確かに詠われていくだろうと信じ、筆者もそのひとりとして、詠み、読んでいきたいと考えている。詠うことは実を見る行動のひとつであり、思索することであり、新しい力を生み出し、飛躍することでもあると考える。
前回までに続いて、『福島県短歌選集』の作品を読んでいきたい。
▼柿若葉日に輝けど大震災と原発事故に心の晴れず
雉子の声遠くに聞きて放射能の色なき影に脅へ窓閉づ
よしきりの鳴く音に和みこの朝も放射能忘れ畑に草ひく
震災も原発事故も知らぬげにゴーヤのつるは日毎のび行く
原発の早き収束願ひつつ朝夕べに葱に土寄す
5首 酒井タマ子
▼目に見えぬ放射線量におののきて暮らす日常われら庶民は
1首 酒井義勝
▼被曝とはかつて経験なけれどもじたばたしない後期高齢
節電の知恵をゴーヤに託しつつ孫は日除けのカーテンするとう
向日葵の花を咲かせて放射能吸い取らせると工夫の家族
3首 坂本雪絵
▼「レベル7」に手弱女なりし戦時中大本営発表を聞きしを思ふ
年毎に燕来りて飛翔する校庭の土を重機は除去す
2首 相楽キヨ
▼避難所となりたる福祉センターに険しき顔の人等寄り添う
子の好きな竹の子今が旬なれど放射性物質の数値気になる
ニラ作る父母を思いて願いおり出荷制限かからぬことを
青田にて餌をついばむ白鷺は内部被曝をしないだろうか
原発の事故後三ヶ月経ちたれば布団干しおり不安残れど
5首 佐川佳寿子
▼美しい古里の大地放射能悩みの種は蒔かれてしまえり
福の島と誇りの高き吾が県土流言飛語にさらされてあり
2首 佐川静子
▼小さき堀に陽炎立ちて揺れて居て放射能なければ清しき五月よ
1首 佐川晃子
▼放射能に汚染せしなどあらしむな初に抱けるみどり児の身に
山形へ避難せし曾孫を案じつつセシウム積もる庭の草引く
新鮮な野菜食べむと除染する五坪の畑を休みやすみに
除染せし五坪の畑に茎立ち菜を植ゑエンドウを蒔く
線量の低くあれよとねがひつつキウイの測定結果を待ちぬ
線量の二三〇ベクレルも食べて悔いなし八十七才
6首 佐久間善雄
▼牛でない 家族なんだと訴うる避難者の声胸を突き刺す
黙々と夫は畑打つ常のごと放射線量危うき土に
2首 佐々木 福
▼暗雲の原発事故に明るむは平泉の世界文化遺産登録
1首 笹島敬子
▼原発の海には遠いわが在所風評という霧に巻かれる
大地震、津波、原発放射能されど在所を棄てがたくいる
2首 佐藤 昭
▼原発の一号棟の爆発に縁故の招き会津に避難す
放射能被害によりて甘藍は全て薹たち咲き盛りをる
政府より避難解除の報あれど除染は後手にて収束遠し
3首 佐藤ツギ子
▼相馬より浪江より避難の途次なるとふ寺族へ配るお握りいくつ
福島を中継地として原発と津波の寺去る寺族見送る
本尊仏と過去帖を負ひ原発の町より青年僧は去りたり
3首 佐藤輝子
▼搬送車に無理に乗せられ去りゆくや牛を見送る夫婦の涙
放射線値を日々確めて育みし友の果樹園に桃を食みいる
2首 佐藤トミエ
▼道の辺に見ゆる林檎の白き花放射線の汚染なかれと祈る
若き日にあまたの児童を引率し福島原発見学に行きし
かつてわれと原発見学せし子らはこの度の事故いかに思ふや
放射線の影響なるやわが庭の藤の返り花つねより多し
4首 佐藤典子
▼春先に公園の土入れ替えて遊具揃うに人影も無し
放射線気にして見れば公園に子等に代りて走るもみじ葉
わが町より小学校まで三十分マスクに帽子の子等登校す
三・一一被災の年を顧みて学び直さん原発のこと
4首 佐藤美枝子
▼テレビにて避難区域に川俣が家に来ぬかと娘の電話
震災より三日後原発爆発し避難民来る屋内避難中
2首 佐藤三知
七人の家族が五ヵ所に別れ住みケイタイに日々の言葉をつなぐ
かんたんにガンバレなどといふよりも黙って肩を叩きくれぬか
北を指す雲よ大熊に到りなば待つ人多しと声こぼしゆけ
補償金などもういらぬ今までの空気と水と田畑を還せ
天に吠え地を叩くのも無力なりこれから生きる算段せねば
真実のことは知らざるおとどらの言葉は耳辺にあそばしむるのみ
廃棄物地元処理だと?ふざけるなどこまで犠牲にすればいゝのか
増え過ぐる人間淘汰の火ならむか線量といふ無気味な言葉
ゴモラでもソドムでもなき大熊に殺戮の光線そそぎて止まず
9首 佐藤祐禎
▼放射線に汚染されたる陸と海の復旧の日をひたすら祈りぬ
1首 佐藤要子
▼欲得の坩堝と化せし原発の奥の院までさらけ出さむか
俯瞰するその意図もなく原発の廃止を叫ぶ輩を憂ふ
後先の脈絡もなき組合せあざとき政権まかり通るや
3首 三瓶弘次
▼戻る人戻れない人それぞれにフクシマは重く師走に入る
1首 志賀邦子
▼坂本龍一氏 息子の携帯へ次々と私に避難を勧めくれたり
避難せし夜の夢義父母神妙に正座し見送るは威厳に満ちし
わが畑の野菜煮娘はこばみ行く三十キロ圏哀しさの増す
3首 柴崎武子
▼福島の棚倉の御稲(みしね)こがね色なせど風評被害を案ず
1首 下重忠男
▼汚染なきと稲作の許可夜明けより村はトラクターの音響きたり
一面に黄金波打つ稲の穂の刈り取る前の放射線測量す
トラックに処分する乳牛の顔を撫で家族の別れと媼のなみだ
放射能より守られよわが曾孫今日誕生日に一升餅背負う
4首 下重トシ
▼原発の地より避難の嫁の家族吾の家の近くに住むべくなりぬ
1首 霜山世根子
▼障子開け「原発の無事を」祈りつつ朝の厨にみそ汁作る
牧場にしき鳴く蝉の声ききて放射能気にせず走る孫見る
2首 新明悦子
次回もさらに『福島県短歌選集』を読む
(つづく)
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