2012年12月30日11時33分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

世界のベタ記事から  カダフィの息子  

  今年10月にいくつかの英字紙に出たベタ記事。昨年の政変で殺されたリビアのカダフィ大佐の次男セイフイスラム氏(現在、リビア南部の都市ゼンタンで収監中)は民主化運動弾圧の容疑(抗議運動者らの殺人と迫害)で昨年、オランダのハーグにあるICC(国際刑事裁判所)から刑事訴追された。一方、リビアは自国でセイフイスラム氏の裁判を行うとセイフイスラム氏のICCへの引き渡しを拒んでいる。ICCでセイフイスラム氏の弁護活動を担当する弁護士の一人、メリンダ・テイラー氏はリビアが裁判を行えば「正義ではなく、復讐が行われる」と反対している。ICCでの最高刑は終身刑だが、リビアの場合は死刑の可能性がある。 
 
  セイフイスラム氏は父カダフィ氏の死後、リビア南部の都市ゼンタンで民兵組織に拘束され、現在もゼンタンで収監され裁判を待つ身である。もしリビアで裁判が行われるとしたらトリポリになると見られている。ロイター通信によると、今年6月、ICCのメリンダ・テイラー弁護士らがゼンタン入りした時、民兵組織に拘束されるという事件が起きている。 
 
  この騒動の時のロイターの記事によると、「ゼンタンの民兵組織に拘束されているのはICCの弁護士メリンダ・テイラー氏や通訳者ら。リビアの弁護士や民兵によると、テイラー氏は、昨年11月から同市で拘束されているセイフイスラム氏と面会した際、「リビアの治安に危険をもたらす内容の書類」を見せようとしたことから拘束された。書類にはセイフイスラム氏の元側近からの手紙などが含まれていたという。ICCは、4人が7日から拘束されていると発表した。」 
 
  死人に口なしと言われるが、サダム・フセイン元イラク大統領しかり、カダフィ大佐しかり、そしてエジプトで療養中のムバラク大統領しかり。みな、何も語らず(?)その存在を消してしまった。裁判が行われるとしても、そこに何の意味があるのか。人権を守るのはもちろん大切だろうが、歴史の事実を明るみに出すことも大切である。かつてのサダム・フセイン政権の幹部で死刑になった人々は何か記していったのだろうか。カダフィ大佐の場合は手記とか、記録などはなかったのだろうか。 
 
  イタリアの国営放送RAIがかつて独裁者ムッソリーニの最期の真相を描くドキュメンタリー番組を作り放送したことがあった。ムッソリーニは民衆によって(レジスタンス組織によって)殺されて広場に逆さに吊るされたとされているが、実際にムッソリーニを殺したのはイタリア系の英国情報部員だったとする説である。レジスタンス組織の中に、イタリア系の英国情報部員が潜入して、組織にとらわれていたムッソリーニと恋人クララ・ぺタッチをひそかに民家から通りに連れ出して射殺するのである。 
  番組によると、英国のチャーチルは第二次大戦の終局を巡り、ムッソリーニと単独の講和条約を結ぶ交渉を秘密裏に行っていた。ところが、米英ソの三国で戦争処理の話し合いを進めるに当たり、英国外交にとってはイタリアとの単独講和の話が邪魔になってしまったというのである。連合国は枢軸国に対して無条件降伏以外の交渉はないと結論したからだ。そこで英国がムッソリーニ宛で出していた秘密書簡が表に出ないように始末する必要があったとするのである。http://books.google.co.jp/books/about/Mussolini.html?id=LXloAAAAMAAJ&redir_esc=y 
http://rense.com/general56/church.htm 
  カダフィ大佐の最期も奇妙である。銃撃された直後に公開された映像もどこか不自然な印象がある。銃撃される前後の映像はいろいろあるが、肝心なところが画面の視界からカットされている印象である。しかもなぜビデオが回っていたのかも不自然と言えば不自然だ。民衆が処刑したことになっているムッソリーニのエピソードに似ている。こうした謎を解き明かす1つの手がかりは遺族だろう。だからセイフイスラム氏にもまだやるべきことはあると思うのだ。 
 
  独裁者は多かれ少なかれ、西欧諸国と秘密の交渉を行ってきたに違いない。もちろん、それは独裁者たちにとっても表にしたくない汚点かもしれない。しかし、その記録は歴史の真実であり、民衆はその真相を知る権利がある。 


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