2012年12月31日12時41分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(83)福島の歌人たちが原発災の日々を詠った作品を読む(13) 『平成23年版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<8> 山崎芳彦

 安倍内閣が発足すると同時に、原発政策の明らかな方向が示されている。やはり、ひどい政権を成立させてしまったものだと思う。原発政策に限らず、この政府がこれから行なおうとする国策は、人びとを苦難の時代に引きずり込もうとするものだといわざるを得ない。そうはさせない、と思う。 
 
 美輪明宏さんが、12月28日の昼のテレビ朝日の番組に出演していて、茂木経産大臣が原発の維持・再稼働・新設の方針を、曲がりくねった、あいまいさで包みながら語ったのに対して、「あなたたちの、つい3年半前までの自民党政権が原発を進めてきたのではないか。その結果起った事故について民主党の責任にしていろいろいっている。自分たちの責任を全部他人の所為にして誤魔化し、言い逃れし、現在のような事態の解決も出来ないのにまた原発を続けるといっている。こずるいやり方だ。使用済み核燃料の処理の方法も出来ないまま再稼働だ、原発を新しく造るなどと言うのは許せない。」「神様が、自民党に政権を戻したのは、自分たちがやってきたことの後始末をしなさい、原発の後始末を自分でしなさいということだ。」と激しく、身を震わせるように、声を振り絞るように追及していたのをみたが、これに対して茂木大臣は答えようもなく、逃げ口上のままだった。 
 
 番組の司会者は、おそらくは意図的に、上からの指示があったのだろうか、テーマを変えてしまった。美輪さんは長崎に投下された原爆の被爆者である。原発推進の自民党政権に対する我慢のならない怒りが、この種の番組ではめったに見られないような、真正面からの糾弾になったのだろうし、きわめて正当で明快な美輪さんの言葉であった。正確にメモしたわけでないが、内容に大きな間違いは無いと思う。 
 
 自民党政権が、原発再稼働、新設、輸出などに向かうのは間違いない。『原発をつくらせない人びと─祝島から未来へ』(山秋真著、岩波新書)を読み1982年から30年間にわたって原発をつくらせない闘いを、いまも続けている上関原発計画に反対する祝島の人びとの歴史を知って感動しているのだが、さらに「祝島自然エネルギー百%プロジェクト」をつくり、「先ず祝島自らが、原発ではなく、自然エネルギーで自立(自律)出来ることを実践的に示しつつ、瀬戸内に最後に残された貴重な自然や、豊かな食を提供してくれる海と山、そして千年続く祝島の文化や伝統こそが、これからの地域社会づくりであることを身をもって世に問いかけたい・・・」という取り組みがすすめられ、太陽光発電の実績をあげていることも知り、こうしたなかで、上関原発計画が息を吹き返すような原発政策を許すことは出来ないと、改めて考えている。さらに、考え続け、自分が何をできるのか、原発問題はもとより、もう一度足元から、自分の住んでいる地域でのさまざまなことに、共同の力をつくりたい、努めたい。 
 
 『福島県短歌選集』をかなり長期にわたって読んできたが、今回で終り、さらに福島のいくつかの短歌会の合同歌集の作品を、次回から読むつもりである。原発にかかわる短歌作品は、これからさらに積極的に詠まれつづけるだろう。この連載もさらに続けて行きたい。 
 『選集』から、原発にかかわる作品を、筆者の独断で抽かせていただいたため、作者の本意から逸れることがあったであろうことを、お詫びするとともに、同選集の作品には、地震、津波の被害などについての作品も数多く、しかも直接原発に触れないでも、ほとんどすべての作品に原発事故によりもたらされた生活、感情、思いが投影されていると思いながら読んできたこと、筆者にとって貴重な一冊であったことを記し、作者の皆さんに謝意を表したい。 
 
 
▼祖母われの腕に抱かれ眠る児よ放射能など受けてはならぬ 
 
余震続き放射能値の高ければ休校の子と花の絵を書く 
 
原発の収束はいつ測定器持ちて過せり幼子居れば 
 
放射能総身に受けて罌栗の花炉心溶融燃ゆるがに咲く 
 
避難地区線引き外のわが町も幼子逃げよと若葉ささやく 
                     5首 古山信子 
 
▼稲作は農の基本と迷いなく放射線よそに今日は種蒔く 
 
稲づくり妻の支えに励まされセシウムも少なく豊作となる 
 
無情なるセシウム飛び散りあいまって郷は余震に未だ怯えむ 
 
放射能払拭のなき錦秋の里は実りの歓喜にわきぬ 
 
何処までがどうして除染か策立たず思い悩ます国の指針に 
                     5首 北条 平 
 
▼スーパーに風評気にし好物の旬の竹の子ためらひてをり 
 
篭いっぱい真赤に輝くさくらんぼ実り詮なし風評被害 
                    2首 星 津矢子 
 
▼ふるさとの家(うち)さかへれぬかなしみはをみなの小さき膕(ひかがみ)にある 
 
青ぞらに柘榴わらへり県民健康管理調査問診票届く 
 
3月11日の震災以降あなたがいつ、何処にいたかを記載して下さい 
                    3首 本田一弘 
 
▼原発の暴発に故郷を追われ来し人等の避難所に雨止まず降る 
 
『青白き光』を編みし佐藤祐禎氏よふるさと逃れて何処に在すや 
 
砂に遊び校庭を駆け回ることさえも儘ならぬ子らに五月晴れ続く 
 
青空はこんなに広く青いのにわが内に降る鉛色の雨 
 
帽子マスク手袋をして帰る子らさつき咲く辺に歩みも止めず 
 
いつまでも放射線セシウム降りやまず夕べ激しきかっこうの声 
 
育てこし野菜を食べるも捨つるにもセシウム思えば迷う心ぞ 
 
息を吸う空気が重く苦しいと木槿の花が高きより言う 
 
地も水も放射能まみれになりゆきて潰されしフクシマいつ蘇る 
                    9首 本田昌子 
 
▼亡き夫の仕合せ思う 原発も大震災も知らずに逝きて 
 
原発に懸念抱きし歳月のもはや取り返しつかぬ政治よ 
                    2首 馬上キミ 
 
▼原発事故の収束はなお目処(めど)立たず沙羅の蕾の日々にふくらむ 
 
東電の言い訳テレビに見ておれば圧力鍋の沸騰しはじむ 
 
放射能の影響なるか贈答に今年は桃の注文あらず 
 
線量は気にしないと云いつつもトマトは熟れて畑に置かる 
                    4首 正木道子 
 
▼今日も又汚染の雨が無情にも此の我が郷にしとしとと降る 
                    1首 増子菊世 
 
▼原子炉の全廃せよと知事の云ふ 実現可能か危ぶみて見る 
                    1首 松原金輔 
 
▼原発の地域にいる息子(こ)の安否知らず電話通じぬいらだち募る 
                    1首 松本シズ子 
 
▼放射能災禍の中に滝桜今年も咲きたり命の限り 
 
恩恵もなかりしわが町今にして原発被害諸に受けゐる 
 
朝々に聞く放射能量風向きにより日々違ひ今日は少なし 
 
放射能量気にして暮らすわが畑に青菜はなべて茎太く立つ 
 
たわわなる柿の実それぞれ光りをり原発汚染届くわが町 
 
原発の汚染にてわれの聞き慣れぬセシウムベクレル日常語となる 
                    6首 三浦弘子 
 
▼木の芽起こしの雨こまやかに降りつづき見えざる汚染地にしみ入るか 
                     1首 水野たま 
 
▼馬鹿に馬鹿馬鹿の累乗重ねるか東京電力記者会見に 
 
社長とは謝罪の後に更迭が待ってゐるなり無能な人事 
 
大企業は偽の安全をマスコミの御用記者にと伝え行くなり 
 
春の夢いまだ見えざる被災地の炎燃えたり原発炉心 
 
原発の炉心の覆ひ吹き飛びて裂(き)れ深かかりし基地の峰々 
                     5首 水野洋一 
 
▼放射能を洗ひ流さむと高野槙に夫は放水をする強くやさしく 
 
比較的に放射線量高ければ個別に避難す幼の居る家 
 
早朝より公園の除染はじまりて重機の音のひときは高し 
 
削られし土は何処に持ち行くか隣りの主婦とひそひそ話す 
                     4首 三田享子 
 
▼大空に雲悠々と流れゆく真下のわれら核に戦く 
 
万能の科学の粋と誇りたる安全神話もろくも崩る 
 
山紫水明の里破壊する放射能わが文明の悪魔の使者か 
 
日に二回放射線量記録して一喜一憂の老妻あわれ 
                     4首 武藤昭三 
 
▼野を越えてミリシーベルトなどという言(こと)も吹かれくる嗚呼この四月 
 
けじめなく科学操りし人間のブーメランかも天地の間(あわい) 
                    2首 森合節子 
 
▼四月市原に響(ひびき)が生れる原発を楢葉いわきと遥か逃れきて 
 
三発目の原爆投下されしごと水素爆発のフクシマの悪夢 
 
原発の避難者を言い訳に「選り」の字を千葉の書店にひそと辞書ひく 
 
ヒロシマとナガサキに続きフクシマも片仮名表記の被曝地となりぬ 
                    4首 守岡和之 
 
▼放射能のマイクロシーベルトパーアワー日々の値気にしつつすぐ 
 
戦災を経験したるわれなれど地震や放射能日々におそるる 
 
放射能の線量値の定まらず収束願ふのみにすぎゆく 
 
夏休みに入(い)りて校庭の表土除去工事の重機はげしく動く 
                    4首 柳沼喜代子 
 
▼原子炉の破壊によりてわが近辺歩く人なしくるま通らず 
 
励まされ労らるるは老ゆゑか屋内退避に日々の過ぎゆく 
                    2首 柳沼ステ 
 
▼無造作に汚染のうるい毟り取り切藁(わら)だけ残るハウス空しき 
 
今日あれど明日知らざる命よと畑に立てば千切れ雲飛ぶ 
                    2首 矢内守子 
 
▼震度六強の地震にわが市はずたずたになり放射線まで 
 
何事もなかったやうに鯉幟り線量高き空を泳げり 
 
水清くみどり豊かな福島が「フクシマ」となり世界をめぐる 
 
あだたらの上の大空澄みゐるに放射線量けふも減るなく 
 
放射線量高き庭にも鬼百合の咲きたるけふは黄あげはひとつ 
 
三十年後県外に最終処分場つくると言ふを信じられますか 
                    6首 山内たみ子 
 
▼大地震破壊つくせる大津波原発事故が追討ちをかく 
 
容易くは原発事故はおさまらずパンドラの箱遂に開くや 
 
放射線運び来たるか原発ゆ気流ながるる街に暮して 
 
放射線運びてくるなと仰ぎたり五月の空の輝く雲を 
 
陽に向かい咲き続けるとう向日葵は放射線消す希望となるや 
 
育ちゆく孫らの被曝少なきをひたに祈れりこの地に生きて 
 
人の手に消す術のなき放射線除染のひびきは気休めのごと 
 
放射能見えざる恐怖福島に住む者の上行く手も見えず 
                    8首 山田教子 
 
▼ずっしりと空より重しのかかるごと原発の事故計り知らざる 
 
放射能汚染の被害は幾重にも風評を生み更に深まる 
 
放射能浴びる浴びないただならぬ風評風圧に稲作を止む 
 
放射能身にまつはるも今さらに吾に残れる道は農業 
 
風評に負けて作付け止めし田は雀も見えぬままに冬立つ 
                    5首 山野邊誠一 
 
▼シーベルト・グレイ・ベクレル何のこと地球滅亡しめす単位か 
 
満開の桜並木の映像に動くものなし 原発の町 
                    2首 山本圭子 
 
▼汚染なきを信じ買ひ来し県産の桃の旨しも不揃ひなれど 
                    1首 矢森妙子 
 
▼甲子園に宣誓する代表が東北の福島原発の事故に触れたり 
 
文学の歴史に識られる「細道」の奥ならめ道といま放射能を受く 
 
放射能のリスク多しといまにして校庭けずるを納得出来ぬ 
 
次々と詳しき説明も醒めて聴く原発施設持つ福島に住み 
                   4首 湯浅孝子 
 
▼半年を過ぐるも心より去らず原発事故と放射能被害 
 
フクシマのその名を世界に広めたる原発事故を憎みてやまず 
                   2首 油座美弥子 
 
▼人に涙見せずに泣きぬ 放射能降る無人の町に桜咲き初む 
 
原発事故にすっかり壊れてしまいたる心抱えてでも立ち上がる 
 
汚染水ひたひた海に広がりて地上も海も安らかならず 
 
魚・野菜・牛肉と汚染は限りなくびくびくして食む三度の食事 
 
爆発せし原子炉四基の地の底の真実を誰も知らぬ現実 
 
もう安全と誰が責任持つならん原子炉建屋の無残なる様よ 
 
励ましの言葉うれしも原発事故の悔しさ怒り消えない消せない 
 
こころ重く春から秋を過ごし来ぬこころに深く被曝を受けて 
 
福島に生まれて暮らして六十余年わがふる里よこの地に生きる 
                   9首 横田敏子 
 
▼原発の事故の恐怖に花見出来ず名残り惜しむに雨降り止まず 
 
柿の実のたわわに実り捥がずあり放射能浴びしか焔のごとし 
                   2首 横山秀子 
 
▼除染すと若き夫婦は水圧機で近所かまわず汚泥吹きとばす 
 
芝生剥ぎ緑消えたり公園の地面はセシウム怖いと泣けり 
 
セシウムと連日戦う重機群声なき緑の表土削りゆく 
                   3首 吉田直峰 
 
▼放射能はわが家の庭に満ちゐむか姿をくらます悪魔のごとく 
 
避難所は雪に覆はれ明けにけり桜も近きふるさと思ふ 
 
合言葉は家に帰りたし避難せる同郷の人らスーパーに会へば 
 
ぬすびとは暗き眼をして被災地の無人の家をめぐりてゐむか 
                   4首 吉田信雄 
 
▼除染せし園庭に遊ぶ幼子の声高くして屈託のなし 
 
シーベルトベクレル等と言ふ言葉わが父知らず逝きて一年 
                   2首 吉田雅子 
 
▼放射線検出されない野菜まで売れない怒り種屋のわれも 
                   1首 吉田守雄 
 
▼安全を信ずる外なしと詠みたるは二十年前の原発見学 
 
二十年前見学したる原発の事故レベル「7」が世界をゆるがす 
 
原発に知りわたりたるフクシマの桜桃りんご今花盛り 
 
放射能は空のいずこに留まるや今宵満月雲ひとつなき 
 
天災と云えど人間のかかわれる科学の粋の原発の惨 
 
肩書きのある人々が災害に言葉の瓦礫をテレビに流す 
 
気象図の日本にからむ前線が震災後には竜に見えくる 
                   7首 吉田玲子 
 
▼地震より恐ろしきもの姿なき放射線に追われ我ら避難す 
 
一点だけ見つめ無口な村民の一時帰宅をマスコミが追う 
                   2首 渡辺京子 
 
▼目に見えぬものに追われて父祖の地を怒り秘めつつ出でゆく悲し 
 
シーベルト気にしつ歩道の草むしる清掃奉仕の老ら黙(もだ)しつ 
 
天災と人災あやに重なれるみちのくの鬱(うつ)払え火の花 
                   3首 渡辺サチ 
 
▼隣家は放射線量意識してか庭木のほとんど坊主に切りぬ 
                   1首 渡辺千絵 
 
▼足場高し高き濃度を攪拌す知らされぬまま就きたる部署に 
 
疲れきて食む食事さへ貧しとふ「蟹工船」のタコ部屋に似て 
 (作業員の告発記事を見て二首) 
 
パニツクを恐れし政府発表に「大本営」はよみがへりたり 
 
暑き夜も炉心みつむる人らあり声くぐもれる防護服きて 
 
紅色に空あけそめぬ事もなく夜半の炉心は安けくあらんか 
 
この雲の流るる先にかの地あり瓦礫の山と白き人びと 
                  6首 渡邉美輪子 
 
 次回からも、福島の歌人の作品を読み続けたい。福島の現実だけを詠っているのではない。原発列島、すべての人々へのメッセージであると思う。原発をテーマにした作品が、全国から発信されることを願う。 
 
(つづく) 


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