2013年01月19日00時31分掲載  無料記事
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【2013年の初めに日本の原発事情を考える〜その1】 相手の手口を知るということ 齋藤ゆかり

[2013年1月15日にイタリアの日刊紙《イル・マニフェスト》に掲載される記事を元に、2012年12月、帰国時の報告を3回にわたって掲載します。 ©資料センター《雪の下の種》 齋藤ゆかり記] 
 
相手の手口を知る 
「1、誰も責任を取らない/縦割り組織を利用する 
 2、被害者や世論を混乱させ、「賛否両論」に持ち込む 
 3、被害者同士を対立させる 
 4、データを取らない/証拠を残さない 
 5、ひたすら時間稼ぎをする…」 
 
 これは、日本で「くに」が福島原発事故の被害者に対してとっている手口の一例だ。列挙するのは、京都を拠点に20年以上前から原発反対運動に取り組んでいるNGOグリーンアクションの創立者で代表のアイリーン・美緒子・スミスさん。曰く、国のやり方は、工場排水に含まれるメチル水銀が原因で1956年に最初の例が発覚した水俣病の場合と全く同じ。 
 
 非常に若くから著名なアメリカ人写真家で後に夫となるユージン・スミス氏の片腕となり、二人で九州の水俣に移住、この公害病の実態、企業の犯罪と被害者の苦悩を世界に知らしめたアイリーンさん以上に、二つのケースの共通点について的確な指摘をできる人はおそらくいないだろう。1950年、東京生まれ。アメリカ人を父、日本人を母にもつ。 
 
 彼女の手口リストは続く。 
 6、被害を過小評価するような調査をする 
 7、被害者を疲弊させ、あきらめさせる 
 8、認定制度を作り、被害者数を絞り込む 
 9、海外に情報を発信しない 
10、御用学者を呼び、国際会議を開く (毎日新聞2012年2月27日 東京夕刊から) 
 
 最後の点に、思わず失笑する。学会ではないけれども、昨年12月15日から17日に福島県郡山市で日本政府が主催し国際原子力機関(IAEA)が共催した「原子力安全に関する福島閣僚会議」を思い起こさずにはいられないからだ。 
 「117の国及び13の国際機関、46の国・国際機関から,閣僚・国際機関の長を含むハイレベルが参加」(外務省)した会議の成果物は、市民社会の危惧した通り、被害者の実情に即した要望には耳を傾けず、ひたすら自画自賛し現状を過小評価するものだった。それが、国際原子力機関のお墨付きで行なわれたのだ。 
 
 スミスさんは、「福島原発事故の教訓の一つは、原子力を推進する当局と規制する当局は分けなければならないということだった。日本政府は、国内では推進と規制を分けたのに、国際的権威を利用したいときには原子力の推進と査察・視察が分けられていないIAEAを容認、その助けで福島原発事故を過小評価しようとしている」と、日本政府の矛盾した姿勢を批判する。 
 
 
◆「分割して統治せよ」 
 
「あら、まだ福島にいるの? えっ、子供たちも? 大丈夫なの? どうして、早く逃げてこないの?」 
 
 もちろん善意で発せられるにせよ、このようなせりふほど、様々な事情で福島に残っている人たちにとって辛いものはないという。すでに抱える子らに対する罪悪感をさらに痛感させられ、繰り返し聞いているうちに、精神的な自衛手段から、マスクをするのも、線量を気にするのも、ついには考えることそのものもやめてしまう。あたかも何も起こらなかったかのように。 
 衝突はしなくても、避難した人としなかった人、被害者同士で口論になったり、遠慮し疎遠になったり、わかりあえなくなったりするケースが、時とともに増えていく。事故までは、お互いにうまくいっていた人たちなのに。 
 
 また、放射能を逃れて避難したのは、きっと経済的に余裕のある人たちなのだろうと想像しがちだが、実はそうでもないらしい。多いのは、なんとシングルマザーのケースだとか。親戚などのしがらみから自由で、持ち家や安定したいい仕事など、失うものがないからだと聞いて、なるほど、と頷いてしまう。 
 
 そうこうするうちに、政府や自治体は、避難者への支援の中止を宣言し、ふるさとへの思いにつけこんで、帰還を急かせている。除染の努力の甲斐あって、線量も下がってきているのだから、もう安全、というわけだ。そうした国の姿勢を、国際原子力機関は承認した。 
 
 それでも、福島の地元紙が最近行なった世論調査によれば、県民の4人に3人は県内の原子炉6基を「全て廃炉にすべき」だと考えているという。(福島民報2013年1月6日) 
 
 ところが、私たちには至極当然にもみえるこの結果も、先月誕生した日本の新政府の考え方とはいささか異なっている。新内閣の閣僚からは、早速、2030年代に脱原発を実現可能にするという、散々議論を重ねた末に、ようやく昨秋提案された前政権の方針を白紙撤回しようとする発言が相次いでいる。 
 
 そして、この方向転換を歓迎する県もある。60足らずキロの区間に14基の原発を抱える福井県だ。西川県知事は、年始の記者会見で、安倍政権による30年代の原発ゼロ目標を見直す現実的な施策への転換に期待感を表明し、「原子力は資源の乏しい日本にとって重要な電源」と県の考え方をあらためて強調。古い原発の廃炉の考え方や新増設などの戦略を明確に示した上でエネルギー政策の方向性を打ち出すよう求めて、原子力規制委員会の調査団が日本原電敦賀原発の敷地内断層は活断層の可能性が高いとの判断を示していることに関しては「単に少人数の関係委員だけでの議論では済まされない」と指摘した。(福井新聞2013年1月5日) 
 
 
◆原子力の罠にはまった福井 
 
 それにしても、なぜ、福井は福島原発事故にもかかわらず、原子力に固執するのだろうか。 
 その理由を理解する上で、現地を訪ねてみるのはいくらか役に立つかもしれない。 
 
(つづく) 


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