2013年02月08日09時27分掲載
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経済
デフレ不況脱出のカギは賃上げ 企業内部留保の還元を社員にも 安原和雄
信用金庫の経営トップが「デフレ不況脱出のカギは賃上げであり、逆に給与を削減すれば、消費が減り、企業の業績も悪化する」と指摘している。これは大企業経営者たちの「賃上げは、コスト負担増となって経営を圧迫する」という賃金抑制策への反旗というべきだろう。
どちらに軍配を挙げるべきだろうか。前者の賃上げ是認説に賛成したい。率直に採点すれば、後者の大企業経営者群は怠惰な集団である。これに反し、前者の信用金庫トップこそが勤勉な存在といえる。勤勉な発想は日本経済の再生、発展に貢献できると評価したい。
▽ 異色経営者の賃上げのすすめ
城南信用金庫(本店・東京都品川区)理事長の吉原 毅(つよし)氏は、デフレ不況脱出のカギは所得増、つまり「賃上げ」であり、いいかえれば企業内部留保の還元を社員にも、と指摘している。他方、企業が好む「賃金抑制」は内需を落ち込ませるという現状認識を率直に語っている。異色経営者の「賃上げ説」を「しんぶん赤旗・日曜版 2013年2月3日付」から紹介する。その大要は以下の通り。
アベノミクスに欠けているのは、賃上げと、雇用の安定のための政策だ。金融緩和で日銀がお金をいくら供給しても、実際に社会の中でお金が回らなければ、景気は良くならない。
一番問題なのは、賃上げのできる企業でさえ、上げていないことだ。利益を上げている企業や内部留保の大きい企業は、そのもうけを社員にも還元すべきだ。そのためにもいま発想の転換が必要だ。本当の競争力を強くするのは、目先の利益を追いかけるコスト削減ではない。
国内外で価格競争が激しくなり、企業はコストカットのために賃金を抑え、正社員を減らして非正規社員を増やしてきた。
その結果、国民の購買力が落ちてしまった。雇用の安定がなければ、結婚して子供をつくろうという前向きの意欲も起こらなくなる。少子化もますますひどくなっている。
各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然というかもしれない。しかしみんなが給与を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化する。これが「合成(ごうせい)の誤謬(ごびゅう)」で、大局的観点から見ないと、物事は失敗する。
消費税増税も反対だ。いま需要が減ってモノが売れないために景気が悪いのに、消費税を上げたらますます需要が落ち込む。
安さを競うのではなく、他にはない製品・サービスを産み出して、新しい需要をつくることが必要だ。この方向しか日本の生きる道はないと思う。
いま私たちも(金融機関として)お金を貸すだけでなく、それを使って、こういうことをやりましょうと、ビジネスの提案に相当力を入れている。
これからは就業斡旋(あっせん)もするつもりだ。城南信金の主催で「よい仕事おこし」フェア第2弾を8月6、7日に東京国際フォーラムで行うが、そこでは求職中の人と中小企業との出合いの場を設ける。
うちの経営方針は「人を大切にする、思いやりを大切にする」である。長い目で見れば、その方がはるかに企業の発展につながるということは、歴史が示している。
▽ 経営者は<反「合成の誤謬」>を実践する能力を
吉原理事長は、企業経営者でありながら、私企業の枠を超えて、いわば公共の視点を強調しているところがユニークといえるのではないか。大企業をはじめ、多くの企業が不況を口実にして企業の目先の損得にこだわり、内に閉じこもる傾向が強いのと対照的である。理事長発言の具体例をいくつか挙げてみよう。
(1)賃上げのできる企業でさえ、賃金を上げていないことは問題だ。利益を上げている企業や内部留保の大きい企業は、そのもうけを社員にも還元すべきだ。(利益の還元重視=安原の一言コメント。以下同じ)
(2)各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然というかもしれない。しかしみんなが給与を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化する。これが「合成の誤謬(ごびゅう)」で、大局的観点から判断しないと、物事は失敗する。(「合成の誤謬」を超えて)
(3)消費税増税も反対だ。いま需要が減ってモノが売れないために景気が悪いのに、消費税を上げたらますます需要が落ち込む。(消費税増は悪税)
(4)うちの経営方針は「人を大切にする、思いやりを大切にする」である。長い目で見れば、その方がはるかに企業の発展につながる。(人間尊重の経営)
<安原の感想>「合成の誤謬」から脱出して不況克服を!
ここでは「合成の誤謬」をどう評価すべきかに触れておきたい。吉原理事長は次のように指摘している。
各企業は先行きが不透明だから、コスト削減は当然というかもしれない。しかしみんなが給与(コスト)を削減すれば、消費が減り、日本全体の内需が落ち、企業の業績も悪化する。これが「合成の誤謬(ごびゅう)」で、大局的観点から見ないと、物事は失敗する、と。
合成の誤謬とは、企業経営上の個々の現象、行動(例えば不況対策としての賃金の引き下げ)は間違ってはいないように見えても、日本経済全体としては、矛盾(賃金引き下げによる消費の減退、景気の悪化)が深まる、という意味である。
「合成の誤謬」を避けるためには、給与の削減は好ましくないのである。だからこそ有能な経営者は賃上げを目指して<反「合成の誤謬」>を実践するだけの能力と決断力を身につけなければならない。
しかし現状ではあえて賃下げを拒否し、賃上げを実践できる経営者は少ない。そのことがかえって不況からの脱出を困難にしている。「合成の誤謬」から脱出し、不況克服を図ろうではないか。「人」、「思いやり」を大切にする「人間尊重の経営」を心掛けるためには企業経営者の広い見識と柔軟な決断力が不可欠である。
*「安原和雄の仏教経済塾」の転載記事
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