2013年02月24日09時59分掲載  無料記事
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核・原子力

「原発にもメーカー責任を」 グリーンピースが免責制度改正へキャンペーン

  東電の福島原発事故からまもなく2年になるのを控えて、国際環境団体グリーンピースが2月19日、『福島原発事故 空白の責任――守られた原子力産業』(原題: Fukushima Fallout: Nuclear business makes people pay and suffer)と題した報告書を発表した。報告書は、原子炉メーカーなど原子力産業が原発事故時の損害賠償責任を免除され、その代償を最終的に国民が負担するという現行の「制度的不公平」を指摘し、グリーンピースが今夏までの予定で「原発にもメーカー責任を」キャンペーンを開始した。(クアラルンプール=和田等) 
 
 この夏には原発事故の損害賠償制度の基本となっている「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)が改正されることになっており、それに向けてのキャンペーンだ。具体的には世界約20ヵ国のグリーンピース・ウェブサイト(日本事務所ウェブサイト:www.greenpeace.org/japan/ja/)などで、原子炉メーカーにも原発事故の責任を求める賛同者を集め、原発事故の責任が免除されている原子炉メーカーに対して消費者とともに働きかけをおこなっていく。 
 
 報告書でグリーンピースは、「大量の放射性物質が放出されてからほぼ2年経った今でも、何十万人、何百万という人が放射能汚染にさらされている。 被災者の日常生活は破壊され、住宅も、仕事も、事業も、農地も、コミュニティも失い、人生そのものが大きく変わってしまった。(それにもかかわらず)被災者が公正かつ迅速な賠償を受けていない一方で、原子力産業は事故の責任を回避し続けている」と指摘。 
 
 「福島第一原発事故では、およそ16万人もの人が避難を強いられている。東京電力の実質上の国有化や資本注入によって国民が税金で賠償費用を負担していく(福島第一原発事故が起きて以来、東京電力に投入された公的資金は約3兆5000億円規模に達する見込み)一方で、原子力産業は歪んだ制度によって守られており、製造した原子炉が大事故を起こした福島第一原発の原子炉メーカーでさえ、事故の責任を一切問われていない」ことを問題視している。 
 
 グリーンピースは具体的に福島第一原発に関わった原子炉メーカーとして、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)、日立、東芝の名前を挙げ、「これらメーカーは原発事故の責任を免れるどころか、ほかの多くの原子力関連企業とともに、福島第一原発の廃炉や 周辺地域の除染などに携わることで利益さえあげている」と指摘する。 
 
 また「原子力産業は『前代未聞の不公平な特権』を与えられ、原子力事業者、原子炉メーカー、投資家などが重大事故の際に被災者に対する賠償を十分かつ迅速におこなうような制度は確立されていない。こうした背景にはあるのは、原子力産業や政府が、原子力産業を保護する原子力損害賠償制度を設け、過失や事故の『ツケ』を市民に押しつけている現状がある」ことに言及。「市民を原子力のリスクから守るためには、この賠償制度を抜本的に改革し、原子力産業に自らの事業の結果と失敗について全面的に責任を負わせるようにする必要がある」と勧告する。 
 
 さらに「原子力発電所のサプライチェーン(供給網)は非常に複雑である上に不透明であるがゆえに、機器や設計に問題が生じた場合の最終的な責任の所在が不明瞭になり、責任の欠如を生み出す構造ができあがっている」として、「原子炉メーカーらに自らの落ち度に対して経済的責任を負わせることにすれば、資金が増えて被災者支援に役立つだけでなく、責任と透明性が強化され、原発のサプライチェーン全体に事故を防止するための動機が生まれる」と提起している。 
 
 一方、報告書では被災者に対する補償に関して次のように指摘する。 
 
 「事故後、放射能汚染地域から16万人が避難を強いられた。避難した人々にとって 新しい生活を始めることは非常に困難なうえに賠償手続きは複雑で、厳しい暮らしが続いている。原発事故の被災者は、不安定な状態のまま、過去と未来の板挟みに苦しんでいる。賠償手続きの問題点は多種多様である。請求の処理は遅いし、毎月の支払いは新しい生活を築くどころか生活の保証にも十分とは言えない。また、賠償は誰でももらえるわけではなく、運よくもらえたとしても失った自宅の価値の数分の一である。家や財産の損害に対して全額補償を受けた例はこれまでに一例もない」。 
 
 被災者の具体的な声の一例として、福島第一原発から約1.2キロの双葉町に住んでいて原発事故後着の身着のままの状態で東京の公営アパートに避難した68歳の女性が「世間では、こんなことが起きたらたっぷりお金をもらえるのだろうと思っているのでしょうが、とんでもない」と語った発言を紹介。東京電力から支払われた避難による損害への「仮払補償金」100万円は、最終的な決着がついた際には返還(最終補償額から差し引き)しなければならないこと、補償金を受け取ったとしても修理できないまま放置されている実家が雨などの浸水で腐食し始めていること、さらには放射能汚染により結局は元の家に再び戻ることはできないことへの不安をぬぐいきれない被災者女性の苦悩を伝えている。 
 
 グリーンピース・ジャパン 核・エネルギー担当の鈴木かずえさんは「本来守られるべきは、原子力産業ではなく、被災者と人々の安全です。福島原発事故の収束・除染費用、事故を起こした施設の廃炉コストなど事故の被害総額は20兆円ともいわれています。2013年夏に原子力損害賠償法が改正されます。制度による過ちの代償を市民が払うようなことは二度とあってはなりません」と福島原発事故から学ぶべき教訓をあらためて訴える。 
 
 最後にグリーンピースは、「危険な原発の稼働を一刻も早くゼロにし、原発からは撤退すべきだ。今こそ、安全かつコスト面でも優位な自然エネルギーによる発電に切り替えるべきだ。すでに自然エネルギーの技術は成熟しており、コスト競争力は増している。自然エネルギーこそ、原子力リスクのない未来を実現する鍵である」と呼びかけ、報告書を締めくくっている。 
 
 
◆グリーンピース報告書『福島原発事故 空白の責任――守られた原子力産業』(日本語版) 
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20130217_Report1.pdf 


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