2013年02月26日09時23分掲載
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検証・メディア
日米首脳会談後の日米同盟の行方は 大手メディアと沖縄紙が論じたこと 安原和雄
安倍首相の訪米による初の日米首脳会談後の日米同盟は何を目指すのか。メディアはどう論じているか。新聞社説の見出しを紹介すると、「懐の深い同盟を」、「安全運転を外交でも」、「アジア安定へ同盟強化を」、「同盟強化というけれど」、「犠牲強いる同盟」など日米同盟強化論から同盟批判まで多様である。
この新聞論調から見えてくるのは、日米同盟そのものが大きな転機に直面しているという事実である。特に沖縄紙からは「長年にわたって沖縄が強いられている構造的差別を解消する方向に直ちにかじを切ってもらいたい」という切実な声が伝わってくる。「日米軍事同盟時代の終わり」の始まりを示唆しているとはいえないか。
本土の大手5紙と沖縄の琉球新報の社説は日米首脳会談をどのように論評しているのか。まず各紙社説の見出しは以下の通り。なお東京新聞は2月25日付、他の各紙は24日付である。
*朝日新聞=TPPは消費者の視点で 懐の深い同盟関係を
*毎日新聞=「安全運転」を外交でも TPPで早く存在感を
*讀賣新聞=アジア安定へ同盟を強化せよ TPP参加の国内調整が急務だ
*日本経済新聞=同盟強化へ首相が行動するときだ
*東京新聞=日米首脳会談 同盟強化というけれど
*琉球新報=日米首脳会談 犠牲強いる“同盟”は幻想
以下、各紙社説の要点を紹介し、それぞれに安原のコメントをつける。
▽朝日新聞社説
日米同盟が大切であることには、私たちも同意する。だからといって、中国との対立を深めては、日本の利益を損なう。敵味方を分ける冷戦型ではなく、懐の深い戦略を描くよう首相に求める。
首相は、軍事面の同盟強化に前のめりだった。首脳会談では、防衛費の増額や、集団的自衛権行使の検討を始めたことを紹介し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの検討を進めると述べた。一方で、中国を牽制(けんせい)した。
そういう首相と、米国側の姿勢には温度差があった。オバマ大統領は記者団の前で「日米同盟はアジア太平洋地域の礎だ」と語ったが、子細には踏み込まず、「両国にとって一番重要な分野は経済成長だ」と力点の違いものぞかせた。
いまは、経済の相互依存が進み、米国は中国と敵対したくない。米中よりも日中のあつれきのほうが大きく、米国には日中の争いに巻き込まれることを懸念する声が強い。
<安原のコメント>「結びつき」を阻む策謀
朝日社説は次のようにも指摘している。「日米同盟を大切にしつつ、いろんな国とヒト、モノ、カネの結びを深め、相手を傷つけたら自身が立ちゆかぬ深い関係を築く。日中や日米中だけで力みあわぬよう、多様な地域連携の枠組みを作るのが得策だ。対立より結びつきで安全を図る戦略を構想しないと、日本は世界に取り残される」と。
「結びつきで安全を図る戦略」は一つの選択肢といえよう。従来とかく日米安保体制を足場にして、「結びつき」に背を向ける対立抗争を好んだ。その陰には米日両国好戦派の軍産複合体の策謀が潜んでいた。この策謀を果たしてどこまで抑え込むことが出来るかが「安全を図る戦略」のカギとなる。
▽毎日新聞社説
日米同盟を基軸に「強い日本」を目指すという安倍外交が、本格的なスタートを切った。北朝鮮の核開発や尖閣諸島をめぐる中国との対立など深刻な不安定要因を抱える日本にとって、今ほど外交力が試される時はない。その基盤となるのが米国との連携である。必要なのは、「強固な日米同盟」を背景にした賢明で注意深い外交だ。
日本から対立をあおるようなことはしない。領土をめぐる問題は力ではなく対話で解決する。この2点を日米両首脳が世界に向かって発信したことを、中国は重く受け止めるべきだ。一方、日米同盟強化は他国とことさら対立するためではなく、アジアに安定をもたらすためのものでなければならない。安倍氏にはタカ派色を抑制しながら、現実主義的な外交をこれからも続けてもらいたい。外交の「安全運転」は、米国が望んでいることでもある。
<安原のコメント> 「強固な日米同盟」と「外交の安全運転」
前段に「強い日本」、「強固な日米同盟」という認識が強調されている。しかも日米同盟に支えられた「強い」であり、「強固」である。「強い精神力」という意味だろうか。そういう理解はここではむずかしい。やはり軍事力に支えられた「強い日本」であり、「強固な日米同盟」と理解できる。
しかし一方では「日本から対立をあおるようなことはしない」、「日米同盟強化は他国とことさら対立するためではなく、・・・」という釈明が付け加わっている。これが<外交の「安全運転」を>とつながっている。「強い日本」と「外交の安全運転」とが表裏一体の関係にある。軍事力のみに依存する時代ではもはやないということか。
▽讀賣新聞社説
オバマ米政権も、安倍政権との間で日米関係を再構築することがアジア全体の安定につながり、自らのアジア重視戦略にも資する、と判断しているのだろう。
焦点だった日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、日米両首脳は共同声明を発表した。全品目を交渉対象にするとの原則を堅持しながら、全ての関税撤廃を事前に約束する必要はないことを確認した。首相は訪米前、「聖域なき関税撤廃を前提とする交渉参加には反対する」との自民党政権公約を順守する方針を強調していた。
公約と交渉参加を両立させる今回の日米合意の意義は大きい。成長著しいアジアの活力を取り込むTPP参加は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成長戦略の重要な柱となり、経済再生を促進する効果が期待されよう。
<安原のコメント> アベノミクス始動の必要条件
「いよいよアベノミクス始動」へ、という大いなる期待を込めた社説である。しかし本当のところ、どこまで期待できるのだろうか。アベノミクスとは、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「成長戦略」という3本の柱からなっている。とくに日本銀行には物価上昇率2%を目標に金融緩和を進めることを期待している。
重要なことは新規需要をどこに求めるかである。首相の頭にあるのは、成長著しいアジアの活力を取り込むためのTPP参加である。しかしあえて指摘すれば、なぜ国内需要に目を向けないのか。例えば300兆円ともいわれる大企業中心の内部留保を賃金として還元することだ。これこそがアベノミクス始動の必要条件であるべきではないか。
▽日本経済新聞社説
今回の訪米で日米関係を強める道筋を敷くことはできた。だが、それが実を結ぶかどうかは、今後の行動にかかっている。その最たるものが、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉への参加問題だ。そもそも、日米両国にとっての最大の課題は、台頭する中国にどう向き合い、協力を引き出していくかである。TPPはそのための経済の枠組みだ。両国は同様に、外交・安全保障面でも協力の足場を固めなければならない。
日米同盟を深めるためには、言葉だけでなく、行動が必要だ。米国の国防予算は大幅に削られようとしている。米軍のアジア関与が息切れしないよう、日本として支えていく努力が大切だ。では、どうすればよいのか。まずは、安倍首相が会談でも約束した日本の防衛力強化だ。日本を守るための負担が減れば、米軍はアジアの他の地域に余力を回せる。
<安原のコメント>「日本の防衛力強化」は疑問
「日本の防衛力強化」というお人好しの主張もいい加減にして貰いたい ― この日経社説を一読して得た印象である。かつて経済記者は防衛力(=軍事力)の強化にはそれなりの距離をおいて観察していたものだ。なぜなら日常の国民生活に貢献しない軍需生産が活発になれば、民生圧迫で、経済の不健全化を招くと考えたからである。
しかし最近は発想に変化が生じているらしい。「日米同盟深化」を大義名分として「日本の防衛力強化」に乗り出せ、とそそのかしているだけではない。「日本を守るための負担が減れば、米軍はアジアの他の地域に余力を回せる」と負担の肩代わりまで提案している。「防衛力強化」論は、好戦派の意図するところで、それとは一線を画して、なぜ軍縮への提唱を試みようとはしないのか、不思議である。
▽東京新聞社説
民主党政権時代に日米関係が悪化し、自民党政権に代わって改善したという幻想を振りまくのは建設的ではない。
首相が同盟の信頼を強めるというのなら、むしろ安保体制の脆弱(ぜいじゃく)性克服に力を入れるべきである。それは在日米軍基地の74%が集中する沖縄県の基地負担軽減だ。国外・県外移設など抜本的な解決策を模索し始める時期ではないか。住民の反発が基地を囲む同盟関係が強固とは言えまい。
中国の台頭は日米のみならず、アジア・太平洋の国々にとって関心事項だ。首相が尖閣諸島をめぐる問題で「冷静に対処する考え」を伝えたことは評価したい。毅然(きぜん)とした対応は必要だが、緊張をいたずらに高めないことも、日米同盟における日本の重い役割だ。
<安原のコメント> 中国にどう対応するか ― 日中米ソ平和同盟へ
中国にどう対応し、アジアの平和をどう確立するかを思案するとき、「悲劇の宰相」として知られる石橋湛山(1884〜1973年)を想い起こさずにはいられない。湛山は「日中米ソ平和同盟」を提唱したことで知られる。日米間の日米安保条約を中国、ソ連にまで広げ、相互安全保障条約に格上げする構想で、現在なら、南北朝鮮の参加も視野に入れたい。
目下のところ、残念ながらこのような構想には目が届かず、目先の対立抗争に神経をとがらせているのは、決して智慧ある所業とはいえない。社説が指摘するように「緊張をいたずらに高めないことも、日米同盟における日本の重い役割」だとすれば、湛山流の平和同盟志向は、「戦争放棄」の平和憲法を持つ日本の歴史的役割とはいえないか。
▽琉球新報社説
懸案の普天間問題で日米両首脳は、名護市辺野古移設の推進方針で一致した。だが、県内移設は知事が事実上不可能との立場を鮮明にし、県内全41市町村長が明確に反対している。日米合意自体が有名無実化している現実を、両首脳は直視すべきだ。
首相の日米同盟復活宣言は、基地の過重負担の軽減を切望する県民からすれば、対米追従路線の拡充・強化としか映らない。長年にわたって沖縄が強いられている構造的差別を解消する方向に直ちにかじを切ってもらいたい。
首脳会談で、辺野古の埋め立て申請時期に触れなかったことが、沖縄に対する免罪符になると考えているとすれば、思い違いも甚だしい。日米安全保障体制が沖縄の犠牲の上に成り立っている状況を抜本的に改善しない限り、日米関係の強化も完全復活も、幻想にすぎないと自覚すべきだ。
<安原のコメント> 構造的差別の解消を
冒頭で紹介した琉球新報社説の見出しを再録すれば、<日米首脳会談 犠牲強いる“同盟”は幻想>となっている。なぜ首相の日米同盟復活宣言は幻想なのか。それはこの宣言からは「長年にわたって沖縄が強いられている構造的差別」を解消する方向がみえてこないからである。ここでの構造的差別とは、沖縄県民にとっての米軍基地の加重負担であり、対米追従路線の拡充・強化であり、さらに沖縄の犠牲を強いる日米安保体制そのものから生じている。
沖縄に見るこの構造的差別は、基地と無関係に暮らす本土のかなりの人々には実感しにくいことは否めないかも知れない。私(安原)自身は、かつて軍事問題担当記者として沖縄の米軍基地を訪ねたというささやかな体験があることを付記しておく。
*「安原和雄の仏教経済塾」からの転載
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