2013年04月13日08時30分掲載  無料記事
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アフリカ

モダンノマドの日記  雨季を待ちながら  アンドレイ・モロビッチ

  サハラ周辺をさすらうスロベニア人の作家アンドレイ・モロビッチさんからメールが届いた。 
 
  「eメールの書き手としては実に怠惰になってしまったことを本当にすまなく思っている。どういうわけか、僕はこのところパソコンを避けていたんだ。今、僕はブルキナファソのボボ・ディウラッソという町にいる。妻と僕はこの町で少し前に家を借りて安楽な暮らしをエンジョイしているんだ。」 
 
  モロビッチさんからのeメールは最近途絶えていた。インターネット時代以前の時代なら葉書や手紙で通信していたから、相手から手紙がいつ届くかわからなかったし、途絶えたとしてもさして気にすることもなかった。そもそも手紙が相手に届くまで数日かかっていた。だが、金も情報も、そして人も短期間であるいは瞬時で行きかうインターネット時代において人はどんどん待てなくなっている。だから、eメールが届かなくなると、相手の身に何か起こったんじゃないか、とか、相手から嫌われてしまったんじゃないか、とかどちらかというとよくない方向に想像力が働いてしまいがちだ。 
 
  「僕はここにもう少しいるつもりだ。3月と4月は非常に暑い。アフリカの典型的な暑さだよ。でも、それからしばらくすると天候がよくなってくる。つまり、雨季が始まるんだ。だから、雨を待つ間にeメールで連絡したのさ アンドレイ」 
 
  アフリカに行くと、人は「アフリカンタイム」という、日本とは違った時間体系を否が応でも知ることになる。予定時間はあって無きがごとし。会議の予定時間に行っても、午前中のはずが午後だったりする。その事情を知らないと、1分また1分・・・とじりじり待つことになる。日本の地下鉄に乗ったら1分到着が遅れても繰り返し、アナウンスでお詫びが入るが、そのようなことはアフリカにはない。よく言われるのは「予定されていたスケジュール表の時間ではなく、実際に会った時間が’予定’時間」ということだ。 
 
  逆説的だが、時間に正確な社会になればなるほど、そしてテンポアップすればするほど季節感が失われていく傾向があるように思う。時間は細分化されていく。だから時間感覚はミクロに、秒単位になっていく。そして食事でも、買い物でもモノが出てくるまで待てなくなる。社会がスピードアップした分、動きが緩慢な高齢者への敬意も寛容さも失われる。最近多いのはしゃべっている相手に対して、これみよがしに腕時計を見る姿を見せる人のケースだ。これなどは「スピーチは30秒でお願いします」といったテレビの時間感覚なのである。 
 
  その一方で、季節の変わり目のような大きな変化を感じ取る感覚が弱まっている。風を感じたり、夕日を眺めたり、星を見上げたりして過ごす時間はなくなってしまった。時間を知識として知ることと、時間を内面から感じることには大きな違いがある。1日は細分化され、微細な時間には敏感だが、人生の中で自分が今どの時間を生きているのかそれについてもわからなくなりがちだ。モロビッチさんがパソコンを避けようとしていた理由もそんなところにあるのではないか。eメールに英語で書かれていたイージーゴーイングライフ、僕は「安楽な暮らし」と仮に訳したのだが、「安楽」という言葉だけでは十分に伝わらない意味が込められているように思われる。 
 
  以下はモロビッチさんからのeメール。 
 
I'm really sorry to have become such lousy e-mail writer 
somehow I avoided my computer as much as I could 
 
I'm presently in Burkina Faso in a town called Bobo Dioulasso 
My wife and me rented a house here 
and enjoy the easy going life here since a few months 
 
me might stay here for some time 
march and april are tipically very very hot, then the wether gets better, meaning it starts raining 
 
so, I salute you while I wait for the rain 
 
best regards 
 
andrej 
 
手紙:アンドレイ・モロビッチ 
村上良太 
 
■モロビッチさんの著書 
http://andrejmorovic.wordpress.com/ 
■モロビッチ氏の伴侶 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201301261800116 
■「モダンノマドの日記」モーリタニアからマリに入る  アンドレイ・モロビッチ 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201212180203202 
■モダンノマドの日記  「生きている」  アンドレイ・モロビッチ 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201302102327420 
■現代の遊牧民〜「モダン・ノマドの日記」〜アンドレイ・モロビッチ 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201201150322290 


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