2013年04月14日00時01分掲載
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国際
【北沢洋子の世界の底流】キプロスの銀行のメルトダウン(中) 繰り返される金融危機の根源
スイス、ケイマン諸島(英領)などは、古くから知れたタックスヘイブンの地である。しかし、今回のキプロスの銀行危機で明らかになったように、多くの国が、「タックスヘイブン」となり、金融で生計を立てている。
4.キプロスの金融危機に続く国
(1)スロベニア
スロベニアはユーロ圏の中でも人口200万人という小国である。旧ユーゴから最初に離脱した国である。スロベニアの銀行預金高はGDPの200%に上る。キプロスの900%に比べると取るに足らない比率であるが。
3月末、IMFはスロベニアについての年次報告書を発表した。スロベニアの銀行が、「大量の不良債権を抱えており、動きが取れない状況にある」と警告した。「三大銀行が抱える不良債権は、11年には16%であったものが、12年には、20%に増えた」として、「スロベニアの銀行を救済するためには、10億ドルの資本注入が必要」だと述べた。
スロベニアの銀行は、旧ユーゴ時代には国営銀行であり、国の指導者たちの取り巻き企業に放漫に融資をした。つまり銀行の不良債権は破産した企業の債権である。したがって、IMFは、スロベニアに対する救済融資をする理由がない、と結論づけている。
(2)マルタ
地中海に浮かぶ旧英領で、64年に独立した。面積300km2という小さな島に人口は400万人である。04年にEUに加盟した。天然資源に乏しく、水・エネルギー資源がない。80年代にいたるまでは、マルタの経済は観光業に依存していた。それが、25年前に変化した。国ぐるみで、アイルランドやルクセンブルグに対抗できる「金融センター」設立に取り組んだ。
マルタは、タックスヘイブン、または低い法人税の国として知られる。これは、どちらも正しくない。マルタはECの勧告に基づいて、それまでの税制度を改正し、07年には、EU規定の税制度になった。
しかし、詳しく内容を検討すると、たとえば、法人税は35%だが、配当の分配では、株主は7分の6をリファンドされるので、法人税は5%になる。金融専門の『International Banker』(『ファイナンシャルタイムズ』の月刊誌)は、マルタは「預金の安全天国である。キプロスの騒動では、飛行機で2時間のマルタは、資本脱出先としては有利だ」と述べている。
マルタの銀行資産はGDPに上る。しかし、その中で、不良債権の割合は不明である。噂では、非常に多いということだ。
(3)ルクセンブルグ
キプロスに金融メルトダウンが起こると、キプロスに投資していた外国人の預金を狙って、多くの国が名乗りを上げた。その中で、大物はルクセンブルグである。
ルクセンブルグは、大公国で、人口僅か48万人、内陸国で、都市国家である。市内には、世界中の名の知れた銀行が軒を並べ、GDPの22倍に上る預金を世界中から集めている。
ルクセンブルグは1人当たりのGDPでは世界一の金持ち国である。多分、ルクセンブルグには救済融資Bail Outの必要はないだろう。ルクセンブルグのタックスヘイブンは歴史が古く、これまで、集めた預金の投資先を慎重に選んできた。しかし、ドイツのウォルガング・ショイブレ蔵相や「トロイカ」が躍起になって規制しようとしている「金融部門の超肥大化」については、ルクセンブルグは、GDPの21.7倍である。その額は300億ドルにのぼり、20カ国の銀行で操作している。
「Mokas」の秘密度では、ルクセンブルグは1621.2と高いが、「Societe de Gestion de Ptrimoine」という制度を設け、資産の安全運営を保障している。四半期毎にわずか0.25%の税を支払うほかには、非居住者には資本、利潤、付加価値税(VAT)などを免税にしている。ルクセンブルグ政府は「金融ヘイブンは非持続可能で、不正だ」という議論に反対している。
マルタ、ルクセンブルグに続いて、ペルシャ湾のドバイ、シンガポールも手を挙げている。これらの国は、キプロスが集めた資金を狙っている「ハゲタカ」である。
5.金融危機の根源
一連の金融危機を見ると、現行の銀行制度は非常に脆いことが判る。その結果、危機が繰り返し襲ってくる。
これには、2つの理由がある。
第1に、世界規模で銀行の不正な投資が行われている。銀行にどれほど隠れた資金があるか、誰も知らない。それは約2〜3兆ドルと言われる。IMFは8,000億ドルの不良債権があると試算している。
第2に、1999年までは、世界は現在のような恒常的な金融危機を経験したことがなかった。それは単純な理由である。それまでは、銀行は預金を投機に使っていなかった。銀行は、預金を、注意深く選んだ家族や企業に貸した。これには一定の事業の質、返済の見通しなどの基準があり、そして、担保を取った。
しかし、クリントン政権時代に、商業銀行と投資銀行との境が取り払われた。そして、すべての銀行が、金融市場に参入し、「デリバティブ」などハイリスクのメカニズムを導入した。
これが、生産と金融の乖離をもたらした。金融は1人立ちしはじめ、ハイリスク・ハイリターンを求め、さらに頭取たちは巨額のボーナスを受け取った。
今日、モノの生産やサービスによって生み出される1ドルに対して、その40倍のドルが金融取引で使われている。勿論、家族や企業に融資する儲けよりも、金融市場でのスペキュレーションの儲けの方がはるかに大きい。
(つづく)
国際問題評論家
Yoko Kitazawa
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
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