2013年04月22日00時30分掲載  無料記事
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堀川惠子著「裁かれた命〜死刑囚から届いた手紙」 原村政樹(ドキュメンタリー映画監督)

近年、これほど胸を打たれる感動を受けた本はない。中学時代、ドストエフスキーの「罪と罰」を正月休みに読みとおした時の感動以来であった。 
 
  著者の堀川惠子さんは私と同業のドキュメンタリーディレクターで、かつ、活字メディアでも活躍している。彼女と初めて会ったのはある番組の懇親会、その時、一度きりだったが、これほどまでに凄い創り手だとは想像もつかなかった。死刑囚とそれに関わる検察官、裁判官、家族などとの手紙を通して、死刑という非常にシビアなテーマで、人間の深さを、事実を丹念に取材して...、私情を表に出すことなく、真実を伝えている。 
 
  涙なしに読み続ける事はできない。かわいそうだからといった軽い涙ではない。私自身の魂に切り込んでくる厳しい人間の内面を突き刺される、私自身の人生観を変えてしまいそうな身体から沁み出てくる涙である。しかも、多くは、あまりの現実に涙が目の中の内側のぎりぎりまで出そうで、出てこない。 
 
  かつて、海女のリャンさんが53年ぶりに故郷、済州等を訪ね、葬式にも参加できなかった両親の墓前を参った時、「悲しすぎて涙が出ない」と言っていたが、悲しすぎる、ということではないが、「あまりの人間の深部の描写に涙が身体の外へ出てこない」といった感じを受けた。それでも号泣したくなる所も多々あった。 
 
  勿論、読み進める中でそうした感情が噴出する部分よりも、理性で読み進められる所の方が多いのだから、泣きっぱなしということではない。著者の取材への粘り、姿勢にも同業者として感動を覚える。 
 
  私は、現在進行形の出来事で、先が読めないテーマをこのところ、関わってきて、それはそれでとても難しいのだが、終わってしまった過去を膨大な時間を費やして膨大な資料を読み込み、多くの関係者との深い関係を築きあげながら、事実を深く掘り下げる著者のエネルギー、そして知性に脱帽するばかりだ。 
 
  この本を手にしたのは、私自身が過去の歴史から見つめる作品をしよう。しかし、それには学究的な知性と理性が薄い私にとってとても不得意な分野だから、同業者の彼女がどのように取材を進めてきたのか、彼女が制作したETV特集はすべて見ているが、映像作品だけではなく、本にまでしているのだから、ただ、時間の流れに押されながら見る事を強要される映像作品ではなく、考えながら、途中で止まりながら、そしてまた考えながらをくりかえすことのできる活字メディアから学ぼうと思って手にした。 
 
  とても今の私が敵うことのできない真摯で粘り強く深い取材を長期間、取材対象者との信頼関係でやり遂げた仕事に圧倒されている。死刑についても、彼女はあとがきで自身の考えを述べているが、あとがき意外では自身の主義を書かない。こうした考え方は私と全く同じで、例えば最近、完成させた原発問題を農業から描いた映画「天に栄える村」でも、私自身は原発に反対の立場ではあるが、そうした自身の主張は一切しなかった。避けたのではない。ドキュメンタリー制作者は運動家になってはならないという信念があるからである。 
 
  話は逸れるが、私は教育映画やPR映画出身なので、ある主張をすることに違和感を感じ、テレビドキュメンタリーの世界に入り、そこから長編自主映画へと発展していった。事実を積み重ねることで、それを見たり読んだりした人それぞれが考えればいいと思うからである。そうした姿勢に堀川さんには親近感を感じた。 
 
  私自身、死刑、について、賛成か反対か、と問われれば、冤罪を別にした上で、どちらとも言えない。もしかしたら、死刑、を容認する気持ちの方が大きい気もする。しかし、この本を読んで、死刑について今後、もっと考えを深めていかなれればならないと思うようになった。言えることは、死刑は国家権力による殺人行為であるということが、理屈ではなく、よく感じ取れた。 
 
原村政樹 ドキュメンタリー映画監督 
 
■「原発事故に立ち向かうコメ農家」再放送のお知らせと原村ディレクターからの手紙 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201112261043271 
■【TV制作者シリーズ【(9)アジアを舞台に農と食、そして人生を撮る原村政樹ディレクター 
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