2013年04月24日10時27分掲載
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経済
財政緊縮政策の理論的根拠の間違い 米大学院生が再検証
ギリシャの財政危機を避けるための緊縮策を始め、アメリカの現政府・共和党の緊縮財政などの理論的根拠は、ハーバード大の二人の著名な経済学者:カルメン・ラインハートとケネス・ロゴフによる論文「負債時の成長」(2010, http://www.nber.org/papers/w15639)なるものだそうである。論文発表以来、財政緊縮策を正当化するための根拠として広く引用されている。この論文の主要な結論は、國の総負債額がGDPの90%を超えると、経済成長が極端に低下する、だから、このような負債は何としても避けるべきであるとなる。これを根拠に、例えば、雇用創出より、負債削減の方が国家経済にとっては重要であるということになる。これが、現在の経済危機の根底にある。(バンクーバー・落合栄一郎)
以下の報告は、この文の最後の記事(*)に基づいている。さて、このハーバードからの論文は、出た当時、様々な経済学者を驚かせ、疑問を抱かせた。それにも拘らず、データはかなり信憑性があるように見え、緊縮政策をとる政治家などは驚喜してこれを論拠にした。
さて、マサチューセッツ大の大学院生トマス・ハーンドンが、授業プロジェクトとしてこの論文の結果を再現してみようとした。しかし、そのためのオリジナルデータが不足していたので、ハーバード大の教授達に、そうしたデータを送ってくれるように依頼し、送ってもらうことに成功した。それを再検討してみて、彼は、元の論文に様々な問題があることを発見し、唖然とした。
彼のクラスの教授達と検討した結果、データの改竄ではないが、データの取捨選択があり、国家それぞれへの負荷の置き方に問題があり、その上、エクセルスプレッドシートの計算方法に間違いがあり、しかも高い負債を抱えているにも拘らず、通常レベルの成長を続けている国家を計算に入れないといった、とんでもないやり方であった。こうした誤りを正して、計算し直してみると、元の論文の結論は完全な間違いであり、負債/GDPが90%をこしても、経済成長率はマイナスになるどころか、2.2%成長となったそうである。
このような初歩的な間違いに気がつかずに、論文を発表したことが先ず問題だし、それが今まで充分に再検討されなかった上に、それに基づいて多くの國で、財政緊縮策が強行されていること、それが齎している社会混乱。これは、おそらく、ハーバード大という名と、その著名教授という虚名がもたらしたものであろう。彼らが、単なる不注意でこんな間違った論文を作り出したのか、何らかの意図があったのかはわからないが。
ただし、経済成長の持続などというものがあり得ないことは、事実であり、そうしたもっと基本的なことは、ここでは問題にされていない。
(*:http://www.alternet.org/economy/meet-28-year-old-student-who-exposed-two-harvard-professors-whose-shoddy-research-drove)
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