2013年05月09日11時27分掲載
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文化
【核を詠う】(105)歌集『平成大震災』(「歩道」同人アンソロジー、秋葉四郎編)から原発詠を読む(3)原発の汚染おそれて放置せし葱が列なし坊主花咲く 山崎芳彦
筆者の住む茨城県南部の地では、このゴールデン・ウィーク中にほぼ田植が終わり、連日のような強風の中で、幼い苗が水張田に葉先を覗かせ列をなしゆれている。夕方には田の面があかねに染まり、夕陽が水面に映り、田の道を歩くのは心地よい時間である。時どき田の中に立つ農婦に会うがその顔もあかねに染まっている。
そんな日々を過ごしてはいるが、前回にも少しだけ触れたが、去る4月28日に「福島・三春町の農家から春を 三春花見まつりー滝桜の下で三たびの集いを!」に参加して、三春町、田村市都路地区の農家の人々と交流し、原発事故の被災のなかでの地域の農業の現状や、復興に取り組んでの成果などについて話を聞いてきたばかりであっただけに、なかでもJAたむら管内の水稲作付け再開地区(2年間作付け休止を余儀なくされた)で今年の作付け(田植)は可能免責の30%に満たないだろうという説明があったことを思い起こし、同地の地域農業の今後について不安にとらわれもしている。
おそらく、同地でも、原発事故以前までにも長期にわたっての農業切り捨てにつながる農政がつづいたなかで、農業の地盤沈下、後継者難などがあっただろう。その上に原発事故による深刻な放射能被害である。それに立ち向かい農業を続けることの労苦、さらにTPP問題など農業をめぐる諸問題が厳しい状況のなかでの作付け再開へのためらい、今年も作付けが行なわれなければ容易ではない状況につながっていく可能性を思わないではいられない。地域農業を維持し守りぬくには、農業就業者、耕作地が一定の規模をもつ必要があるのだと、農業者ではない筆者にも思える。
三春町や田村市の農業者の、原発事故以降のねばりづよく、困難にめげない取り組みと、その成果、今後への展望についての話を聞くことができたし、そのことを具体的に伝え、広げ、共同と連帯の具体的な内容を作り出さなければならない、筆者もそのことに参加しなければならないと思いながら、身の回りの田植を終えた水田を見ている。
筆者の住むこの地域でも農業後継者難が深刻であり、就農者の高齢化が進んでいる。受託により比較的大規模に稲作農業をしていた農家が、働き手の不足、高齢化によって委託者に農地を返さざるを得なくなり、委託していた農地が耕作されなくなり、水田が荒れてしまうと言う状況がこの数年来起こっている。専業農家は一戸も無く、先行きを見通せない現状だ。
一昨年には、福島第一原発事故による放射能の影響で、ホットスポット地区が各所に生れ、田植ができるのか農家の人びとは不安の中にあった。稲作中心の農業地域であるだけに、地域の集まりでは、作付けはできたとしても収穫時に出荷できるかなど、深刻な雰囲気があった。茨城県内各地で野菜や畜産、果実、茶葉の出荷制限があったこともあって、放射能不安はつよかった。幸いにして、秋には放射能値の検査が行なわれて、米の出荷制限はなかったが、茨城産ということで販売には少なくない影響があった。今年も、田植のまえに地域の人々との話題には原発問題にかかわることが多かった。東海原発の動向に関心が集まった。
筆者は農業をしていないが、兼業とはいえ稲作をする友人知己が多く、原発と農業に関心を持たざるを得ないし、そればかりではなくこの原発問題から、こととして目をそむけることができない。いまも「核を詠う」短歌作品を読みながら原発について、そのあってはならない存在、原発からの脱却について考える。
『平成大震災』から原発詠を抄出しながら記しているが、農、食、子どもの生活と健康などにかかわる作品が数多い。日々の生活を省み、これからの生を考えて、思いは揺れる。
いま『原発事故と農の復興』(2013年3月11日、コモンズ刊、2013年1月20日に開催された有機農業技術会議主催の公開討論会「原発事故・放射能汚染と農業・農村の復興の道」 討論者は小出裕章・明峯哲夫・中島紀一・菅野正寿)を読みながら、いろいろ学ばされたり、迷路に入ったりしているが、前述の「三春花見まつり」への参加での経験と重ね合わせて考えることが多い。
それにしても、許し難いのは安倍首相の経済団体、大企業首脳を伴っての外遊であり、「世界最高の原発技術」と途方もなく恥知らずの看板を掲げての原発の輸出「外交」である。これほどの重大事故をひき起こした原因の根本的な究明もなされず、多くの苦難を自国の人々に強いながら、明確で責任のあるエネルギー政策も持たないまま、国内の原発再稼働を急ぎ、さらに海外に原発を拡散しようというのである。恐るべき危険の輸出、未来を破壊に導く恐怖の輸出、「命より金が大事」の反人間の行為である。
福島原発だけの事故でも現状のような苦難、苦患を人々に与えているその原因を作ったのは、歴代の自民党政府の原子力政策であった。そして今、あの事故を経てもなお原発推進政策をためらいもなく進めつつあるのも自民党政府であり、その周辺にある政治勢力と、大企業・財界なのだ。放射能苦を詠う人々、それを詠わないではいられない現実は、詠った人々だけの現実ではない。この国に生きる人々全ての現実ではないだろうか。だから、いま読んでいる歌があると思うと、心が締めつけられる。
◇福島編(3)◇
▼出荷停止と言へば榾木の椎茸を日をつぎ取り捨つうづたかきまで
全県下作付け止めし葉煙草畑市は放射能量日々放送す
厭はしき放射能知らず逝きし夫今日五年祭つつましくする
放射能セシウム無きを祈りつつ馬鈴薯を掘る土中に肥えしを
侘しさはかくの如きか放射能に学童あまた県離りゆく
原発にて東京に帰り子を生みし孫よその子よすこやけくあれ
除染せし校舎に帰り来(きた)る子ら互に励ます七か月経て
7首 宗像友子
▼放射能のマイクロシーベルトパーアワー日々その値(あたひ)気にし
つつすぐ
筍(たけのこ)や_(たら)の芽さへや風評の被害にて友出荷あきらむ
夏休みに入りて校庭の表土除去工事の重機はげしく動く
身内なる子があわただしく避難決め京都桃山に転入したり
4首 柳沼喜代子
▼何もかも空しくなりてこの頃は屋内退避に身を委ねをり
柳沼ステ
▼原発の放射能恐れ午前二時孫ら起こして信濃に逃ぐる
避難してやうやく来る草加市は計画停電ゆゑにし暗し
鶴岡と山梨の地に避難せし孫ら外にて遊びゐるとぞ
3首 柳沼文子
▼春耕の季節となりて原発の事故収束の見えぬこの日々
青々と芝生広がる公園に憩ふ大人も子供も見えず
放射能心配しつつ過ごしをれば梅の実熟れて数多落ちたり
シーベルトベクレル等と日々聞きて半年すぎぬ恐怖は消えず
震災後健康管理調査等書類届きて不安いや増す
◇茨城編◇
▼原発の夜のニユース見るにつけ胸の動悸はをさまりがたし
荒川愛子
▼菜園より取り来し水菜を洗ひをり放射能数値のニュース聞きつつ
猪瀬千代子
▼八月に入りても蝉の声のなく放射能とのかかはりを言ふ
加藤清位
▼原発の稼働めぐりてさわがしき一村の無慚野分の寒し
齋藤すみ子
▼放射性物質拡散のその予測おほよそ日本全土に及ぶ
猿田彦太郎
▼いくばくか放射能汚染せし畑の表土取り去るこころ憂ひて
田村 守
▼出荷せし野菜そのまま返さるる見えぬ放射能の怖さに脅ゆ
わが町の今年の米に放射能検出されずと回覧が来る
2首 日向野恵美子
▼放射能に汚染されしと出荷せぬ畑に広く欠菜が育つ
深谷粹子
▼放射能をふくめるといふ風吹きて晴れたる空に夕かげり顕つ
森 美千瑠
▼原発のニュースに恐れ密やかに逃げるあてなく荷物まとむる
汚染されし菠薐草の長き畝葉柄ふとく畑に勢ふ
一日をかけて摘みたる二十キロの生茶廃棄す汚染のあれば
セシウムの出でし茶の芽を深く刈り枝あらはなる茶の株つづく
原発の汚染おそれて放置せし葱が列なし坊主花咲く
5首 吉沼良子
▼原発の事故やまぬ中雨降る夜蛙鳴く声かすかに聞こゆ
渡邉一宇
◇千葉編(1)◇
▼原発の避難者と一夜同宿しかかはる話することのなし
秋葉四郎
▼放射能漏出すれば北風に乗りてはやくもわが地に及ぶ
有富義枝
▼風評が街の物流絶ちしとふ原発事故の収束し難く
有馬典子
▼原発の事故の現場の下請けの作業員思へば心の塞ぐ
電力を貪るごとく暮らし来て今その日々を見直さんとす
2首 磯谷英子
▼幼子の飲料水を買ひ求むわがおこなひや善悪もなし
放射能汚染に過剰意識持つ家族の食を賄ひをれば
セシウムを含める杉の花粉飛ぶ時季の到来ただに恐るる
3首 岩澤和枝
▼三代の続く生家の林業に風評被害たしかに及ぶ
ふるさとが「フクシマ」と謂はるる原発の事故の悲しみ消ゆる日ありや
ふるさとの福島の山に放射能気にかかりつつ山菜を採る
3首 上野千里
▼放射能被害はいまだ及ばぬに登校避くる家庭の出で来
二百キロ隔てし原発事故なるに放射線量測る日続く
2首 大塚秀行
▼わが町にもホットスポット点在し小学校の除染始まる
大森育子
▼放射能地震津波の被災地に雨と雪降り風寒く吹く
大_勇次
▼幼児のため放射能なき水配ると市よりの放送きこえてきたり
一昨年ゆきし茶畑放射線に汚染さるときくは痛まし
岡田恒子
▼放射能の風評被害か収穫のされぬ甘藷畑耕さる
桶谷清子
▼ひんがしの風に運ばれ来しものか放射線量わが町高し
小澤幹男
▼ひつそりと静まる此の町放射能に脅えて子供を外にいださず
小澤光恵
▼放射能の風評に客の来ずなりし岬のホテルの廃業となる
小田朝雄
次回からも『平成大震災』の原発詠を読み続ける。 (つづく)
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