2013年05月22日14時46分掲載  無料記事
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国際

【北沢洋子の世界の底流】カタール 湾岸の不思議な国  反米なのか親米なのか

 カタールという国がどこにあるかを知らない人でも、『アルジャジーラ・テレビ』には馴染みがあるだろう。ところが『アルジャジーラ』はカタールの衛星テレビである。これは、1996年、ハマド首長のポケットマネー(1億5,000万ドル)で設立された。にもかかわらず、中東のニュースについては、最も詳しく、最も信頼されている。カタールは、ペルシャ湾でイランの対岸に当たるカタール半島に位置している。正式な国名を「カタール国」と言うが、スンニー派のアル・サーニ家が支配するEmir(首長国)である。71年に英国から独立する際、すでに豊富な石油を産出していたので、バーレーンとともに、アラブ首長国連邦に加入せず、単独で独立した。 
 
1.カタールの独自外交か 
 
 人口はわずか140万人だが、1人当たりのGDPは98,000ドル、日本の倍以上だ。首都はドーハである。 
 
 今のHamad bin Khalita al Thani(ハマド)首長は、95年、父のハリファーズからクーデタで政権を奪った。以後、石油のみに頼って、満足なホテルもなかったドーハを一大観光都市に変えた。その結果、ドーハでは中東で唯一、01年WTOの閣僚会議が開かれて以来、昨年の国連気候変動会議(COP18)など世界規模の国際会議、それに2008年のアジア・オリンピックなど多くのスポーツ競技大会が開かれている。 
 
 また、世界中が驚いたのは、カタールのSheikh Hamad bin Jassem al-Thani首相兼外相は、12年10月、パレスチナのガザを公式訪問し、アラブ圏では最初のハマス承認第1号となった。ハマスを軍事的、経済的に援助している。一方、米国は、ハマスを「テロ組織」と認定している。さらにカタールは、2010年、米国の宿敵であるイランと防衛協定を結んだ。また、カタールは、レバノンのヒズボラにも武器援助している。 
 
2.カタールは親米か反米か 
 
 カタールは、このように独立した外交を展開しているようだが、実は、米国にとって湾岸での軍事戦略計画の要となっている。米国務省の『On Line Fact Sheet』には、「米国とカタールは包括的防衛協定(1992年)を結んでおり、古くから緊密な関係にある」と述べている。 
 
 カタールには、フロリダ州タンパにある「米中央軍司令部(CENTCOM)」の前線司令部が置かれている。カタールは米軍とNATO軍の中東地域の「軍事作戦」を支えている。カタールは、また、湾岸での米国のミサイル防衛ネットワークに積極的に参加している。 
 
 カタールは、米空軍作戦センターとAl Udeid、Assallyah、Doha International と3つの米空軍基地がある。これら基地には5,000人の米軍が駐留している。 
 
 カタールは米国の中東における最も重要な軍事拠点となっている。 
 
 とくに米国を喜ばしたのは、財政危機の襲われたオバマ政権に代わって、カタールが、リビアの反カダフィ派や、現在ではシリアの反アサド派に武器購入の資金を供与していることだ。最近では、モスレム同胞団の率いるエジプト政府にF-16戦闘機20機とM1A1エイブラム型戦車200台を供与した。つまり米国が様々な理由で出来ないことを、カタールが代役を演じている。 
 
 このようにカタールは米国との緊密な同盟国でありながら、最近のことだが、イスラム聖戦主義の政治運動に肩入れしはじめている。カタールはモスレム同胞団国際組織の中心的なスポンサーとなっている。ただし、カタール国内では99年以来、モスレム同胞団がアル・サーニ家を敵視したという理由で非合法化されている。 
 
 このように、カタールとモスレム同胞団との“結婚”は便宜的なものである。しかし、同胞団には、9.11以来、米国が『テロとの戦い』において、敵と看做しているイスラム聖戦主義者武装勢力が含まれている。 
 
また、シリア内戦では反アサド派を支持し、武器を供給している。しかし、米国が「アルカイダ」と連携するテロ組織と認定している「ヌスラ戦線」は反アサドの武装組織の1つである。カタールの武器が「テロリスト」の手に陥る危険性があると、米国は危惧している。 
 
 最近のフランスのマリでの軍事介入について、カタール首相は、記者会見で「軍事力では問題は解決しない」といって、「イスラム学者国際連合」の会長であり、モスリム同胞団のイデオローグでもあるYusef Abdullah al Qaradawiを「軍事介入でなく平和的な交渉役」に任命した。しかし、彼は、08年には英国、昨年はフランスに入国を拒否された「テロリスト」の思想家である。彼が、マリの和平交渉の仲介役が務まるはずはない。 
 
 オバマ政権は2期目に入り、アフガニスタンから撤退する。中東は、権力の空白地帯になるだろう。 
 
 その中で、カタールは、イランと協定を結び、ハマスを承認し、ヒズボラに武器を送り、シリアの反アサド派を支援している。これは、カタールが、米国と同盟しているのか、あるいは、衝突しているか、という謎を生んでいる。 


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