2013年06月06日13時43分掲載
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核・原子力
【たんぽぽ舎発】日印の核(原子力)協定を結んではならない理由 <中> インドが狙う高純度プルトニウム 山崎久隆
インドのマンモハン・シン首相が5月27日に来日し安倍首相と会談した。実は2012年11月民主党野田政権時代もシン首相は来日予定だったが、衆議院解散によりキャンセルされた。今回の日印首脳会談では主要議題の一つが日印核協定に向けた交渉の推進である。これにより原発輸出を含む核の協力関係が構築される。
◆インドとの協定
インドは、核拡散防止条約外で核兵器を行った最初の国になった。カナダから輸入したCANDU炉(重水炉)を使い、核兵器用プルトニウムを抽出、1974年と1998年に核実験を行った。包括的核実験禁止条約(CTBT)にも加盟せず「核保有国」であることを主張している。
隣国のパキスタンもインドの核武装に刺激され、中国からの技術協力を得て1998年にウラン型原爆を開発し実験に成功した。
これら南アジアの核の緊張がインド、パキスタンに中国、イランなどが関連するアジアの核軍拡に発展している。イスラエルと米国によるイラン核兵器開発への武力行使の可能性は高まることはあれ、解消される見通しはない。加えてインドの核兵器開発の高度化が進めば、アジアの緊張状態はさらに悪化するであろう。
日印核協定とは、このような観点からも日本にとって極めて危険でもある。
◆インドが狙う高純度プルトニウム
インドはウラニウム・プルトニウムサイクルではなく、トリウム・ウラニウムサイクルによる原子力開発を続けてきた。この方が核拡散防止上有利だからという理由だ。
確かにトリウムサイクルでは核兵器は作りづらい。だが、日本と核協定を結ぶということは、このトリウムサイクルではなくプルトニウムサイクルへの転換を意味する。
それはインドの核兵器開発に密接に関わることになる。
核兵器開発で、最も重要な点は、純度の高いプルトニウムを生産することだが、核兵器を保有する国々の中でこれが十分可能なのはNPT条約核武装国5カ国に限定される。特に高度な戦術核兵器を開発するためには、水爆の起爆剤に高純度プルトニウム239が欠かせない。一般に軽水炉や重水炉で生成できるプルトニウム239は純度93%程度、黒鉛炉を使っても95%台だが、高速中性子炉(常陽ともんじゅ)を使えば99%にまで高められる。フランスがフェニックスやラプソディという、今はもう廃炉になった高速炉から取り出したプルトニウムがこれに当たる。
インドも(そして中国も)高速炉開発を続けているが、この最も大きな動機は、戦術核兵器用の高純度プルトニウム取得である。
インドは現在原子力潜水艦アリハントを保有しているが、これに搭載可能なSLBM(潜水艦発射弾道弾ミサイル)の開発を進めている。それに取り付ける多弾頭戦術核には高性能水爆を当てるのが普通である。しかしインドにはその技術はない。中国の核兵器に対抗可能な小形戦術核弾頭の開発を急速に進める動機はここにある。
しかし原子炉でプルトニウム生成が出来ても、燃料を再処理して取り出すには特別なノウハウが必要となる。実は日本にはそれがある。高速炉用燃料再処理はまだ行われていないが、東海再処理工場においてMOX(ウランプルトニウム混合酸化物燃料)の再処理が行われてきた。また、リサイクル機器試験施設(RETF)において開発しようとしているのは、まさしくこの技術である。だがRE
TFは「もんじゅ」が稼働していないため完成していない。ビルはあるが中身がない。つまり再処理用の設備一式は取り付けられていない。問題はその設計図である。
三菱重工と原子力研究開発機構が保有しているとみられる設計図は、核兵器開発をしている国はどこでも、のどから手が出るほど欲しいものだ。さすがに最も危険な技術情報を、そう簡単に提供することはないだろう。しかし思い出さねばならないのは、インドが最初に核兵器開発に成功したのは、大勢の科学者を米国の国立研究所などで「平和利用の」目的で、技術協力と訓練のため送り込んだこ
とだ。このままでは日本の技術援助による「インド戦術核弾頭」が製造される。
ただし、具体的かつ明示的には起こらないかもしれない。アブドゥル・カディール・カーンのパキスタン核開発のような「わかりやすい」核兵器技術の流出はないかもしれない。しかし核兵器開発は常に米ソからの技術流出により進んでいった。核の国際協力を続ける限り、それを止める方法は、おそらく無い。日本が「もんじゅ・高速炉路線」を完全に放棄したら、インドはおそらく日本に興味を失うであろう。(つづく)
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