2013年06月14日12時06分掲載
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地域
【安房海より】地域新聞がある 田中洋一
どこへ行っても「新聞」がある。土地の人々によく読まれ、親しまれている日刊紙のことだ。前任地の信州伊那では、それが県紙の信濃毎日であり、地域紙の長野日報だった。さて当地では……。
着任すると、不思議な新聞が配達されることに気がついた。紙面は見開き裏表の4ページ。折り込み広告かと見紛うほど薄い。さらに、新聞で最も読まれるといわれているテレビ欄がどこにもない。これが房日新聞との出合いだった。
しかし、この薄い新聞を見くびってはいけない。10数年の活動実績を持つ文化財保存運動についての取材で、資料として手渡された切り抜きには、圧倒的に房日が多い。署名はないので、同じ記者が継続して書いたのか分からないが、「よく取材に来てくれるので、いつも声をかけています」と保存運動の担当者は言う。
どの面にも地元の話題がびっしり詰まっている。加えて、最終4面の最下段には、黒枠に囲まれた死亡広告が並ぶ。地元の付き合いに欠かせない情報だ、と何人もから聞かされた。
房日新聞という題字は、房総半島南部の安房地域を管轄する日刊紙にぴったりだ。ウエブサイトによると、創刊は戦後間もない1948年。房総日報、房州日日新聞と改題して52年に現在の題字が定着したそうだ。時代は分からないが、かつて安房では地元4紙がしのぎを削っていたという。テレビのまだない時代に盛んだった漁業や農業の情報や話題を競って伝えたのだろうか。
房日の記者は9人。私がどこに取材に出かけても、よく顔を合わせる。カーネーションの全国有数の産地を訪れた先月はこんなことがあった。母の日(今年は5月12日)を過ぎると、カーネーションは畑に捨てておかれる。8割近くが母の日向けの出荷だからだ。それはもったいないと、母の日に出荷できなかったカーネーションで大きなオブジェを作る女性グループを訪ねた。
花卉栽培に疎い私の質問に、一つひとつ丁寧に答えてくれた男性がいる。カーネーション事情を教えてもらってから、彼が房日の記者だと女性グループに教えられた。詳しいのは、近くの農家の出身だからだけではない。このグループに信頼され、取材者としての枠を超えて付き合ってきたからのようだ。「(彼女たちは)通年、いろんなイベントを手がけていますので、折を見て、取り上げてやってください」とメールが後で届いた。
市政が絡むと取材の腰が引ける、との批判がこの新聞にはある。それを否定するつもりはないが、どのメディアにも弱点はある。それを互いに補完し合えばいいではないか、と私は思う。
房日は他の新聞と一緒に配られる場合が多い。業界用語でいう併読紙だ。テレビ欄がないのも、それで肯ける。私は毎朝、他の新聞の前に房日の紙面を開くのを日課にしている。
田中 洋一
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