2013年06月26日00時01分掲載
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地域
【安房海より】自死と自殺 田中洋一
5年前に地元の男子中学生が自ら命を絶った。いじめが背景に絡んでいそうだが、教育委員会が認めていないことは、前任者が残した資料が物語っている。しかし5年も経って新たな展開はなかろう。そう高をくくっていたら、思わぬ方向に動き出した。
火をつけたのは市民団体「いじめ問題を考える会」の情報開示請求である。教委は、自死した生徒と同じ中学に在籍していた当時の生徒たちを対象にアンケートを昨秋に実施した。開示を求めたのは、その回答用紙だ。
厚さ10cmほどの回答用紙300数枚が手渡されると、会員はさっそく点検を始めた。だが、そこから重大な事実が出てこようとは、全く予想していなかった。数日後、教委がそれまで公表していない記述のあることを、会が突き止めた。
アンケートは、自死といじめのつながりを調べる目的だった。実は、自死のその月のうちに、当該中学はこの件で意識調査を実施している。ところが驚くべきこ とに、この回答の原本は間もなく廃棄され、そのことが昨年10月に発覚する。「いじめに関する記述はありませんでした」という教委の説明に納得できない遺族は、再調査を要望した。
それに応えて実施された再調査だった。教委は結果を昨年末に公表した。「自殺に結びつく要因と考えられる事実は確認できなかった」とのコメントを付けて(新聞報道)。幕引きも同然だった。
さて、開示された回答用紙の1枚に、「○○君が『臭い、うざい、死ね』など言っているのを聞いたことがあります」との一項がある。いじめた当事者の実名入り(開示は黒塗り)で、伝聞ではなく直接聞いたと言っている重大な証言だ。ところがこの一項は、教委の検討の対象から漏れていた。検討の対象とする調査結果一覧表(エクセル表)を作る際に「転記ミスした」が釈明だ。
「確認作業でもスルーした。隠し事はない」と教委は言うが、信じがたい。一覧表に は、誰それの噂を聞いた式の伝聞の記述が多い。その中で、この直接情報は核心を突いている。しかも当事者生徒の実名入りだ。教委の担当職員はこれを見た瞬間、心臓が高鳴るのを感じなかったのか。「転記ミス」にうそはないとしても、強く心を動かされたなら、どこかの段階で必ず気づくはずだ。
この件は議会の質問で追究され、新聞各紙も報じた。それなのに教委は、昨年末の結論は変えない、と答えるばかり。頑なとも思える姿勢はどこからくるのだろう。
そのさなか、「自殺」ではなく「自死」という言葉を使おう、という長文の投稿が新聞に載った。「遺族の苦悩や自責感を和らげ、遺族自身が故人のみならず自らと和解しやすい」と説く。さらに、個人的問題とみなされがちな自死行為を「社会的問題として問い直す」重要性を訴えている。その趣旨に私も賛成だ。それも単なる言い換えではなく、この言葉を使う度に、亡くなった当人や遺族に思いを致して欲しい。
地元の教委はそんな心の痛みを感じながら仕事をしているのか。
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