2013年07月13日23時45分掲載  無料記事
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文化

パリの散歩道  アパートの取り壊し

  これはパリの古いアパートの取り壊し風景。場所はパリ市内北部の18区。モンマルトルの周辺にマルティール通りという名の通りがある。3世紀にローマ皇帝の異教迫害命令によって斬首されたキリスト教徒の坊さんが自分の首を持って布教しながらこの通りを歩いたという言い伝えがあり、マルティール(Martyrs=殉教者)の名前はそこから来ている。これはその通りで撮影されたもの。 
 
  1つの建物が解体されると、隣に残る古い建物の煉瓦の断面が露わになる。いつごろ建てられたものだろう。後に見える新しいアパートと対照的だ。ミヒャエル・ハネケ監督の映画「アムール」(Amour)で痴呆症の進む老妻を看る老夫(ジャン=ルイ・トランティニャン)が暮らしていたのもこんな古いパリのアパートの上の階だった。 
 
  パリの都市史を何冊か書いているパスカル・バレジカ(Pascal Varejka)さんに聞くと、「マルティール通りの建物の多くは19世紀末から20世紀初頭に建てられたものだよ」と教えてくださった。 
 
  バレジカ氏によると、1860年に当時のパリ市長だったジョルジュ・オスマンが都市計画を作り町を近代化して以後は大規模な都市改造は行われていない。それでも、地区ごとの改造はあちこちで行われているという。最近だとレピュブリック広場(Place de la Republique)やグートドール(Goutte d'Or) 界隈などだ。 
 
  このアパートがもし19世紀末に建てられたものとすると、120年くらいの寿命である。人間の寿命も病気や事故がなければ120歳くらいまで生きられるというから、ほぼそれに等しい。1889年にパリ万博が開かれ、エッフェル塔が注目を集めた。その頃、パリはベルエポックと呼ばれる時代、世界の富と才能が集まり繁栄していた。この建物が生まれたのはそうした時代だった。そして今最期を迎えている。 


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