2013年08月31日06時35分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

TPP交渉 日本は一方的に譲歩するしかない(4) 自民党がいう「聖域」が守れない理由 自動車・健康保険・薬価・食の安全・ISD・金融サービス編 ジェーン・ケルシー

 日本のTPP交渉参加のためにアメリカが決めた前提条件として、日本はアメリカ車の一定枠の参入を促進する迅速な対応を求められ、一方、アメリカは長い期間をかけて自動車関税を変更することを約束した。TPP交渉参加についてアメリカの支持を得るために日本が支払った代価には、自動車の市場参入において非常に不平等な約束が含まれていた。日本は、輸入自 動車特別取扱制度の下で迅速な処理手続きによる輸入を受け入れ、日本における厳しい環境テストや安全検査を事実上免除し、2000台から5000台へと自動車の台数を増やすことに合意した。この変更はただちに実施される。(翻訳:池上 明・田中 久雄/監修:廣内 かおり) 
 
◆自動車編 
 
自由民主党の条件2:自動車の数値目標には反対、日本の自動車の安全と環境の基準は守る。 
 
 TPP交渉は、4つの方法でこの条件を弱体化させるだろう。(1)日本がこの交渉参加に当たってアメリカの承認を得るためにすでに了承をした“手付金”、 (2)二国間交渉の付託事項、(3)TPPの多国間交渉における包括的市場参入の責務に関する要請、(4)アメリカ自動車産業界の日本参加に対する反対。 
 
(1)日本の“手付金” 
 
 日本のTPP交渉参加のためにアメリカが決めた前提条件として、日本はアメリカ車の一定枠の参入を促進する迅速な対応を求められ、一方、アメリカは長い期間をかけて自動車関税を変更することを約束した。TPP交渉参加についてアメリカの支持を得るために日本が支払った代価には、自動車の市場参入において非常に不平等な約束が含まれていた。日本は、輸入自 動車特別取扱制度の下で迅速な処理手続きによる輸入を受け入れ、日本における厳しい環境テストや安全検査を事実上免除し、2000台から5000台へと自動車の台数を増やすことに合意した。この変更はただちに実施される。 
 
 見返りに、アメリカはTPPの下で、あらゆる製品のなかで最も長い準備期間に合わせて、日本車輸入の関税を段階的に廃止していくことを約束した。その期間 は少なくとも10年、おそらく18年から20年であろう。また、これらの関税削減の実施は後ろ倒しになる可能性もある。つまり、いかなる意義ある変更もこ の期間が終わらなければ生じないということである。段階的廃止が、韓米自由貿易協定の類似の措置を「実質的に凌ぐ」というアメリカの声明からも、アメリカ は日本車に対しての市場開放を韓国からの自動車よりもさらにゆっくりと行うことを意味すると解釈される。 
 
 特別セーフガード・メカニズムは、関税「スナップバック」メカニズムと同じく、韓米自由貿易協定のメカニズムを少なくとも反映するような最恵国適用関税率 が適用される。アメリカは、市場参入の責務を回避するためにセーフガードを利用することで有名だ。セーフガードの詳細は、自動車に関する進行中の二国間交 渉の一部に含まれるだろう。 
 
(2)二国間交渉の付託事項 
 
 包括的な市場参入の責務に対する要求は、自動車にも該当する 
 
 「2011年11月12日のTPP首脳によって公表された協定概要で記されている包括的な、レベルの高い協定」のための要件は、自動車にも該当する。しか し、アメリカが日本のTPP参加の交渉で使った二重基準は、自動車の市場参入に関する交渉でも、二国間、多国間を問わず継続するだろう。カナダも、自動車 産業に利害があり、アメリカが日本との間で達成したのと同じ内容を求めることが予測される。 
 
(3)TPPの多国間交渉における包括的市場参入の責務に関する要請 
 
 自動車についてのアメリカと日本の二国間交渉により、アメリカは日本から安全と環境の基準で譲歩を引き出せるだろう。 
 
 自動車貿易についての並行する二国間交渉の付託事項には、規制措置に関する膨大なリストが含まれる。これら二国間交渉における合意内容は、TPPの紛争解決メカニズムを通して実行されることになるとアメリカは述べた。その論点には次が含まれる。 
 
(注) 
34 文字通りの解釈では、特定の農産物のためのいかなる市場参入の提供をも拒否していることから、アメリカはそれらを実施する必要はなかったことを意味する。 
35 「米日自動車交渉は、アメリカ市場を守り、日本の開放を求める」、Inside US Trade紙、2013年4月19日 
36 「米日自動車交渉は、アメリカ市場を守り、日本の開放を求める」Inside US Trade紙、2013年4月19日 
37 Demetrios Marantis大使から佐々木憲一郎Kenichiro Sasae大使への書簡、2013年4月12日 
 
・提案されている規制措置の先行公示、新たな規制措置の進展に関する「透明性」と無差別、新たな措置の進展と実施過程のすべてにわたる情報に対する意義ある機会、条件を満たすための合理的期間、規制実施後の評価 
 
 これらの交渉は、アメリカ産業界が日本の規制政策に与える影響を最大化し、日本の産業界が特別の待遇や影響を受けていると思われる場合は異議を唱えられるように仕組まれている。このリストは、TPPの「規制の一貫性と透明性に関する章」と一致しているが、多国間のTPPにおいて合意された以上の内容にもなりうる。 
 
・環境性能や安全を含む、基準、技術規制、適合性評価、そして環境に優しく、新たな技術を伴う自動車に関する新たな問題、とりわけ無差別性これらの協議では、TPPの「貿易の技術的障壁の章」と同じような問題があがると思われるが、しかしこれも、アメリカの日本に対する要求はそれを凌ぐ可能性がある。 
 
・自動車の流通とサービス 
これについては、TPPの責務や、「越境サービス、投資、競争の章」における規則を超えると予測される。 
 
・PHP輸入自動車特別取扱制度下で輸入された自動車も含め、無差別性を確実にするため、PHPのさらなる緩和と資金的インセンティブが競争に与える影響力の検証アメリカは、日本からTPP交渉参加の代価としてすでに手に入れている譲歩の拡大を狙っており、アメリカが自国の自動車や部品の製造業者に対する差別とみなす安全や環境の基準に的を絞るだろう。 
 
(4)アメリカ自動車産業界の反対。 
 
 アメリカの自動車産業界と労働組合は日本のTPP参加に強く反対している(そして、「通貨操作」についての追加的規制を求めている)。日本が前提条件を受け入れたにもかかわらず、アメリカの国内自動車産業界はTPP協議への日本の参加に引き続き反対している。つい最近の2013 月7月16日、フォード自動車の広報官は「日本は、世界で最も閉鎖的な自動車市場であり」、「徹底した輸入業者の排除から、輸入ブランドに対する嫌がら せ、そして少量の輸入車に適用され、過剰なコストのかかる独自の規制要件に至るまで、何十年にもわたって次々と障壁が出てくる 」と語った。 
 
 TPPへの日本の参加に反対しているアメリカ自動車産業界は、日本による円のいわゆる為替操作に的を絞ってきている。円は、2012年10月以降、アメリ カドルに対し27%下落した。三大アメリカ自動車会社を代表するアメリカ自動車政策協議会(American Automotive Policy Council)議長は、「円安に誘導するため日本が為替市場に介入するのを防止する強力な実効性のある条件」が合意されなければ、「わがグループが TPPを支持することは不可能だろう」と警告した。議会の過半数の議員が2013年6月、バラク・オバマ大統領に対し、日本を名指しはしなかったものの、 通貨条項がTPPに含まれることは「絶対に必要」であるという書簡を送った。そのような措置がない場合、アメリカ自動車産業はTPP協定から得られるすべ ての利益を失うと主張した。 
 
(注) 
38 「自動車をテーマに日米二国間取引、異なる取扱に対するNTM問題」Inside US Trade紙2013年4月18日 
39 「フォードが、日本のTPP貿易協議の参加を激しく非難」フィナンシャル・タイムズ2013年7月16日 
40 「アメリカ自動車会社が、TPPの通貨ルールにロビイングの努力を強化」Inside US Trade紙 
 
 
◆国民皆保険制度・薬価編 
 
自由民主党の条件3:国民皆健康保険制度、公的医薬品価格制度の保護 
 
 健康保険や安価な医薬品へ入手に影響のある規則は、とりわけ金融サービス、投資、越境サービス、知的財産、透明性及び規制の内外調和といった提案など数多 くの章に渡って触れられている。加えて、健康保険及び医薬品政策は、非関税障壁(NTM)に関する二国間交渉の対象である。これには、日本郵政公社の保険 事業、競争政策、経済的利益に関わる国内における政策決定過程の「透明性」、及び知的財産権が含まれる[1]。他にも、こういった国内的に重要な政策が TPPの規則によって間接的に損なわれるような方法が存在する。 
 
(1) 国民皆健康保険 
 TPP交渉参加の代償として、日本は既に米国に対し健康保険の面で譲歩している。安倍政府は、民間の保険業者が同等の競争条件で事業を行うまでは、かんぽ 生命保険によるがん保険の新商品・既存商品の改定品、単独型医療保険の販売申請を認可しないことに合意した[2]。この譲歩については、日本の交渉参加状 況をまとめた米国の概要では強調されているが、日本の概要では省略されている。 
 
 日本の国民健康保険制度は、金融及び健康セクターを通じた一貫した制度として機能しており、効率的である。この制度は、社会的・文化的性格が強い。対照的 に、米国の金融業界は健康保険を非常に有益な金融商品として捉え、これを公的政策としての特色をもたない全く異なる形態の保険として取り扱う。米国の年次 貿易障壁報告書は、かんぽ生命保険及び共済が反競争的であるとして、長年に渡って不満を示してきた。また、日本の国家又は民間の保険会社に対する利益を排 除する「公平な競争の場」を要求している。米通商代表部(USTR)は2013年の報告書においてもこの苦言を繰り返し述べている[3]。米国が多国間で のTPP協議及び二国間の非関税障壁(NTM)撤廃交渉の両方を通じて健康保険制度の「競争中立性」の実現を目指すことは明らかである。 
 
 TPPの「金融サービスの章」は、従前の米国の自由貿易協定に定められた“WTOプラス(以上)”の金融サービスに対する義務に基づいている。米国は、自 国の保険会社が、日本の保険規制や保険団体に管理される子会社というよりも、むしろ米国の規制を受ける支店として日本において設立されることが可能になる ことを望んでいる[4]。「金融サービスの章」には、郵政事業が提供する保険についての特別な付属書があるとされている。これは米韓FTAの付属書に基づ くものである[5]。「投資の章」に定められる義務は、TPP参加国の健康保険会社に特別な投資家保護や投資家対国家の紛争解決へのアクセスを与えるであ ろう。 
 
 さらに、「透明性に関する章」は、日本に対し、政策や規制の策定や行政決定過程に米国の保険会社がより積極的に参加することを認めるよう求めるだろう。 
 また、日本郵政や協同組合を通じた日本の公的健康保険システムは、国有企業及び法人がいかに定義されるかにもよるが、米国が国有企業に対して課す新たな規律の対象となる可能性がある。 
 
 並行的多国間非関税障壁(NTM)交渉においても、保険、透明性、投資及び競争政策が取り上げられる予定である。これによって、日本の健康保険に追加の制限が課され、多国間TPPには含まれない米金融業界の特別権利が発生する可能性がある。 
 
 国民健康保険制度を間接的に脅かすものは他にも存在する。日本の国民健康保険制度が功を奏しているのは、この制度が経験豊かで献身的な医療従事者、管理された報酬、非営利の病院及びその他の公共施設を伴った公的医療システムに依存しているためである。これとは対照的に、民間健康保険の米国におけるモデル は、民間の保健サービスチェーン全体による本格的な民間競争を必要とする。「TPPの投資、越境サービス、人の移動、透明性、規制の内外調和の章」は、日 本の公的健康制度を破壊し、米国の健康サービス業界に新たな機会と権利を創出する意図がある。 
 
(2) 医薬品の価格設定 
 
 TPP交渉に参加しているその他の多くの国と同様に、日本もまた医薬品費用において効率の良いコスト抑制メカニズムを採用している。経済協力開発機構 (OECD)の2010年度のデータによると、国民皆健康保険制度をもたない米国がGDPの約17%を医療に支出しているのに対し、日本はそのGDPの 9.5%を医療に支出している[6]。 
 
 米国の製薬業界は、こういったコスト抑制の手段について、TPPを通じた様々な方法で縮小させることを狙っている。日本で有効な価格規制メカニズムは、 「手続きにおける透明性」基準の引上げ、「競争市場ベースの価格設定」の義務、「国際的な参照薬価制度」の利用制限、知的財産(特許)分野で広まっている 新たな「審判請求権」、医療技術の透明性、及び政府調達によって制限を受ける可能性がある。米国の製薬業界がもつ影響力は、「規制の内外調和及び透明性の 章」によって強まるだろう。 
 
 また、日本が医薬品に関連して下す決定によって投資紛争が引き起こされる可能性もある。米国の医薬品企業イーライ・リリー社は、NAFTAに基づき、カナ ダ政府に対し現在5億ドルの損害賠償を請求しており、ジェネリック(後発)医薬品の製造を阻止又は遅らせようとしている。カナダの裁判所は、有効性に関す る科学的証拠が不十分であるとして、二種の医薬品の特許の新用途を目的とした延長を拒否した。イーライ・リリー社はこれに異議を申し立てている[7]。 
 
 その他のTPP参加国は、自国の医薬品に影響を及ぼすような米国の要求に応じる用意は(未だ)できていない。したがって、知的財産及び透明性に関する二国間交渉において、米国が日本にこの要求を押し付ける可能性は高い。 
 
◆自由民主党の条件4:食の安全基準の維持 
 
 米通商代表部(USTR)衛生植物検疫(SPS)措置に関する2013年報告書は、米国の要求の中心に確実になるであろう6つの論点を強調している [8]。この報告書は「科学に基づく基準」及びその他の国々(すなわち米国)において適用される基準及び決定過程の認可を強く主張している。また米国の食 品業界は食品添加物の認可制限についての科学的根拠が不足している点にも疑問を抱いている[9]。 
 
 米国の主な要求は以下のとおりである。 
 
・ 最近20ヶ月以下から30ヵ月以下に緩和された米国産の輸入牛肉に対する牛海綿状脳症(BSE)関連の規制をさらに緩めること。米国から出荷される牛の殆どが認められることになる[10] 
・ 反すう動物由来のゼラチン及びコラーゲンの食用制限の解除 
・ 加工食品に含まれる添加物の新規認可申請の受諾、及び、その他国際的に認められている添加物の迅速審査の促進 
・ 農薬及び殺菌剤の残留基準値の認可、商品化前後の使用についてのリスク評価、並びに違反への対応の簡略化・能率化 
・ コーデックス規格及びその他の国々で広く認められている手続きに一致する新たな残留基準値の設定(すなわち米国基準の認知) 
・ 国際獣疫事務局(OIE)ガイドラインに一致しない鶏肉及び鶏製品(卵製品を含む。)に対する制限の解除 
・ より幅広い原産国、時期、加工場所からの生鮮じゃがいも輸出へのアクセス 
・ 米国から輸入する全てのフレッシュ・スウィート・チェリー品種に対する同一の燻蒸手順 
 
 米国は、TPPの「衛生植物検疫(SPS)の章」で実現したよりも厳格なルールへの日本の同意を確実に取り付けるため、二国間協議を用いることが予想され る。これには衛生植物検疫(SPS)規則の全面的な実施が含まれる可能性があるが、このル規則については、多国間交渉においては未だ合意に達していない。 米国はまた、生鮮食品分野の迅速な対応の仕組みについても提案している。 
 
 TPPの食品基準及び食品表示に関するルールは、遺伝子組換え作物(GMO)にも規制を課すことが予想される。GMO問題は近年まで注目されていなかった が、2013年5月、カナダの穀物生産者らがGMOやバイオテクノロジー作物に対する新たな義務をTPPに盛り込むよう要求した。これらの生産者らは、低 レベルかつ微量の未認可GMOの認可、認可の同時性、及びリスク評価の相互認識を要求しており、かつ、日本政府に対しては未だ国際基準の制限を受けていな い新たな農薬、除草剤及び殺虫剤の残留基準値を設定するよう要求している。カナダの穀物生産者らは、米国及びオーストラリアの穀物業界が自らの立場を支持 していると主張している[11]。 
 
 貿易の技術的障害(TBT)を含むその他の基準については、並行交渉で取り扱われる。米通商代表部(USTR)による貿易の技術的障害(TBT)に関する 2013年年次報告書は、栄養表示や栄養基準、オーガニック認証及びブランディング、遺伝子組換え食品の表示義務などに関する日本のルールをターゲットと している[12]。これらの点はすでに日米経済調和対話において協議されている。二国間及び多国間TPP交渉を通じて、米国は日本に対しその食品基準・食 品表示制度を変更するようより高圧的に求める機会を得るだろう。 
 
◆ISD条項 
 
 自由民主党の条件5:国家主権を侵害するような投資家対国家の紛争解決は認めてはならない 
 
 投資家対国家の紛争解決が国家主権に影響を与える、又は、投資仲裁裁判所が共通して国家よりも投資家寄りの見解をもっているといった懸念が広まっている [13]。経済協力開発機構(OECD)及び国連貿易開発会議(UNCTAD)はともに投資家対国家の紛争解決のシステムは合法性の危機に直面していると 認識している[14]。 
TPPの投資の章の草案が2012年に漏洩した。これにより、オーストラリアがTPPの投資家対国家の紛争解決条項に反対した唯一の交渉国であったことが 確認されている[15]。他のいずれの国もオーストラリアと同じ立場をとることはなく、オーストラリアの立場はその他のTPP参加国によって受け入れられていない。 
 
 投資の章の内容の大半は「非公開」とされていた。将来オーストラリアに例外を認めるような政治判断がなされたとしても、日本もまた同じ立場をとることが認 められるかどうかは不明である。とはいえ、投資もまた二国間交渉で協議される非関税障壁(NTM)のうちの一項目であり、米国は強固な投資家対国家の紛争 条項を受け入れるよう、日本に強大な圧力をかけるであろう。 
 
 日本政府の公式な立場は、米国で言われているところによると、日本は投資家対国家の紛争解決を支持している。2013年5月、ワシントンの在米日本国大使 館経済担当の森健良公使は、ワシントンで行われたビジネス・セミナーにおいて、日本はTPPにおける投資家対国家の紛争解決条項を支持すると述べた。さら に、森公使は日米がこの点で協力できるかもしれないことまで示唆した[16]。 
 
◆金融サービス 
 
自由民主党の条件6:政府調達を含む金融サービスは日本の特徴を踏まえるべきである 
 
 公的調達は、並行的二国間交渉において米国が指定している非関税障壁(NTM)のうちの一項目である。TPPにおける調達には、資産担保融資及び金融サービスが含まれる。 
 
 米国の貿易障壁報告書[17]及び経済調和対話は一貫して日本郵政公社による保険及び銀行業務並びに共済が反競争的であると主張している。米国は以下の点を要求している。 
・ ネットワークへのアクセス及び支店を通じた商品の販売 
・ 日本郵政のネットワ−クを通じた販売商品の平等な選択 
・ 公的な商品及びサービス、施設及びネットワークの利用、規制上の優遇又は政府保証を通じた直接・間接的な相互補助がないこと 
・ 共済の廃止 
・ 平等な監督待遇 
 
 農林中央金庫もまたターゲットとなる可能性がある。 
 これらの要求は、「金融サービス及び投資の章」における多国間TPP交渉の対象となる。金融サービスの章には、「簡易保険」について検討した付属書がある とされている。これは、米韓FTAの条項に基づくものである。これらのルールは、TPPの国家対国家及び投資家対国家の紛争解決メカニズムによって実行可 能となる。各国の金融サービス及び投資に対する不適合措置の一覧に関する交渉はいまだ決着をみないが、「金融サービス及び投資の章」はいずれもほぼ「妥 結」である。ただし、その内容ははその国の金融サービスを特定のルールから保護するのみであり、投資家保護や投資家対国家の紛争解決メカニズムには適用さ れない。 
 
 日本郵政もまた、米国が競争の章の中で提案した国有企業に課される規律の対象となる。米国のこの提案は、他の参加国から強く抵抗された。米国の保険業界 は、米国通商代表部(USTR)が日本郵政に対しより厳格な規律を課すために非関税障壁(NTM)交渉において二国間交渉を用いることを期待している [18]。アメリカの商業関係者は、日本が株式会社ゆうちょ銀行及び株式会社かんぽ生命保険の保護に高い優先度を置かないであろうと信じている[19]。 
 
(注) 
[1] 「日米二国間取引、自動車と非関税障壁(NTM)問題で異なる待遇を迫られる」、Inside US Trade、2013年4月18日。知的財産権に特許及びジェネリック医薬品が含まれるかは明らかになっていない。一部の評論家が、知的財産は著作権、技 術的保護手段、地理的表示や刑事・民事執行メカニズムにのみ適用されると述べているためである。 
[2]「米、TPP取引の一環として保険面で日本の確約を取り付ける」Inside US Trade2013年4月12日 
[3] 米国通商代表部(USTR)2013年年次貿易障壁評価報告書209頁 
[4] 米国通商代表部(USTR)2013年年次貿易障壁評価報告書209頁 
[5] 2007年米韓FTA付属書13D:郵政公社による国民への保険の提供 
[6] http://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=HEALTH_STAT 
[7] Public Citizen、「米国の医薬品企業がNAFTA外国投資家特権制度を使ってカナダの特許政策を攻撃 特許の無効化に対して1億ドルを請求」、2013年 3月、Public Citizen Citizen Global Trade Watch、ワシントン 
[8] 米国通商代表部(USTR)、衛生植物検疫(SPS)措置に関する2013年報告書、米国通商代表部(USTR)、57頁〜60頁 
[9] 「日本との農業分野での交渉 関税をめぐる激しい戦いに」、Inside US Trade、2013年5月2日 
[10] 「日本との農業分野での交渉 関税をめぐる激しい戦いに」、Inside US Trade2013年5月2日 
[11] 「カナダの穀物生産者グループ、GMO問題をTPPに盛り込むよう要求」、Inside US Trade、2013年5月22日 
[12] 米国通商代表部(USTR)、貿易の技術障害(TBT)に関する2013年報告書69頁〜70頁 
[13] ピア・エーベルハルト、セシリア・オリヴェット、不正から利益を得る いかにして法律事務所、仲裁人及び金融業者は投資仲裁ブームに火を付けるのか、 CEI/TNI、ブリュッセル/アムステルダム、2012年11月、www.tni.org/profitingfrominjustice.pdf 
[14] 経済協力開発機構(OECD)、投資家対国家の紛争解決 パブリックコンサルテーション:2012年5月16日〜2012年7月23日、経済協力開発機構 (OECD)、パリ、5;国連貿易開発会議(UNCTAD)、2012年世界投資報告書、国連貿易開発会議(UNCTAD)、ジュネーブ、2012年、 xxi 
[15] B項への脚注:投資家対国家の紛争解決は次のように記している:「B項はオーストラリア又はオーストラリアの投資家には適用されない。本協定の他のいかなる規定にかかわらず、オーストラリアは本項に基づく仲裁要求の提出に同意しない。」 
[16] 「日本政府関係者、日本がTPPで建設的役割を果たすと強調」、Inside US Trade、2013年5月6日 
[17] 米国通商代表部(USTR)2013年年次貿易障壁評価報告書207頁10、214頁 
[18] 「米、TPP取引の一環として保険面で日本の確約を取り付ける」Inside US Trade2013年4月12日 
[19] 「米、日本郵政公社への国営企業規律強化を狙って「二国間トラック」を採用」Inside US Trade 2013年4月25日 
 
 
【ジェーン・ケルシー/プロフィール】 
ニュージーランド・オークランド大学教授。法律・政治、国際的経済規制が専門。 
新自由主義的なグローバル経済がもたらす負の側面へ警鐘を鳴らす。特に自由貿易定に着目。アジア、南太平洋そして世界の研究者、NGO、労働組合と連携し、国際連帯運動に大きく寄与している。著書に「異常な契約 TPPの仮面を剥ぐ」(農文協)ほか。 
 
(終わり) 


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