2013年09月08日07時23分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201309080723230

コラム

パリの散歩道  シリア騒動2  村上良太

  ルモンドを買って食後にベッドで読み始めたものの、秋の涼しさが疲れに心地よく眠り込んでしまった。読みかけていたのはシリアへの軍事介入についてフランス人がどう考えているかという世論調査の記事だ。ルモンドが引用しているのはフランスの世論調査会社IFOP(民間のマーケティング会社)のデータ。それによると、目下フランス人の3分の2が介入に反対しており、その割合が8月末に行った調査時よりも上がっている。軍事介入反対の比率がもともと高かったドイツと足並みをそろえる結果となった。 
 
  IFOPの調査データが興味深かったのは1992年のソマリアへの介入から、ボスニア・コソボへの介入、アフガニスタン、イラク、ダルフール、リビア、シリア、マリとその時々の世論調査結果が棒グラフで表示されていることで、フランス人は何でも反対しているのでなく、ケースバイケースで現実的に考えていることがうかがえる。記事によると、アフガニスタンへの軍事介入は初期には支持率が圧倒的に高かったものの年々支持が低下し、2010年には29%まで下がっている。最低は2003年のイラク戦争(19%)、そして今回のシリアへの軍事介入はこの一覧では下から3番目の支持の低さだ。そして米国の世論調査でも介入反対が欧州と同様に3分の2近い。 
 
  その背景にはイラク戦争への怒りがあると同時に、それぞれ財政難で戦争よりも福祉を、という声が強いことだ。アメリカとフランスの政府が日本の安倍政権と同じ傾向を持っており、福祉を削って戦争に備えようとしている点でよく似ている。そして世論がそれに反対している構図になっている。そのことは政権の左右に関せず、政治家が庶民の感覚から遊離していることを示している。国内に多くの失業者がおり、経済格差も強まっている。そんな中で白黒つけがたい他国の内戦に(国連の決定もないまま)国民が多額の金と命を投じて干渉する理由が見いだせない、ということなのだ。特に、アサド政権を崩壊させればかえってイスラム原理主義を強化し、テロリズムの脅威も増えるということを欧州人は感じている。これはアラブの春を間近に見据えた結果でもあるだろう。 
 
  もうひとつ挙げればシリアへの軍事介入はマリでの作戦(セルヴァル作戦)や、リビア攻撃と違って短期間で終了できない、と国民が考えているらしいことだ。イランやロシアがアサド政権を支援していることもその理由であろう。だから、介入したらいつまで長引くかわからない(さらにその行方も見えない)ことも不安の要素となっている。 
 
  欧州はかつて新旧キリスト教徒同士で凄惨な殺し合いをした。宗教戦争になると出口がない。フランスでも16世紀に内戦(ユグノー戦争)と虐殺を経験している。信仰の問題だから、交渉すら難しい。だから欧州は政教分離という政治の原則を確立した。その原則を持たないイスラム原理主義勢力に加勢するには抵抗が強い。 
 
■IFOP 
http://www.ifop.fr/?option=com_homepage 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。