2013年10月14日04時41分掲載
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文化
パリの芸術家 写真家ベルナール・ルッソ
40人が参加したパリの芸術青空市、'Place aux artistes!'。そこには写真家も4〜5人参加していた。その一人、ベルナール・ルッソ(Bernard Russo)氏はアジアや中東など世界各地を旅行して写真を撮影していた。
彼のブースに行くと、10数枚の写真が壁に掲げられて販売中だった。中心にアジアの田園や寺院を歩く女性の写真があり、また側面にはイスラム社会の静謐な一コマをとらえた写真が掲げられていた。モスクの前に男が座り、今しも周りを無数の鳩が飛び立っている。それらは郷愁をそそる写真だった。暴動や事件の現場をとらえたジャーナリズムの写真とは異なる世界があった。
写真といえばグラビア誌はもちろん、インターネットで無数に複製もあり、今の時代、写真を1枚1枚売買するものだろうか?と最初に僕は思った。これまで写真の売買をみたことがなかったこともそう思った理由だろう。書店などで写真集で買うシーンしか想像の中になかったのだ。
ルッソ氏の腕が確かだとしても、果たして写真は今日街角で売れるものだろうか?ルッソ氏は椅子に腰掛け、ときに立ち、ゆったりした時間の中に静かに身を潜めていたように思う。
そんなとき、一人の大柄な男がルッソ氏の写真を買うシーンを目にした。民族的にはアラブか、中近東の人間に見えたが、ひげをはやしてバイタリティのある男だった。彼が買ったのは屠場で出来たばかりの牛肉の塊を肩に掲げた若い男の写真だった。牛肉のあばら骨が赤と白の塊になって、目に飛び込んでくる。アテネの肉市場で撮影された1枚だ。それはアジアののどかな田園とは違った世界だった。この写真を買った男は筆者にこんなことを言った。
「この写真には生と死のドラマがある。すべてが凝縮されている。また、イエスキリストの亡骸を運ぶ姿にも重なって見える。素晴らしい写真だよ」
最初はこの写真の存在に気づかなかったのだが、買った男性からそう言われてみると、確かに迫力のある1枚だという気がしてきた。しかし、自分は最初、その価値に気づかなかったのだ。他人がある作品を選ぶ場を目にしたことで、自分には気づかない価値に目が開かれる、というのはこのことだろう。男性はルッソ氏に、1つのお願いをした。写真の裏側に、サインを書き込んでもらったのだ。
「これが大切なんだ」
と買った男は言う。写真家の目と手を経た芸術作品であり、そこには人間の触れ合いがある。裏に記されたサインはその絆のようだった。そして、後で気づいたのだが、この展示会のアートディレクターをしているヴェロニク・ペリオル(Veronique Perriol)さんは写真家の紹介のページで、トップに「Atlas」と題された、この牛肉の1枚を選んでいた。ヴェロニクさんの眼力にもまた改めて感心することになった。
■ベルナール・ルッソ氏のウェブサイト
http://www.bernard-russo-portfolio.com/
■芸術青空市'Place aux artistes!'を企画しているギャラリーArcima のウェブサイト
http://arcima.canalblog.com/
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