2013年10月19日05時48分掲載  無料記事
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文化

パリの芸術家  〜ベンジャミン・ハドソン・ディーン〜

  僕がベンジャミン・ハドソン・ディーン(Benjamin Hudson Dean)というフランス人らしくない名前の画家に出会ったのは一枚の絵を前にしている時だった。それはオランウータンの肖像画だった。オランウータンを肖像画にする、という発想に驚いたのと、オランウータンの毛が油絵にしても妙にゴワゴワと厚くなっていて、カンバス自体が起伏に富んでいて不思議な絵だな、と感じたのだった。人を食った印象もある。実はこの毛の素材は実際の樹皮を使っているのだと教えてくれた。 
 
  「生素材」というコンセプトで芸術活動に取り組んでいる人々がいる。これをTXBRUT(テクスチュア・ブリュット)と呼んでパリで絵の連作を行っているのがベンジャミン・ハドソン・ディーン氏だ。ディーン氏もパリ5区のモーベール広場で行われた空の下の展示会「Place aux artistes!」に参加した40人の一人である。 
 
  ディーン氏の展示ブースの中では大柄でとっても派手な印象の女性が大きな絵の脇に立って嬉々として、男に記念写真を撮らせていた。カップルはロシア人だった。何がロシア人を喜ばせたのか?それはロシア人が大好きな白樺の樹の絵だったからだ。そればかりではない。白樺の樹皮をそのまま画材として油絵具とともにカンバスにはめ込んでいたのだ。ディーン氏は僕にこう説明してくれた。 
 
  「ロシア人のカップルによると、この樹は建築資材や家具に使っても長持ちするということです。」 
 
  白樺の樹皮だから白樺の絵、というだけでなく、先ほどのオランウータンのように、テクスチュア(素材)だけ利用して、別の生き物の絵も描いている。ダチョウの足や首にも白樺の樹皮を使っていた。また、ダチョウの羽には黒土を付着させていた。 
 
  ディーン氏はパリ郊外の森に行って、地面に落ちている樹皮や枝や土や様々な自然の画材を集めてくるのだという。ディーン氏は父親がアメリカ人で母親がフランス人だと言う。両親はロンドンの演劇学校で出会い、その後、パリで結婚したそうだ。名前がフランス人ぽくないのも、そのためなのだろう。 
 
  僕はこうしたコンセプトに打ち込むディーン氏に最初は突拍子もない印象を受けた。こうした考え方になかなか馴染めなかったからでもある。しかし、ディーン氏は何を聞いても、実に真摯に説明してくれるのである。自分のコンセプトに情熱を持っていることが伝わってくる。それで僕はディーン氏は僕の理解を超える天才なのかもしれない、と考えるようになった。 
 
  ディーン氏のウェブサイトを見ると、実はグラフィックアートやグラフィックデザイン、3Dデザインなど、実業に結びつく仕事人でもあることがわかった。そうした職業上の技術を持った上で、あえてTXBRUTの実験に取り組んでいるのだ。自然以上に素晴らしい素材はないですよ、と語るディーン氏には何か、否定し難い情熱を感じないわけにはいかなかった。 
 
■ベンジャミン・ハドソン・ディーン氏のHP 
http://www.benjamin-h-dean.com/index.html 


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