2013年10月20日05時50分掲載  無料記事
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生誕300周年 今も絶大な人気があるドニ・ディドロ 〜啓蒙思想家にして、風刺漫談作家〜

  フランスの啓蒙思想家と言えばルソーやヴォルテールがすぐに浮かんでくる。しかしフランスに来ると、ルソーやヴォルテールと同等か、時にはそれ以上に町の書店で存在感があるのがディドロである。 
 
  ドニ・ディドロ(Denis Diderot, 1713-1784)も啓蒙思想家の一人で「百科全書」をダランベールと書いたことで知られている。しかし、日本の学校で教わるのはたいがいそこまでで、それだけだとウィキペディアも様々な百科全集もある今日、ディドロの存在感は風前の灯火の感じがある。 
 
  しかし、最近、ジャック・アタリが「ディドロ〜または思想の幸福〜」(Diderot ou le bonheur de penser)という伝記をあらわし、目下書店で売り出し中であるほか、評伝の類も結構出ている。それだけでなく、もちろんディドロ自身の著作も「百科全書」から「運命論者ジャック」、「ラモーの甥」、「絵画論」、「女性について」、「ブーガンヴィル航海記補逸」、「ダランベールの夢」、「ソフィ・ボランへの手紙」などまで、多数に及んでいる。 
 
  筆者自身はディドロについてはまだ多くが未読なので、詳しいことは書けないのだが、「ブーガンヴィル航海記補遺」(Supplement au voyage de bougainville)を読む限り、過激な会話を得意とする風刺漫談作家の印象がある。特に会話が抜群にうまい。「運命論者ジャック」のように実際に戯曲になっているものもある。啓蒙思想家というと堅苦しい印象を伴うが、ディドロについてみる限り、むしろ芸術家あるいは自由人の印象が強い。今日フランス人から愛されているのもそのあたりに理由がありそうだ。 
 
  「ブーガンヴィル航海記補遺」は太平洋の島をフランスの宣教師が訪れた時の逸話として書かれている。一行の目的は島の植民地化とカトリックの布教である。しかし、この宣教師はまだ非常に若く、成りたてのほやほや。受け入れ先の島の長老に「是非妻や娘たちと寝てくださいや。これが当地のしきたりなもので」と懇願される。長老の前に素っ裸の女たち4人が立って、一同宣教師を見つめている。同衾を拒まれるのは生涯の恥と言わんばかりだ。 
 
  この島では来訪者と妻や娘を寝させて、子供を作るのを習いとしているのだった。しかし、青年宣教師はもちろんそのようなことは信仰上不可能であると拒む。しかし、この長老、実に才気煥発でカトリック思想の盲点を次々と突いて来る。タブーにまつわる二人のあいだの珍問答がおかしい。おかしいと同時に、当時、王権神授説を崇めていたフランスの身分制社会にとっては強烈なインパクトがあったに違いない。 
 
  フランスという先進国から未開の島に啓蒙にやってきたはずが、現地の長老から逆に問い詰められ、次々と矛盾を論破されていく。これはフランス革命の思想につながったのだろうが、同時に今日のグローバル時代にも応用できる笑いを含んでいてディドロが古びていない証しだという気がする。 
 
 
*今年はディドロの生誕300周年でもある 
http://www.europe1.fr/MediaCenter/Emissions/Au-coeur-de-l-histoire/Sons/Le-recit-Il-y-a-300-ans-naissait-Denis-Diderot-1674421/ 


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