2013年10月22日01時17分掲載
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ルモンド紙が「ビッグブラザー」に宣戦布告
近年、フランスのルモンド紙は今ひとつ面白さを感じないフラットな新聞になっていた感があった。ここでは新聞の政治的な位置は度外視して、新聞記事が面白いかどうか、読みたいかどうか、読者としての感覚を書いている。ルモンド紙が成長志向にとりつかれ経営を誤ったとか、腕利きの記者・編集者が去っていったとか、様々な批判に触れることがあった。ルモンド紙ばかりでなく、フランスの新聞の多くが独立した新聞でなく、大企業グループの資本傘下にあって自由ではない、ということも指摘されていた。
そのルモンド紙が最近、面白い。その理由かどうかは定かではないが、最近編集長が女性に変わったということが1つある。ルモンド史上初めての女性編集長である。ある雑誌では<新編集長からの挨拶状を受け取って、おそらく全員が目を疑い何度か読み返したはずだ>といった意味のことを書いていた。それぐらい女性が編集長になることが考えられない事態であった、ということなのである。
歴代初の女性編集長になったのはNatalie Nougayrede という名前のジャーナリストである。ウィキペディアによると、1966年生まれ。国際記事が専門で、特に東欧や旧ソ連に詳しい記者だったという。彼女が編集長になったのは今年の3月で、まだ半年ほどだ。しかし、今、ルモンド紙は1年前に比べるとはるかに面白くなっている気がする。
その新編集長のNatalie Nougayrede氏、今日の紙面では自ら「Combattre Big Brother」(ビッグブラザーと戦う)と題する論説を1面に掲げ、米国NSAが仕掛けた盗聴計画と戦う、と宣言した。ビッグブラザーとは英国の作家ジョージ・オーウェルがSF小説の「1984年」で描いた全体主義社会の独裁者のことである。この社会では市民は厳格な監視下に置かれ、思想は統制されている。
新編集長は今日、エドワード・スノーデン氏の暴露情報などに基づき、いきなり5ページを割いて、いかにフランス市民の通信が米国機関NSAによって組織的に盗聴されたかを特集している。たとえば2012年12月10日から2013年1月8日までの約1ヶ月間で、フランス市民の7000万件以上の電話が盗聴されたという。新編集長はこうした事態に無知のままでいいのか、と自らに激を飛ばすかのように書いている。このアメリカの盗聴計画を知らしめるべく、10人ばかりの記者を投入し、専門チームを組織したとしている。
ルモンド紙の新編集長Natalie Nougayrede氏が過去にどの記事を書いたのかは定かではないが、ソ連や東欧をカバーしていたのなら、当然それらの国の政府がいかに国民を監視していたかということがあっただろう。ソ連のイメージの悪さの1つは盗聴・監視・密告社会であったことだ。その新編集長が今度は「自由の国アメリカ」に挑戦している。
■マリアンヌ誌で紹介された新編集長Natalie Nougayrede氏の記事(今年3月)
http://www.marianne.net/Natalie-Nougayrede-le-terrain-a-la-une-du-Monde_a226968.html
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