2013年11月01日12時53分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(130) 『朝日歌壇2013』から原爆・原発詠を読む(4)「除染の『除』、減染の『減』しかれども消染の『消』あらずして冬」 山崎芳彦

 『朝日歌壇2013』から、原発、原爆にかかわって詠われた(と筆者が読んだ)短歌作品を抄出し記録してきたが、今回で終る。多くの原発事故の被災や原子力エネルギー依存社会が生み出した矛盾が短歌表現されている作品を読むとき、人々の生命、生活、社会のありようと原子力のかかわりの深刻さ、これからどのように原子力の問題を考え、短歌文学の分野でも表現していくか、きわめて今日的な課題であることを改めて思った。そのためにも、核、原子力について、私たちが生きている現実の中で、知るべきことを知り、考え、時には行動し、向かい合う姿勢が必要であろうと考える。 
 
 3・11東日本大震災・福島第一原発の壊滅的な事故・いまも続いている原発事故による災害と、先を見通せない放射能による影響。そして、政治・経済のありようにかかわって現出しているさまざまな事態がある。最近の動きを拾ってみたい。 
 
 原発のトップセールスマンである安倍首相はかねてよりトルコのエルドアン首相との「商談」をすすめてきたが、トルコ訪問中の日本時間10月30日未明の首脳会談で、三菱重工業が主導する日仏企業連合がトルコ政府と原発受注で正式合意したことを歓迎、会談後の共同記者会見で、要旨次のように語ったと報じられている。(時事ドットコム) 
 
 「(トルコの)シノップ原発の商業契約の交渉が終了し、合意に至ったことは大変喜ばしい。東京電力福島第一原発事故の教訓を世界と共有することで原子力安全の向上を図っていくことはわが国の責務だ。制度整備や人材育成の支援を通じ、相手国での原発の安全確保を促していく。」 
 
 あたかも、福島原発事故はすでに収束し、日本には原発の安全を保障できる技術や体制が整備されたかのような発言であり、放射能汚染水問題に有効な対策もできず、事故を起した福島第一原発の各号機の実態把握も処理方法も、これから何が起こるかも見通せない現状をよそに、セールスマン・安倍は、またも無責任な言辞を世界に向かって吐くのである。 
 
 アベノミクスの成長戦略の柱の一つに、安倍政権は原発の輸出促進を据えて、首相自らがセールスマンとなり原発プラントにかかわる大企業と一体になって、巨額の市場規模を見込んで、国家事業であるかのように輸出活動に血道をあげている。この国で原発事故被災に苦悩し底知れない不安に苛まれながら懸命に生きている多くの人々にたいする責任ある対策・施策はふ十分きわまりないだけでなく、人々が必要としていることとは大きくかけ離れたままであることには、言葉を踊らせるだけであるのに。まことに異常な政権の姿である。 
 
 そういえば、安倍政権の国家安全保障戦略には、武器輸出三原則の見直しがあり、防衛産業の要望に対応して武器輸出を容易にするための道を開こうとしている。これは軍事産業の強化、武器開発の促進に直結する。 
 原発輸出、武器輸出、軍事力の更なる強化、「死の商人」政権といわなければならないだろう。国民の「知る権利」、取材・報道の自由、表現の自由などを縛る「特定秘密保護法」を必要とする所以でもあるのだろう。 
 
 原発輸出について、福島原発事故被災地からの避難を強いられている被災者からは「自分の国の事故を収拾できてもいないのに、よく海外に原発を売れるものだ。」「被災した国民のことをどう思っているのか。」と批判の声があがっていることを、10月31日付朝日新聞は報じているが、福島原発立地地域の放射能汚染地域の除染事業について、地域の仕分けをして一定の地域については除染をやめ、住民が戻ることが出来ない地域にするという方向が政府・与党の中で決められるとも言われている。原発が人々をどのような環境に追い込んでいるのか、原発列島化したこの国全体のこととして考えなければならない。 
 
 福島原発事故による被災は、なお深刻なままである。人々の苦しみ、不安は、福島にとどまらず、原発列島全体のことであり、さらに国際的な広がりを持つ。それは、安倍政権と大企業が一体化しての原発輸出促進活動によって、将来を考えると云いようもなく怖ろしく、深刻な事態を考えさせるものとなっている。処理・処分の方法も無いまま、日本国内だけでなく世界各国に蓄積されていく使用済を含む核燃料の総和は、量ることができない。さらに核兵器の製造を進めることになりかねない原発の増加・・・。 
 
 安倍政権の、危険な本質はこのようにして明らかになっていく。この国を何処に向かわせようとしているのか、人々が平和に安心して生きて行くことが出来る方向でないことは明らかだろう。 
 
 このような、政治権力の動向、社会の動きは、短歌文学と無関係ではありえない。そのことは歴史的な教訓でもあり、短歌文学の歴史においても忘れてはならない経験と教訓があることは確かであろう。 
 いま、詠う人々が原子力、原爆や原発についてどのように詠っているか、向かい合っているか、その一端としても『朝日歌壇2013』の作品は貴重であると思う。前回までに続いて読んでいく。 
 
 
  ○平成24年10月○ 
   <第一回> 
  高野選 
▼さざ波も耳をすませば聞こえきぬ津波くるなど思はず暮らす 
                          (大谷静子) 
 
   <第二回> 
  高野選 
▼かなしみの壺を抱えてゆく径のかなたにひびく秋の水音 (美原凍子) 
 
   <第三回> 
  佐佐木選 
▼東電より被災地免除の知らせ来る書類揃えて月80円減 (川崎千鶴子) 
 
  永田選 
▼ほんとうのことはほんとはわからないわからないまま談笑しており 
                           (江川森歩) 
 
   <第4回> 
  高野選 
▼手を合わせたたずむほかなく長崎の原爆落下中心碑前  (吉田理恵) 
 
  永田選 
▼二基だけが種火の如く囲われて古い基準で動き続ける (佐々木博之) 
 
  馬場選 
▼セシウムの茸を食った鹿の群何事も無く足取り軽く  (船戸菅男) 
 
 
  佐佐木選 
▼兀兀(とつとつ)と人生きるなりふくしまの重いひき臼しずかにまわ 
 し                         (青木崇郎) 
 
▼行き帰り牛久大仏を仰ぎつつ戻る当てなき五度目の一時帰宅 
                            (守岡和之) 
 
 
 
   ○平成24年11月○ 
   <第一回> 
  馬場・高野共選 
▼前向きに生きると人に言いつつも前がわからぬと避難者の言う 
                            (半杭螢子) 
 
   <第二回> 
  馬場選 
▼わが町のウラン工場再稼動 孫の学び舎汚染土埋めしまま 
                            (梅田悦子) 
 
   <第三回> 
  馬場選 
▼ちかくてもとおき人いてとおくてもちかき人いてコスモスゆるる 
                            (美原凍子) 
 
  佐佐木選 
▼新聞の拡散予測地図の上音なく注ぐものを見ており  (福田示知恵) 
 
   <第四回> 
  高野選 
▼猪の肉がセシウム基準越え雑食のわがみにも及ばむ   (渡辺玲子) 
 
   ○平成24年12月○ 
   <第一回> 
  高野選 
▼除染の「除」、減染の「減」、しかれども消染の「消」あらずして冬 
                            (美原凍子) 
 
▼わが街の防災訓練に「ツナーミ、ツナーミ」の英語が走る 
                            (遠藤知夫) 
 
  永田選 
▼もういないあなたをつれて冬がくるふるさとずんずんずんずんさみし 
                            (美原凍子) 
 
   <第二回> 
  馬場選 
▼おーいおーい還らぬ子らへ呼びかけて冬来る海へしゃぼん玉吹く 
                            (馬目弘平) 
 
▼人すめぬゾーンに冬の月上がり泡立草を静かに照らす  (佐藤文子) 
 
▼沖縄は基地わが市はゴミ処理場行き着く先の見えぬ闘い 
                           (大野日出治) 
 
   <第四回> 
  永田選 
▼クレーンは此処にも動き被災地のブルーシートはまだ外せない 
                            (坂本捷子) 
 
  佐佐木選 
▼夢の島に福竜丸は老いませり核保有論聞けば痛まし   (松井 惠) 
 
 
 次回からも原発、原爆にかかわって詠われた短歌作品を読み継ぎたい。 
                             (つづく) 


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