2013年11月02日07時43分掲載
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レイモン・ドゥパルドン写真集 「PPP」〜世界の政治家42人の素顔を写す〜
レイモン・ドゥパルドン(Raymond Depardon)。日本でその名前を知っている人はどれくらいいるだろうか。パリのクリシー広場に面した大きな書店の写真集のコーナーに足を運ぶと、文庫版になったレイモン・ドゥパルドンの写真集が10冊くらいずらっと並んでいて他を圧倒しているのだった。
写真集には長年の旅の記録をまとめた「旅行者の幸せな孤独」(La Solitude heureuse du voyageur)を始め、アフリカ、中東、アジア、アメリカ、南アメリカなど各地で撮影した写真集が棚に並んでいる。その中にあって「PPP」はやや異色の感じもあり、世界の著名な政治家42人を撮影した写真集である。
ヨハネスブルクの執務室で微笑むネルソン・マンデラ大統領、群衆の中を行くサルバドール・アジェンデ大統領、妻とパリを訪れたケネディ大統領、演説するドゴール大統領、アンリ・カルチエ・ブレッソンの写真展にやってきてブレッソンと1枚の写真の前に立つミッテラン大統領、大統領選挙戦の最中、微笑むFN(国民戦線)のジャン=マリー・ルペン党首、近いところではサルコジ大統領や社会党のマルチーヌ・オブリ議員などなど。
すべて白黒写真である。昨今、自分もそうだが、デジカメで簡単に写真が撮れる時代になり、ウェブサイトにもそうした写真が氾濫している。そんな中「PPP」を見ると、当たり前ながら「うまい」と思わざるを得ない。ピントがシャープである(当然だが)、白と黒のバランスが美しい、素顔が現れる一瞬を見事に押さえている。
その中で特に目を引いたのは極右と言われている「国民戦線」(FN)のジャン=マリー・ルペン党首の1枚である。普段、僕らが見るジャン=マリー・ルペンの写真は可愛くないブルドッグのような印象のものばかりだが、ドゥパルドンのこの1枚にはそうした見方を覆すルペンの素朴な優しさが写し出されている。これはルモンド紙の1988年の大統領選挙特集のための写真で、ドゥパルドンは「全候補者を写さなくてはならなかったんだ」と言い訳がましくメモに書いている。ドゥパルドンは明らかにFNに反対している。しかし、プロの仕事師としてルペン候補を写した。その時、非常に可愛らしいとも言える素敵なルペン像になってしまった。
「僕はその時、居心地が悪かった。僕はカンボジアで行方不明になった写真家のジル・カロンが以前打ち明けてくれた話を思い出した。カロンはベトナム戦争中、ある丘で戦っていた米兵たちの写真が非常に好意的なものになってしまったことで驚いたという。カロンは左翼であり、ベトナム反戦運動家でもあったが、仕事で米兵を撮らなくてはならなかった。それは悪魔との取引だった。しかし、戦場にやってきてカロンが発見したことは米兵たちもまた自分と同様に戦場に送り込まれて来た人間たちであることだった」
この1枚の写真はルペン候補を意図的に悪魔化した写真よりもルペンの存在感をよく描いているものに思われた。国民戦線を支持する人々にとってルペンはこのように映っているに違いない。意図的にいやらしく撮影するよりも、その像を映し出す方が意味があるのではないか。
■Raymond Depardon
'PPP (PHOTOGRAPHIES DE PERSONALITE POLITIQUES)’
(スイユ社刊)
■レイモン・ドゥパルドン(Raymond Depardon1942〜)
写真家集団のマグナムに所属。記録映画監督としても著名。以下はマグナムのウェブサイト上のドゥパルドンの紹介である。
http://www.magnumphotos.com/C.aspx?VP3=CMS3&VF=MAGO31_10_VForm&ERID=24KL535T16
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