2013年11月11日13時07分掲載
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地域
【安房海より】高齢化と財政難で消える地域の文化活動 田中洋一
過疎と高齢化がともに進み、地域の活力がなくなるとは、こういうことなのか。取材していて、しみじみと感じた。
房総半島南部の町の住民が1987年に演劇鑑賞会を開いた。劇団からの働きかけが、きっかけらしい。会場に中央公民館を借りた。慣れない広告集めをして、ちらしを作った。頭を下げて、入場券を店に置いてもらった。すべてが手作りだった。
予想外の展開になった。新聞に予告が載る前に、口コミで広がり、券は完売した。房総半島は千葉県だから首都圏とはいえ、交通網の末端であることに26年前も今も変わらない。生の演劇なんか、めったに来ない。そんな土地に劇団がやって来て、生の舞台が観られる! 浮かれた気持ちが分かるようだ。
「よい演劇を観る会」は以後ほぼ毎年秋か冬に鑑賞会を開いた。初回のわらび座に続き、翌年は宇野重吉一座を招く。渡辺美佐子を呼ぶには3年かかり、特産のビワを送り続けた。
だが、25回目の今回で幕を閉じる。「今年で最終回になります」。見知らぬ代表から電話がかかってきたその日の午後、私は他の仕事を先送りして、さっそく彼に会いに行った。
69歳の代表は教員OB。役員は現在8人で、会計を担当していた80歳の女性役員も同席してくれた。話を聞くほどに店じまいの背景が分かってきた。赤字の山を築きたくないという経済的な理由だった。年会費300円の会員制だが、会員は現在171人。会費を上げれば、退会が増える。採算割れを防ぐには、定員465人の会場を埋めるしかない。町内をはじめ安房地域から一般入場者を増やしたいが、入場料が5千円を超すと、客足は細る−−そうだ。
会は全くの自主運営だ。町の財政そのものが苦しく、文化団体への補助金はとても出そうにないとのこと。また、そのような交渉ごとが苦手な人たちに見えた。赤字体質は近年著しい。ある年が赤字でも、翌年は黒字で取り戻すことが以前はよくあった。だが昨秋の上演時点で、赤字は5年続き。「これはもう乗り越えられないのか」と半ばあきらめつつ、今年の上演を決めたという。
輪を掛けたのが消費増税の流れ。民主・自民・公明の3党合意で消費増税の方針が固まったのは昨年8月。この時、女性役員は「個人的にはこれでもうダメだと思った」と振り返る。
町の人口構成を調べて、驚いた。87年に1万2千人を超えていた人口はその後3割減った。だが、65歳以上は6割近く増え、現在の高齢化率は4割を超す。これでは、5千円以上の入場券は手控えるはずだ。首都圏・中京・京阪神の大都市以外なら、どこでもたどるであろう先端を、町は突っ走っている。
今月24日の最終上演は竹下景子や宇梶剛士の「あとは野となれ山となれ」。意図した訳ではないが、皮肉な演目だ。
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