2013年11月22日22時12分掲載
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国際
【北沢洋子の世界の底流】メルケルはなぜ盗聴されたのか
NSAがなぜ彼女を、02年以来10年以上も、盗聴対象にしてきたのか。さらに早くから「宰相」と呼んだのか。メルケルは東独出身のパットしない政治家だった。当時野党だった「ドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)」の 党首になったのは2000年だが、首相に就任したのは05年であった。NSAは野党時代のメルケルが、将来首相に就任するのをどうして予期していたのか。さらに、メルケルは、野党党首時代、ブッシュ政権のイラク侵攻を声支持した。金融危機が始まると、EUの中でドイツだけが優等生。なぜこのように親米な政治家の盗聴をしたのか。
1.スノーデン氏、NSA の盗聴データを暴露
米国の国家安全保障局(N.S.A.)に契約職員だったエドワルド・J・スノーデン氏がNSAの不正なスパイ行為を告発し、局の膨大な通信データを公表した。それは主として、各地の米国の大使館が本国の国務省に送った通信文であった。それには、同盟国との外交関係を悪化させるものが多くあった。
2.メルケル首相がオバマ大統領に直接電話で抗議
さらに最近になると、NSAのスパイ問題は新たな段階に入った。
新しいスノーデン・ノートが発表された。それはNSAが世界の政治指導者の携帯電話を盗聴していたことが、判明したのであった。その中に、ドイツの「メルケル首相の携帯を長年にわたって盗聴していた」という記事が、ヨーロッパで最大の発行部数を持つドイツの『デア・シュピーゲル』誌が報じた。
メルケル首相は激怒し、10月23日、直接ホワイトハウスのオバマ大統領に電話で抗議した。彼女は、「もし盗聴が事実であるならば、長年の信頼関係を損なう行為だ」と言ったという。
NSAの盗聴については、ドイツの諜報機関が調査しており、確実であることが証明されている。ドイツの首相がホワイトハウスに直接抗議するという「異例」の措置を取るには、十分な物証を持っていると考えられる。あるドイツ政府の高官は、「もし、メルケル首相の携帯の盗聴が続けば、ドイツ国内での米企業の権益が損なわれるだろう」と語った。
フランスもまた、携帯電話が盗聴されていた。フランスの場合は、民間人が多かった。『ルモンド』紙によれば、NSAは、昨年12月10日から今年1月8日にかけて、フランス国内で7千30万件の通信記録を収集したと言う。NSAは、これをイスラムの過激派の調査であったと言う。ファビウス仏外相が非難を強め、米国への釈明を求めた。これに対して、オバマ大統領のほうからオランド大統領に直接電話して釈明をした。
また、10月31日付けの『ワシントン・ポスト』紙は、NSAは英国の情報機関と組んで、グーグルやヤフーのデータを結ぶ通信回線に侵入し、通信を傍受していた、と報じた。
当初、NSAの盗聴対象は38件と報じられたが、メルケル首相の携帯盗聴が暴露されて以来、対象はドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ギリシャなどの35人のEUの首脳や、日本、韓国なども含まれており、国連、米国内など世界的な大規模盗聴事件に発展している。
これまで、スノーデン亡命に冷淡だったEUは、首脳の携帯盗聴事件をもって、本腰を入れて取り組み始めた。米・EU関係が新しい段階に入ったと思われる。
3.なぜメルケルを長期にわたって盗聴したのか
これには2つの疑問がある。その第一は、NSAがなぜ彼女を、02年以来10年以上も、盗聴対象にしてきたのか。さらに早くから「宰相」と呼んだのか。メルケルは東独出身のパットしない政治家だった。当時野党だった「ドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)」の 党首になったのは2000年だが、首相に就任したのは05年であった。NSAは野党時代のメルケルが、将来首相に就任するのをどうして予期していたのか。
さらに、メルケルは、野党党首時代、ブッシュ政権のイラク侵攻を声高に支持した。米のアフガン侵攻も声高く支持した。また金融危機が始まると、EUの中でドイツだけが優等生で、債権国だ。
なぜこのように親米な政治家の盗聴をしたのか。
第2に、オバマは、メルケルに、盗聴を「私は知らなかった」と答えた。果たして本当に知らなかったのだろうか。そして以後、止めさせると言った。このことを、ホワイトハウスのライス国家安全保障担当官も、現在盗聴していないし、今後もしないと語った、しかし、オバマもライスも過去には言及しなかった。
オバマ大統領は、「NSAの盗聴を知らされていなかった」と言う。
『スピーゲル』紙によると、盗聴はベルリンの米大使館で行われている。米大使館はベベルリンの中心部ブランデンブルク門に近い。
NSA要員は大使館で外交官の資格を持っているが、大使館の指揮系統から外れている。独自の建物を持っている。「中央情報局(CIA)」が屋外で、現地のスパイを雇って、情報収集するのに比べて、NSAは屋内でハイテク機械と向き合っている。
このような独立性と機密性が、同盟国の指導者の携帯電話を長期にわたって盗聴するという暴走行為に発展して入ったのであろう。
4.NSAのスパイ行為が国際問題に
米NSAのヨーロッパでの盗聴疑惑が次々と明らかになるにつれ、オバマ大統領は苦境に陥っている。EU議会は、10月29日、NSAの盗聴疑惑を調査する代表団を、米国に派遣した。
10月29~30日、米下院情報委員会は公聴会を開き、クラッパー国家情報長官とNSA長官のアレキサンダー将軍を召喚した。
クラッパー長官は、外国の指導者の情報収集は正当だと答えた。そして、外国の指導者の携帯をスパイすることは「可能だし、今後もする」と答えた。
アレキサンダー長官は、ヨーロッパでの大規模な電話やメールの傍受を否定した。
米議会では、超党派で、海外でのNSAの情報収集活動を規制する法案を提出した。オバマ大統領側も友好国でのスパイ活動を抑制するというポーズを見せている。
今は米・ヨーロッパ間で焦点になっているのは、ホワイトハウスがどこまでNSAの活動を知っていたか、という点である。オバマ大統領は、NSAのスパイ行為を知らされてこなかったことを怒っている。
一方、ヨーロッパ各国の動きも見逃せない。早くから、EU議会は、「プライバシイ法案」を審議してきた。これはヨーロッパで活動するハイテクの米企業に影響するものであった。したがって、米企業はこの法案に反対するロビイ活動を行ってきた。グーグルやヤフーに言わせると、この法案によってグローバルな収益の5%、つまり年間1億ドルの損失を受ける、と言う。
EUの首脳会議の後で、日頃からプライバシィ法の熱烈な支持者であるビビアン・レンディングEU議会の副議長は、「フランス、イタリア、ポーランドが、14年内の成立を主張している」と語った。
国際問題評論家
Yoko Kitazawa kitazawa@jca.apc.org>
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