2013年11月27日21時26分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201311272126203

コラム

「ベニスの商人」 に見る、特定秘密保護法と違憲立法審査

  国民の過半数が反対しているか、もっと長い時間をかけた審議を求めていたあの特定秘密保護法案が衆議院で可決された。残るは参議院の審議のみである。しかし、もし参議院を通過したとしても、憲法に反する法律を審査する権限が裁判所には与えられている。特定秘密保護法は国民の知る権利を侵害する意味で違憲ではないのだろうか。 
 
  最も肝心な点は国が秘密を持つことなのではない。国とて秘密を持つことはあるだろう。しかし、何が秘密なのか国民が知ることができないことが違憲だと思われるのだ。何が秘密かわからなくて、しかもそれと知らずうっかりアクセスしようとして重罪に処せられる、というのでは秘密ではない情報にも実質的にアクセスすることができなくなる。その意味で、特定秘密保護法は憲法で保証された国民が知る権利を侵害していると考えられるのだ。このことで想起されるのがシェイクスピアのあの名作である。 
 
  シェイクスピアの戯曲「ベニスの商人」の中に、有名な1コマがある。高利貸しに金を返せなかったら「胸の肉を1ポンド切り取っても良い」という証文を書いたベニスの商人、アントニオーのケースである。アントニオーは船が難破して積荷を失ったために、高利貸しのシャイロックに金が返せなくなってしまう。そこで証文通り「胸の肉1ポンド」をシャイロックは裁判所で要求する。胸のどこでもいいわけだから、心臓をナイフで切り取られて失えばアントニオーは死んでしまう。そこで法律家になりすましたポーシャという娘がアントニオーを救うために思いついたのが次のような言葉である。 
 
  「よろしい、胸の肉1ポンド切り取るが良い。ただし、血を1滴でも流したら、処罰する。よいな。胸肉1ポンドと書かれてあるが、血を取ってよいとは書かれていないからだ」 
 
  アントニオの<胸の肉>に相当するものが「特定秘密」であり、<血>に相当するものは特定秘密以外の政府・省庁が保有する情報である。国は「特定秘密」については秘密にしてよいが、「特定秘密」以外の情報への国民のアクセスを妨害することは許されないはずである。しかし、「特定秘密保護法案」は何が特定秘密か国民が知りえないのだから、特定秘密以外の情報にもアクセスできなくなってしまう。常識があれば、子供にでもわかる理屈である。これは憲法に違反する法律なのである。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。