2013年12月25日01時57分掲載
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沖縄/日米安保
戦争と医療保険費
解釈改憲によって集団的自衛権を行使した場合、自衛隊が海外のどこに派兵されるかは、時々の状況によるだろう。日本の場合、安保条約を結んでいる米軍と協力する可能性が高いと見られている。米軍は今年、シリア戦争直前で踏みとどまったが、債務危機がまた話題になるであろうように財政的には戦争どころではなくなっている(*年末の与野党財務委員会の妥協で軍事費は増強し、Medicareなど他の財源を大幅カットすることになりそうだ)。軍事予算で削れるところは核兵器であれ削減したいところなのだ。しかし、年々額が増加していて、削減不可能なものがある。それが米軍人に対する医療保健費である。
「米軍の医療保険費は過去10年間で年間190億ドル=1兆6150億円から、500億ドル=4兆2500億円に増加している」(2010年8月)
米軍人の医療保険費が10年間で3倍弱に激増しているのだ。
この10年に米軍に何が起きたかと言えば言う間でもなく、テロとの戦争である。アフガニスタンとイラクにおける戦争である。米軍が圧倒的な兵力でタリバン政権やサダム・フセイン政権を倒しても戦争が終結することはなく、テロとの戦いは終わることがなかった。
イラクでは車などに仕掛けられた爆弾で重傷を負う米兵が後を絶たなかった。イラクのゲリラは米兵をなるだけ殺さず重度の傷を負わせる兵器を多用するようになったと報じられた。その結果、命を取り留めたものの、脳や全身にダメージを受け、自立が難しい負傷兵を多数生み出している。これが医療保険費の激増に関係している。
これらの負傷兵は病院から退院しても厳しいリハビリを続けていかなければならない。だから家族の協力も不可欠となる。並大抵のリハビリではない。脳がダメージを受けるケースが増えているからだ。高次脳機能障害となると、人格自体が昔の知っている家族とは異なる可能性もある。殺さず重度の障害を与える爆薬の使用はこのように兵士だけでなくその家族をもまた巻き込んでいく。持久戦になった場合、負傷兵のいる自治体はこれらの人々をどこまで支援できるだろうか。すでに多数存在するわが国の高次脳機能障害の人々ですら、そのサポートの大半は家族の手によってなされるのみである。高次脳機能障害の家族を持った親が疲労して命尽きるケースは多数報告されている。戦争はそうした家族を増やしてしまうだろう。
映画「日本国憲法」を監督したアメリカ人のドキュメンタリー映画監督ジャン・ユンカーマンさんは日本が改憲したら戦争は簡単に始まるようになるだろうという。しかし、終わらせることはとても難しい。
「9条みたいな歯止めがなければ、戦争は簡単に始まるものなんです。でも、終わらせるのは大変ですよ。イラク戦争を始めて半年たったら戦争に意味がないことが判明しましたが、それから終わらせるまでに10年もかかったんです。その間に帰還兵の半分に当たる86万人が病院にかかっています。またPTSD(心的外傷後ストレス障害)は26万人に上っています。帰還兵の自殺率がとても高いのですが、その帰還兵を迎える家族もまた崩れているのです。」
ユンカーマンさんによると帰還兵の自殺率はおよそ80分に1人。換算すると1日およそ18人、1か月で500人、1年で6000人になるという。これは米兵がイラクで戦死した数よりもはるかに多い。
オバマ政権は将来的に米軍の軍事費をなんとしても削減したいのである。その金をメディケアなどの社会福祉政策に回したい。だから、その任務が日本の自衛隊に期待されているのかもしれない。だがテロとの戦いには終わりはない。恨みを持った人間が殺せば殺すほど生まれてくる。しかも一度テロとの戦いを始めたら、必然的に世界各地で敵を作ってしまうから、皮肉にも国民がテロ被害にあう確率が高くなる。米国が始めたこのような出口のない「テロとの戦い」に日本人が参加することが自民党と公明党の悲願なのである。テロリズムの原因を改善することには目を向けず、戦うこと自体が自己目的と化した愚かな戦争としか言いようがない。このような戦争に与党は日本人を巻き込むつもりなのだろうか。
平和なデモの参加者をもテロリストと見なす傾向があるように、テロリストの定義すら曖昧かつ非常識に拡大されている。このことはテロとの戦いに終結がないであろう可能性を垣間見せている。テロとの戦争で使われたミサイルも高額で軍事予算は消費されるだけである。米軍はパキスタンで日夜無人攻撃機ドローンを飛ばしてテロリストを爆撃している。テロと無縁の人々が日々巻き添えを食って殺されている。
戦争は始める時期を決めることができても、終わる時期を決めるのは相手あってのことだ。このことは最も真剣に、冷徹に考えなくてはならないことだ。相手はなるだけ自国に有利に交渉をしたいから、優勢になるまで戦争をやめようとしない可能性がある。真珠湾攻撃の場合も、日本軍は短期間で休戦することを期待したが4年の持久戦になってしまった。それでも国相手の戦争であれば交渉で終結させることができる。しかし、テロとの戦争には終点が見えない。米軍のテロとの戦いに参加することで、民間の日本人がテロの被害にあうリスクが逆に高まるだろう。
前回の戦争、太平洋戦争のケースは象徴的である。民間人だった杉山千佐子さんは名古屋大空襲で被弾し、片目を失った。九死に一生を得たものの女性にとって一生を左右する大きな傷跡だった。自殺を何度も考えたという。杉山さんは全国戦災傷害者連絡会を立ち上げ、民間人の戦争被害者にも国は補償をせよ、と戦時災害援護法の制定を訴えた。杉山さんは毎年国会に法案を持ち込んだが26年間、却下され続けた。
「軍人には雇用関係があるから補償もする。民間人には雇用関係がないから補償できないという。それならどうして国民を死に追いやったのですか?」(杉山さん)
杉山さんのケースを考えると、将来たとえテロとの戦いで負傷した自衛隊員への医療保険費が支給されても、民間人の負傷者に補償が出るとは考えにくい。国外で被害にあおうと国内で被害にあおうとだ。
戦争がいつまでも終わることなく継続すれば日本経済は疲弊していく。儲かるのは軍需産業だけである。これはまさに米国がこの10年に歩んできた道である。かつて世界で最も豊かな国と憧れられた米国で5000万人近い人々が食料の配給を受けている。病院で治療を受けられない家族も多数に上っている。解釈改憲で米軍の肩代わりをして、戦争になれば軍需産業は活気づくだろう。しかし、その道は長期的には日本の疲弊への道に他ならない。これが本当に愛国の道なのだろうか。
■2011年11月の記事から。
今年8月初旬に決められた財政難に対する議会の取り決めで米国のペンタゴンは軍事費を今後10年間で4500億ドル以上削減しなくてはならなくなった。レオン・パネッタ国防長官のもと、現在削減プランが作られようとしているが、11月23日までに民主・共和の超党派議員で構成された財政削減のための委員会で承認されなければ、4500億ドルに加えて、さらに今後10年間で5000億ドルの削減が課せられることになっている。ニューヨークタイムズが報じた。
米国防予算は2001年9月11日のテロ以来、予算が倍増し、現在では年間7000億ドルに上っている。これが今日の財政難の元になっている。
削減案として、以下のようなことが検討されているという。
・欧州からの兵員引上げ
(ただし、オバマ大統領の方針はアジアにおいてはむしろ強化していくそうである。)
・兵員削減
・基地の閉鎖
(各地の基地関連の雇用は議員たちの地元の票田になっており、議員たちの反発は強いという)
・イラク(今年いっぱい)とアフガニスタン(2014年末まで)からの兵員引上げ・・・ただし一定規模は湾岸にとどめておきたいとする。
・核兵器の削減・・・最低必要なのは何発か。
イラクとアフガニスタンからの撤退で、最初の5年間で1700億ドルの削減はすでに見込めるという。頭を悩ませているのは残る2800億ドルをどうするか。
■アメリカの軍事費(2010年)
去年(2010年)はロバート・ゲイツ国防長官が軍事費削減に汗を流していた。アメリカの国防予算はなんと国家予算の20%も占めるのである。
「16日付けのインターナショナルヘラルドトリビューン紙の社説に軍事費削減を試みるアメリカのロバート・ゲイツ国防長官の話が出ていた。
社説によるとペンタゴンの予算は過去10年で倍増し、今や年間およそ5500億ドルにまで上っている。現在のレート1ドル=85円で計算しても、46兆7500億円に相当する。これにイラクとアフガニスタンの1年間の戦費、合計1590億ドル=13兆5150億円を加算すれば、年間60兆265億円にも上る。これはアメリカの国家予算の20%にも上ることになる。
兵器生産や事務費の削減のほか、たとえばバージニア州ノーフォークの統合軍司令部(Joint Force Command)を閉鎖することも検討している。しかし、こうしたものよりゲーツ長官にとって重要、かつ難しいのは米軍の医療保険にかかる費用の削減だという。米軍の医療保険費は過去10年間で年間190億ドル=1兆6150億円から、500億ドル=4兆2500億円に増加しているからだ。」
■企画 「イラク戦争の傷痕〜増える脳損傷者〜」
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