2013年12月28日21時08分掲載
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文化
【核を詠う】(136)『短歌研究２０１４短歌年鑑』の年間歌集から原子力詠を読む(1) 「線量に日々をかこまれ福寿草ののぞくフクシマ三年目なり」 山崎芳彦
月刊短歌総合誌「短歌研究」(短歌研究社発行)12月号は2014年短歌年鑑として編集されている。当然、2013年の短歌界を回顧し、また展望する内容となっている。特集座談会「3・11から2年、震災詠を考える」(司会・佐佐木幸綱)では東日本大震災・福島原発事故にかかわっての短歌会の特徴として、現代歌人協会が『東日本大震災歌集』を出版したのをはじめ、短歌結社の「歩道」が『歌集平成大震災』を刊行、宮城県歌人協会が『東日本大震災の歌』を刊行するなど歌人団体がアンソロジーを企画出版したことを挙げている。（本連載の中で、『東日本大震災歌集』、『歌集平成大震災』から、原発にかかわる作品を読ませていただき、記録した。）
3・11以後ということが、この国、社会で様々に強く意識され、現実を生きる人間にとって無関心でいられない中で、当然、短歌界、詠う人々やその団体も、それぞれ濃淡はあっても揺さぶられてきたということだ。
また、短歌界の中で東日本大震災・福島原発事故を詠うことをめぐって、「当事者、非当事者」の議論、歌うテーマ、主題などさまざまなことが、改めて論議されたことなどについても話されている。その中で、特に当事者・非当事者という議論について、座談会に出席している三枝昂之が震災・原発事故の体験者と非体験者（司会の佐佐木は「被災した人と、その外側にいた人との関係とか、フィクションがどういう位置になるんだろうかとか、そういう短歌の状況にかかわる多様な問題が出てきたと思いますけれども。」という提起をしている。）ということについて、
「今回のその当事者、非当事者というような議論がどうして起こったんだろうと、僕にはすごく不思議に思った。今栗木（京子）さんが言ったようにあまりにも体験者と非体験者の落差が大きいし、それからこちらはどこか後ろめたさがあるしというような複雑なことが絡んでいるように思うけれども、関東大震災のときにこういう問題はなかったと思いますよ。阪神淡路大震災でもそういう議論はなかったと思いますし、朝日新聞社がアンソロジーを作ったときに、むしろ当事者ではない者が謳うということが歌の問題としては大切だというようなことが、当然のようにあったと思うんだけれど。だから僕は今回、とても不健全な議論が行われたというふうに思っていますね。」
「確かに、短歌の問題として、レトリックが優先しているのはどうかと議論されるのはいいけれども、当事者と非当事者という問題は僕は無いと思うんですよ。／一番典型的な例では、大口玲子さんは疎開したわけですよね、高木佳子さんは疎開しないで福島に留まった。だけど大口さんは疎開した者ならではの苦悩があって、高木さんは留まった者ならではの母親として問い詰められるような苦悩がある。僕らは直接関わっていないけれども間接的な関係はいろいろな形であるわけで、それぞれの立場ならではの切実さがある。そういうふうに考えるから、当事者と非当事者というのは、僕はすごく不健全だと思うんです。」(この連載の中で、大口さん、高木さんの作品も読んできている。 筆者)
三枝の発言だけを引用するのは、座談会全体の議論を紹介する事にならないが、筆者としては、三枝の発言に共感した。3・11というとき、大震災、大津波による被害と同時に福島第一原発の壊滅的な事故は密接に、しかも複雑に結びついている。地震、津波の被害の深刻さ、大きさに加えて原発事故の被災ということを考えるとき、さらに原発列島化しているこの国に住み、生きて詠っているなかで、東日本大震災・原発事故について当事者・非当事者という議論は「不健全」だし、不毛で有害であるのではないかと思う。
筆者は12月22日の「原発再稼働反対・国会大包囲」の行動に参加したが、この日も含め原発立地地域をはじめ全国各地で多くの人々が脱原発、原発ゼロの社会をめざして、年明けにも安倍内閣が原発を維持推進し、原発再稼働を加速するばかりか、建替えや新増設を容認する「エネルギー基本計画」を閣議決定する方針であることへの強い抗議の意思を表明している。
何をどのように詠うかは自由であり強制されないのだが、詠う人々も3・11とその後のこの国、我々が生きている社会について、当事者として向き合うことが大切だと考えている。
これはかつての強権政治、戦争の時代に歌人がどのように歌わなければならなかったか、歌ったか、あるいは歌えなかったかの歴史の教訓だろう。いま、そのようなことを思わないではいられない時代の現実に生きているのではないだろうか。特定秘密保護法、表現の自由を抑圧するような政治家の発言、国民の意思を無視する原子力政策。国会前に立ちながら、厳重に警備体制を敷き、道路の通行を一方的に制限する警察官の威圧的な姿の背後にいる権力者の明日、明後日、これからの振る舞いを考えていた。冬の冷たい風が吹き付けていた。身震いをした。
『短歌研究』の短歌年鑑には、「2013総合年刊歌集」が付されている。これは、「短歌研究社編集部に於て寄贈を受けた短歌総合誌及び全国結社短歌雑誌等に掲載のものより選出」した作品に加え、「平成25年度に於て本社に寄贈を受けた私家版歌集等を刊行された作家については、歌集より2首を基準として採録」して作成した歌集である。(全国歌人4300余名の2013年度作品)
この歌集の中から、原子力に関わって詠われた(筆者の読みによる)作品を詠ませていただく。読み違いがあったらお詫びしたい。(作品は50音順に排列されている)
短歌研究社「2013総合年刊歌集」より。� �
▼福島のいづくより来るこの声は死の影のさす域にし堪へて
(阿木津 英)
▼復興に繋がるという若布買い酷寒の海おもう店先
野草らを育て得ざりし悔い残り春夏秋冬焦り過ごしぬ
(安部洋子)
▼バス路線に御庄橋あり岩国は御庄博実のふるさとなれば (相原由美)
▼節電といわれ国中素直なり日本人の可愛さ怖さ
子らの打つ復旧ばやしの軽やかさ太鼓の音は春光ゆらす (青木栄子)
▼雪降らし野の潤ふに自から福島に神気充つと言はむかな (青木祥太)
▼再稼働反対の声夕暮るる吉祥寺にて聞こえきたりぬ
水清き井の頭公園歩みゐて色も匂ひもなき毒想ふ (青木春枝)
▼地図のうへ浦底断層ふとぶととふるさとの町の先行きゆさぶる
ふるさとよりの声は原発のことばかり 今日は雪の便りがとどく
ふるさとの原発銀座その上に寒の三日月ひえびえと照る (井上洋子)
▼人権てふ退路がありて原子力むら人いよよ謎深めゆく (猪口新一)
▼傾きしトタンの屋根に生る雑草そのままにして二年経たり
震災の跡など嘘のごとくにてつね往く道は家並整う (池田桂一)
▼目的のようやく見えて短歌フォーラム開かれし所福島に居り
市街見渡す高き場に仮設住宅二百戸静まり在りき 突風吹きぬ
(石本照子)
▼セシウムの不検出の紙片添へ生椎茸の箱詰め届く
ま青なる檜葉の代はりに椎茸の出自正しきを示す書付け
箱詰めの椎茸褐色の耳を伏せ不安の嵩のごとくひしめく
ふた冬を仮設住宅の友の賀状ふとき文字にて「必ず帰る」
(磯田ひさ子)
▼原発の事故より逃ぐる訓練とぞ 逃げおほせると信じてゐるのか
(市野ヒロ子)
▼堂々と反原発を詠みたるに歌集を作る電気は別か
理性ある岡井隆は放射能恐れずあれば除外例なり (岩井謙一)
▼放射能濃度マップにひしめきて緋の色濃ゆく咲く彼岸花 (植松法子)
▼たわ易く想定外と言うけれど核は素直に反応したまで
原子力を手に入れしより人類が最も危うき絶滅危惧種
禁断の木の実食べたる原罪に今また人は核を喰みおり (植村隆雄)
▼かの牛の舌は輝き黒かりき牛舌喰ひつつ何故思ふ
吹き飛びし原発に掛ける冷却水漏れて海へ流るるは必然 (内田 弘)
▼フクシマと口にするたび唇に装ひありて少しこはばる (江国 梓)
▼なかなかに除染進まぬ福島に鬼子ならんかイノブタ殖ゆる
(遠藤タカ子)
▼斑濃なす放射線量かへれざる十六万人 年あらたまる
いまごろは鮭のくるころ川底の瓦礫も聞くやその水しぶき
ふたとせを過ぎておもへば見しものは災禍にあらず人のこころぞ
(遠藤たか子)
▼制服のワイシャツに透けるＴシャツの「脱原発」の背を見送る
(小川真理子)
▼列島を覆う放射能がその空に鶯の声いまだ幼く
震災二年福寿草につづき梅の木も蕾開きて初場所初日 (小木 宏)
▼原子炉よりいづくと知れずひたひたと核汚染水流出熄まぬ
見えず匂はず隠蔽権力に護らるる放射能疑惑をおほふ沈黙
ナチ収容所の門に重なり＜原発で明るい未来＞の標語錆びをり
(緒方美恵子)
▼みそ汁のよどみにしずみゆくわかめ除染は済んだと母は笑えど
(大井 学)
▼原発再稼働もＴＰＰも増税も「決める」政治で強行される！
(大江喜一郎)
▼東電本社原研東海気象台兵士めきたる係累ありぬ (岡しおり)
▼電力は欲るが汚染土は要らざると声高なりし暑き夏終ふ
原発も基地もなき地に住みふりて今朝は茗荷のむらさきを摘む
体育の時間なるべし小学生らつちあたらしき校庭走る (岡崎康行)
▼水爆の犠牲になりたる男の碑をかき抱くごと紅やぶつばき
館内に巨体をさらす 「福竜丸」木肌も粗く年古りにけり
(女屋かづ子)
▼人間の生みきたる負ひ原発のいまし是非問ふ余白のありや
脱原発 悲願であれば省エネも自らにして門の灯を消す (笠原さい子)
▼とうのむかし収束宣言したはずを好転遠し汚染水漏れ
放射能高き原子炉建屋へと三顧の礼もてロボット招く (片山昭子)
▼花を追い北の三春の滝桜もう葉桜の空の口惜し
腰痛にストレス加わる当然の筍三つ目の皮を剥きつつ (勝井かな子)
▼遠く来て原爆の跡長崎に戦のあとを我一人ゆく (川名守之)
▼信夫山除染中とぞ大鴉小鴉どこのあたりにゐるや
福島の報道福島に来て聞けり薄灰色の朝日が覗く (北神照美)
▼被災者を棄民にすなと声上げし女性政治家搦め取られぬ (北沢郁子)
▼醒めやすき人工の惨原爆や絨毯爆撃 鬼哭啾啾 (久瀬昭雄)
▼旧友がフクシマ勤務という賀状おせちテレビは観るに及ばず
(久保田守一)
▼カリカリと土を削りて活断層検証してをり日本国中 (工藤邦男)
▼四つ切の大根ひとつ食べし後 皿の上には放射能標識
もう二年まだ二年なり反省も処罰もなくて原発再稼働 (小池静子)
▼原発を廃めよ節電せよという列島いづこも自販機ともる (小島さちえ)
▼原発の稼働認める友人につとめて声をおとし対いぬ
経済の成長なくば・・・・またもどる彼は拠りたるその一点に
除染とは水で無理やり線量を他の地点に付け換えること
線量に日々かこまれ福寿草ののぞくフクシマ三年目なり
蕗の薹を目に探しつつ線量は川の向こうが高いといえり (小高 賢)
▼核軍備せねば国土は護れぬの考へにｎoと頭を振らう (小竹正文)
▼隕石か核弾頭か原子炉禍陸も危ない海も危ない (小林 功)
▼霜柱除染の土を持ち上げて針千本に例年のごと (小林シゲ)
▼むき出しの原子炉冷やすことも得ず＜安全・安心＞の五輪を唱う
(小山尚治)
▼匂ひなく眼にも見えなき放射能の百粁離るるここまで汚すか
オール電化に抵抗なき暮しを省みて立ち上がるべし原発はいらない
(国府田婦志子)
▼原爆忌と原発忌を読み違えたり冷えたスチール机の上に (駒田晶子)
▼時間軸止まりしままの夏を容れ平和公園秋を紅葉す
われら金沢に十八歳の青春期深く広島を想わざりき
涙目で被爆展示を見る友に頷きガイドすわれ広島人 (近藤道子)
次回も引きつづき読み継いでいきたい。 (つづく)
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