2014年01月08日16時36分掲載  無料記事
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検証・メディア

【ネットとプライバシー】 お店を通り過ぎるだけで無線ランで情報収集

 ここ1−2年、インターネットの便利さと個人情報の保護とのバランスについて、思いをめぐらせるようになった。 
 
 昨年、拙ブログ「英国メディアウオッチ」に書いたネットとプライバシーに関するエントリを転載してみたい。(ロンドン=小林恭子) 
 
*** 
 
 
 WI−FI(無線LAN、ワイヤレス)機能は非常に便利で、私も自宅で複数の電子機器をこれでつないでいる。 
 
 しかし、目には見えないWI−FI情報から、他者がさまざまな情報を収集することが出来る。 
 
 この点を改めて気づかせてくれたのが、米ファッション小売チェーンNordstromのWI−FI情報を利用した顧客サービスだ。 
 
 テクノロジーに詳しい人にとっては、今更のことだろうけれども、一部始終を紹介してみたい。 
 
 英ニュース週刊誌エコノミスト(2013年7月21日付、ウェブサイト)によると、Nordstromは、12年10月から、数ヶ月にわたる実験として、米国内の17の店舗に入った客や通り過ぎた人が持っていた、WI−FI機能付のスマートフォンやそのほかの電子機器から端末識別IDや位置情報などを収集し、店舗内外での人の動きを調査していた。 
 
 5月上旬、Nordstromは情報収集を公にし、テレビ局が報道した。ダラス州のノースパーク店では、入り口に調査の旨を告げるお知らせの紙が出されており、希望しない人はスマートフォンなどの電源を切るように書かれていた。 
 
 情報収集の技術を提供したのはユークリッド(Euclid)という企業である。 
 
 テレビでの報道後、Nordstromは作業を停止してしまった。 
 
 7月になって、米ニューヨーク・タイムズがこの件を取り上げた。 
 
 この記事には記者が取材をした動画がついている。この記事の上の写真はサイトのスクリーンショットだが、緑色の線はスマホなどを持っている人の動きを示す。 
 
 さまざまな店舗が人の動きについての情報を収集しているのは、考えてみれば、私たちはすでに知っている。店舗内の監視カメラは珍しくもない。 
 
 しかし、改めて情報収集の一端を知ると、驚いてしまうのではないか。 
 
 動画の中で紹介されているのは、先の米小売のようにスマホなどのWI−FI機能から情報を収集するサービスを米シスコが提供し、コペンハーゲン空港で使われている例だ。 
 
 また、Nordstromと同じユークリッド社のサービスを使う米カリフォルニア州のフィルズ(Philz)・コーヒーは、何人の客が店舗内に入っているかという情報によって、サービスの向上に役立てている。 
 
 店舗内に設置されたカメラが撮影した動画を分析し、顧客(男性か女性化、大人か子供か)がどこにどれぐらい滞在したかを調査するサービスを利用しているのがリテール・ネクスト社。WI−FI機能を持つスマホを持つ人が来店した場合、たとえWI−FIにつながっていなくても、スマホは自動的にWI−FIにつながろうとアクセスポイントを探すので、顧客の位置情報を収集できるという。 
 
 それぞれの携帯機器には個別の認識コードがついているため、ある客が2度目に店舗を訪れたことや、どのぐらいの頻度で訪れたかなどが分かる。 
 
―洗練化されたカメラ 
 
 ニューヨーク・タイムズの記事によれば、人の動きを監視するカメラの性能はどんどん進化しており、顧客が店内で何を見ているのか、どんな気分だったかまでを記録できるという。 
 
 英企業リアルアイズは、ネット上の広告を人がどのように見ているかなど、顔の表情に関する情報を収集するサービスを提供しているが、リアルの世界では、実際に店舗を訪れた人が、チェックアウトのレジでどんな表情をするのかを分析している。 
 
 ロシアのスタートアップ企業シンケラ(Synqera)は、顔の表情を基に、性別、年齢、気分を察知し、それぞれ異なる広告メッセージを提供するソフトを開発している。 
 
 小売店に電話番号などの個人情報を提供した顧客がいれば、WI−FI機能を通して得た情報にさらに詳細な情報が加わり、個人に特定したサービスが提供できる。そんなサービスを提供する企業の1つが、ノミ(Nomi)だ。 
 
 「私がメーシー百貨店に入ったとする。入った時点で、メーシー側は私が店舗に入ったことを認識し、私に適した情報を私の携帯に伝えてくれる。まるでネットの書籍小売アマゾンのようなサービスができる」とノミの社長はニューヨーク・タイムズに語っている。 
 
 タイムズ紙は、多くの人が自ら進んで個人情報を提供しているエピソードを最後に紹介している。プレースト(Placed)という米企業が、小売店舗のどこにいるかを利用者に聞いてくるアプリを発売した。自分の位置情報を教える代わりに、現金やアマゾンやグーグルプレイなどのギフトカードなどがもらえる仕組みだ。昨年8月のアプリの発売から、約50万人がダウンロードしたという。 
 
―WI−FI機能で情報収集の仕組みとは 
 
 先のエコノミストの記事が、とのようにして情報収集が可能になるのかについて書いている。 
 
 WI−FI機能がついたスマホ、ラップトップとWI−FIのアクセスポイント(ベース・ステーション)との間には常に情報の行き来がある。端末機器がつながることができるアクセスポイントを探しているからだ。 
 
 その過程で、スマホなどは出荷状態の端末機器の識別IDなどの情報を公に発信している。端末機器が「スリープ」状態になっていても、エコノミストによれば、スピードは遅くなるものの、こうした情報を外に出していることは変わりないという。 
 
 小売店の店舗内にアクセスポイントが設置されていると、これに向かって、端末機器がWI−FIにつながろうとして情報を発信し、機器の識別ID,位置、この機器を持つ顧客がどのように店舗内を動くかなどの情報が小売店側に入る。 
 
 エコノミストによれば、これは今はやりの「小売の科学」(retail science)ともいえるようだ。 
 
 現在、トラッキング(追跡)機能は1990年代と比較して格別に進歩しており、実際に店舗に入らず、ウインドウをのぞいただけでも、その人のスマホの識別IDなどが小売店側は取得できてしまうという。 
 
 WI−FI機能がついた機器は、過去に無線ランにつながったアクセスポイントも通常示すので、普段どこで無線を使っているかも分かってしまう。自宅や仕事場などの情報を得ることが可能になる。 
 
 プライバシーが侵害されていると心配する人も出てくるだろう。7月16日、先のユークリッド社などは、米シンクタンク「プライバシーの未来フォーラム」(Future of Privacy Forum)とともに、WI−FIを使ったトラッキングについて規定を設ける計画を発表している。 
 
 以上、通信関係者には当たり前のこととは思うが、「自覚しないままに情報が取得されている」感がまだまだあるように思うので、書いてみた。 


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