2014年01月12日13時23分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(138)『短歌研究2014年版短歌年鑑』の年刊歌集から原子力詠を読む(3) 「原発の事故責任を問はぬまま我慢を強ふる『絆』と言ひて」 山崎芳彦

 朝日新聞1月6日(月)付朝刊の「朝日歌壇」は、今年に入っての初回になるが、選者4氏が採った作品を読み、少し驚いた。いや、驚くことはないのだろう。短歌を詠む人々がいま深い関心を持ち作品化しないではいられない題材として、特定秘密保護法、福島原発事故を巡る現状があり、多くの作品が出詠され、選者も採るべき作品として選んだということであるのだろう。 
 
 言うまでもなく、短歌作品を作る人は自らの作歌するこころを衝き動かされることで歌を詠むものであるのだから、この紙面に現われた結果は、政治、社会の現状に向かい合って詠う人々がいかに多くなっているか、少なくとも現在多いかを映し出したと考えてよいのだと思う。筆者は、この日の朝日歌壇をスクラップし、大切にしたいし、自身を励ましてくれる作品として鑑賞している。 
 
 秘密保護法も、原子力エネルギーの問題も、今年さらに今後のこの国、社会のあり方にとって目を逸らしていることができない、現在を生きる人々にとっての肝ともいえる問題だろう。それと向き合い、考え、行動する、そのことのひとつに詠うという行為が、詠う人にとっての必然になる、なっていることを、1月6日、新しい年の最初の朝日歌壇から感じた。 
 
 すでに読まれた方は少なくないと思うが、ここに特定秘密保護法、福島原発事故に関わる作品を記録しておきたい。作者、選者にお許しを願う。 
 
 
 ◇永田和宏選◇ 
▼読むことを拒むがごとき小さき文字されど読まねば 秘密保護法 
                            (淵野里子) 
 
▼解っても解らなくても読まねばと全文切り抜く秘密保護法 
                          (太田原イツ子) 
 
▼目隠しされ耳ふさがれておとなしく何も言わない羊たちの群れ 
                            (禿 正美) 
 
▼映像に雨降り続くフィルムあり七十年目の秘密保護法  (中原千絵子) 
 
▼色褪(あ)せし軍事郵便本音など決して書けない赤の検閲   (中村偕子) 
 
▼あの時もっと反対すればよかったと思う時まで生きるのか私は 
                           (菊川香保里) 
 
▼この頃の一番夫と合う話特定秘密保護法反対      (鈴木みさ子) 
 
▼寿限無寿限無むだ口叩かず年寄りは秘密守って長生きしよう 
                            (相原法則) 
 
 
 ◇馬場あき子選◇ 
▼フクシマに生きて千日ふと思うムカシハモノヲオモハザリケリ 
                            (伊藤 緑) 
 
▼わが町を国有化する調査終へ最終処分場となるやも知れず (開発廣和) 
 
▼日本が秘密保護法に暗む日に希望示ししマンデラ氏逝く  (松井 惠) 
 
▼知らされず気づくことなく権力は真実消し得る秘密保護法 
                           (植田正太郎) 
 
 
 ◇佐佐木幸綱選◇ 
▼わが町を国有化する調査終へ最終処分場となるやも知れず (開発廣和) 
 
▼第五列間諜はては売国奴声高に呼ぶ歴史を持てり     (安藤勝志) 
 
▼一原発で古里追われ千余日汚染止まらず帰還当てなし   (荒井正一) 
 
 
 ◇高野公彦選◇ 
▼山宣(やません)の墓にさざんか咲き盛る秘密保護法通す勿れと 
                           (梅原三枝子) 
 
▼秘密保護法マスクの上から酒を飲め耳栓して聞けと言うが如くに 
                            (石井國弘) 
 
▼マンデラ氏死去の報道圧すごと秘密保護法成立の記事   (田中一美) 
 
 以上、1月6日の「朝日歌壇」から多くの作品を抄出させていただいた。朝日歌壇以外の新聞歌壇については、未読なので分からないが、短歌作者の多くの秘密保護法や原発、その他政治・社会の現実を詠った作品が採られ掲載されているのではないかと考えている。これから、読んでいきたい。 
 
 
 「短歌研究2014年版短歌年鑑』の2013年刊歌集から原子力詠を読んできて、今回が最後になる。読んできた作品の背後には、膨大な数の作品群があるはずであり、それは短歌界とその歴史にとどまらず、貴重な意義を持つと考える。この連載で、さらに多くの原子力詠を読んでいきたいと思う。 
 
 
◇短歌研究社『2014年版短歌年鑑』所載「2013総合年刊歌集」より(3)◇ 
 
▼慰霊碑の相生橋を渡る時ふと覗きおり川の面を      (平松敬晴) 
 
▼被曝して錆びゆく線路に添ふやうに時かぞへつつ雑草の生く 
                            (福原安栄) 
 
▼父母のふるさと広島寺町の墓碑並びいて被爆者多し 
 原爆は骨も残さず妹を奪いゆきしがわが中に生く 
 わが母の命奪いし原爆にわれ残されて曾孫授かる     (藤田光子) 
 
▼反核の同志の死をば悼みては忘れ得ずして心に懐う 
 友ありてわれ反核の運動を指導せし様詩があるという   (藤本次郎) 
 
▼飼い主を待ち続けいる犬たちが黙々と生く避難区域地 
 被災地に残されし犬を探しつつフード与える人々のあり 
 日に一度フードを配る人を待ち雪降る中にうずくまる犬  (古川洋子) 
 
▼うねりゆく反原発の声なれど聴く耳持たぬ人には届かぬ  (細井 剛) 
 
▼大熊に生れし言葉とたましひのかたちをしたる落葉をひろふ 
 見つからぬまま老いてゆくみちのくのひとりひとりの死者の息の内 
 見えぬものにて大熊は切り裂かる真土の寒きこゑのきこゆる 
 大熊の土をひたすら耕しし祐禎さんの厚きてのひら    (本田一弘) 
 
▼原発に反対します放射能浴びて毎日暮らしてゐます 
 中国の煙害などは騒ぐけどフクシマの放射能は黙して語らず 
 放射能埋めし公園に桜咲ききのふもけふも花見してをり  (前川 博) 
 
▼除染されし竹やぶの土寒々と葉群ゆらして大寒に入る  (松崎美穂子) 
 
▼被曝せる浪江の寺の緋ボタンに日照雨が白くひかりつつ降る 
                            (松並善光) 
 
▼太平洋に沿ふ国道のカーナビは教へぬ女川原子力発電所 (御園美津子) 
 
▼東京大空襲・東日本大震災 忘却という言葉を消去する 三月 
                            (宮 章子) 
 
▼反原発一般参加の隊列は道中半ばで声揃いたり      (道淵悦子) 
 
▼放射能には放射能をぶっつけろまんがの盛儀にふくらむ男児 
                            (村上照男) 
 
▼すこしづつ福島産の増えてきた食品売場に桃ふたつ買ふ  (森 妙子) 
 
▼世をうつすことばのはての短歌てふ建屋の炉心溶解やまぬか 
                           (森井マスミ) 
 
▼映像の吾がふるさとは浪江町泥田と化して人影もなし 
 二年目の食品測定済みし蕗キャラブキ煮ても皆箸つけず  (門馬 豊) 
 
▼除染作業すすむ校庭の土埃冠り耐えおり風下にあれば  (八乙女由朗) 
 
▼目に見えぬものの厳しきおそれはや風評被害と声には言へず 
                            (山口恵子) 
 
▼被災地は二度目の春を迎ふるに徐々に忘れられゆくを虞ふる 
                            (山口光代) 
 
▼原発の賛否にゆれるふる里にいと美しく桜咲きたり 
 原発のある地に住みて夢見たる未来は希望にあふれてゐたり 
                           (山下喜久江) 
 
▼停止せる浜岡原発発電所核廃棄物処分すべなし      (山下静子) 
 
▼原発の自己責任を問はぬまま我慢を強ふる「絆」と言ひて  (山田泰子) 
 
▼広島の原爆ドームの設計者はチェコの人なりと大使は語る (山村泰彦) 
 
▼宮城県の苺農家の移住せし伊達市で実り努力がもとに 
 福島の学校疎開認むべし危険線量の被曝下にあり 
 汚染灰の最終処分場提案さる国有地なれどもたやすからぬに 
                            (山本 司) 
 
▼旅人とすぐ分かる我らこの町の黒く乾いた海藻を踏む 
 家壁の大きな穴に寄りゆけり割れた茶碗と三毛猫が見ゆ 
 家々の境なくなり向日葵がむらがりゆけりその黒き面 
 石塀の付け根ばかりが残りおり夕べの草に包まれながら 
 無人ゆえ注意されずに入りたり黒黴の浮く職員室に    (吉川宏志) 
 
▼おらが春桜が咲いて季の移りどこの桜も放射能つき 
 放射能汚染の土を取り除く桃の蕾がふくらんでくる 
 捨てられる運命だった君子蘭厳然として蕾を伸ばす    (吉田秋陽) 
 
 
 次回からも原子力にかかわる短歌作品を読んでいく。    (つづく) 


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