2014年01月28日14時28分掲載
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『関西生コン産業60年の歩み 1953〜2013』 労働者と中小零細業者はいかに独占と闘ったか
歴史を書くということは未来に責任を持つことだ。問われるのは、そこで描かれる歴史はいったい誰に何を伝えるのかという視点と立場性、そしてその視点・立場性を支える実証性である。本書はこの二つを踏まえ、未来への見事な伝言となっている。本書を通読してまず感じたのは、このことだ。(大野和興)
「産業史」と銘打たれている本書が描くのは、関西生コン産業で働く労働者が作る労働組合と中小零細経営者で構成される協同組合が共同しての闘争史である。闘う相手はセメント大手とゼネコンという独占資本だが、独占資本の後ろには当然総資本と国家がいる。だから、生コン労働者の闘いは常に反権力闘争の色彩を帯び、猛烈な弾圧にさらされることになる。そこでの歴史の主人公は中小企業と労働者である。本書第1部の序章でつぎのように端的に述べている。
「それは『練り屋』『練り混ぜ屋』『運び屋』という生コン業者に対する蔑称が残る生コン氷塊の中で、大企業に対抗して闘った、近畿二府四県の関西生コン関連中小企業と労働者、言い換えれば中小企業協同組合と労働組合の、涙も汗も血も流した人間たちの苦闘の六〇年の歴史である」
本書は大きく三部で構成されている。第一部は敗戦と戦後復興期から始まる時系列的な叙述。敗戦、復興、経済成長と続く日本の流れと、それを背後で支えて対米従属・朝鮮戦争から新自由主義的グローバリゼーションにいたる世界史的な歴史の流れを踏まえながら労働者と中小企業の闘いの歩みとその時代的な意味が解き明かされる。第二部は、この歴史のもう一つの主役である中小企業協同組合の歩みとその存在意義が語られる。第三部では、関西生コン労働組合(正確には全日本建設運輸連帯労組関西地区生コン支部)と生コン産業を支える中小企業の協同組合の闘いが持つ意味が学者・研究者の実証的で客観的な分析で明らかにされる。
本書を労働組合史とか協同組合史としないで、なぜ「産業史」と銘打ったのか。ここに本書がが提起する課題を解くカギがある。関西生コンの労働者の運動の特質は個々の企業の枠にとらわれない徹底した産業別統一闘争を闘うことにある。闘う相手は独占であることを明確にし、生コン産業で働く労働者と中小事業体が間の前の利害を越えて手を組むことで、産業全体を貫く経済民主主義を獲得する。その民主主義を構成する柱は分配の平等性である。労働組合と協同組合は民主主義と平等性というところで利害と理念が一致し、ここから共同闘争が始まる。
関西生コン労組は二〇一〇年、一三九日に及ぶストライキを打ち抜き、大手ゼネコンを屈服させて大きな成果を上げた。それを背後で支えたのは、この労働組合と協同組合の共同の力だった。本書は、日本の労働運動と協同組合運動の二つの領域で歴史に残る金字塔をつくりあげて来ている、その秘密を知るための基本的文献として位置づけられるだろう。
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