2014年02月06日11時41分掲載
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検証・メディア
ルモンド紙 「日本の公共放送の経営委員が南京の虐殺を否定」 〜報道機関であるNHKに疑問を投げかける〜
フランスの代表的新聞の1つ、ルモンド紙が2月4日、安倍首相の推薦でNHK経営委員になった百田尚樹氏の南京虐殺はなかったとする発言を取り上げた。百田氏は南京虐殺は当時日本と戦闘中だった蒋介石のプロパガンダに過ぎず、そのような事実はなかったと発言した、とルモンドで報じられた。同紙は虐殺はあったとする欧米の研究者の推定数字も合わせて紹介している。
http://www.lemonde.fr/japon/article/2014/02/04/japon-un-patron-de-la-television-publique-nie-le-massacre-de-nankin_4359634_1492975.html
記事の見出しは’Japon : un patron de la television publique nie le massacre de Nankin’である。直訳すると、「日本:公共放送のパトロンの一人が南京虐殺を否定」となる。パトロンとは直訳すると、経営者という意味である。警察署長とか、ボスという意味で使うこともある。だから、これを読んだフランス人はNHKの「ボス」の一人がこうした発言をしたものと受け取るかもしれない。
NHKの会長になった籾井氏の、慰安婦はどの国でもあったという発言もルモンドは合わせて報じた。フランスのルモンドは米国のニューヨークタイムズと並んで自由主義世界でしばしば引用される新聞である。先進国だけでなく、アフリカや中東、あるいは中南米の指導層も目を通す新聞である。それらの国々は互いに関係し合っている。そこでは政治と経済は結びついている。
安倍政権は今、フランスや英米などの西欧軍事大国と兵器製造で協力体制を構築しようとしている。しかし、昨年来、日本の右傾化がたびたび報じられている。日本政府や公共放送が歴史修正主義に積極的に加担している印象を強めている。歴史に対する考え方が逆になった場合、歴史意識の強い欧米諸国との軋轢が近い将来、起こる可能性もないとは言えないだろう。日本政府はフランスと原子力でも協力体制を敷こうとしていたはずである。しかし、こうしたことが続くと兵器の製造協力はおろか、将来、禁輸措置が発動され兵器の部品すら買えなくなってしまうかもしれない。
ルモンドの記事は先月、ダボス会議で第一次大戦を参照しつつ日中戦争の勃発の可能性を述べた安倍首相の発言と響きあうものである。日本政府としては中国の軍事大国化、中国の第一次大戦時の「ドイツ化」を印象付けたかったはずだが、今回の百田氏の「個人的発言」に対する報道によって、現代中国政府に関して抗日戦争中の中国をイメージづけることになった。これはナチスなどの枢軸国に対抗していた同盟国・中国である。こうなったのは百田氏が蒋介石というキーワードを発したためである。この言葉が具体的なイメージを、つまり歴史的記憶のスイッチを彼らに呼び覚ましてしまったかのようである。
百田氏や籾井氏が発したのは自由な個人的発言に違いないとしても、居酒屋でサラリーマンの平社員が話しているのとは違って受け取られているようだ。それらは互いに関連しあい、歴史的な文脈のもとで解釈され、報じられているようである。
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